第48話 ロボ ①

まえがき


今回は部長こと 藤崎 深雪 のお話を書いてみました。

ヤンデレってやつを書いてみたくて彼女を題材にしてみたんですが、たぶんなんか違うwww

しかもやたら長ぇし、その癖に彼女は今後あんま登場しないしで、読者さんには興味ない話でほんとゴメンなんだけど、せっかく書いたので投稿だけはさせてもらいます!

ごめんね!


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私は一人でいる時よりも、大勢の中にいる時の方が孤独を感じる。

話し声、笑い声、笑顔、行き交う目線、それらは全て私の外にある。

教室の中で、私の世界は私の中だけにある。



ロボ。

小学生の時、クラスメイトの男の子が私をそう呼んでいたのを聞いた。

お手洗いからの帰り、廊下から教室に入る直前に偶然聞いてしまった。


「あいつ全然しゃべらないよね、笑わないし、ロボみたい。」


その日の給食は揚げパンだった。

私の一番好きな給食のメニューだった揚げパン。

その日は味がしなかったのを覚えている。



小学4年生の時、両親が離婚した。

原因は父の浮気。

父はピアニスト。

昔から女性関係は派手だったけれど、「音楽家に女性は付き物だから」とあまり気にした様子がなかった母。

父は父で、自宅にいる時はちゃんと家族を優先していたようだし、母や私達に対しても優しくて、不思議にも家庭は円満だった。

でもある日、浮気相手の一人に子供が出来た。

普段、父の浮気に理解があった母でもこの事には激怒した。

その日から喧嘩、というよりも母が一方的に父に怒鳴ったり、暴力を振るう、なんて日々が続いていた。

そんなある日こと、勢い余って母が父の手を傷つけてしまった。

ピアニストである父の手を。

幸い、父の仕事に支障が出る程ではなかったけれど、その日から母は塞ぎ込んでしまった。



「私はもうダメです。このままではあなたを壊してしまう。私の大好きなあなたのピアノが聞けなくなってしまう。もう、終わりにして下さい。」



リビングで母はそう父に告げ、父は悲しそうな目で家族を一瞥した後、「すまない」そう言って家を出ていった。


まだ小学4年生だった私はよく分かっていなかったけれど(もう帰ってこないんだ…)そんな空気を感じ取り、泣いていた。


幼稚園に入ったばかりの、まだ小さかった弟を抱きしめながら。



その日から、母、私、弟だけの暮らしが始まった。

父が出て行った日から、母はよく笑うようになり、まるで最初から父などいなかったかのうように振舞った。

今ならば、母が私達を不安にさせないようにと、無理して明るく振舞っていたのだとは分かるけれど、当時の私はその不自然さが気味悪く感じ、母を避けるようになった。

そしてこれをきっかけに、私はどんどん塞ぎ込んでいき、母だけじゃなく、誰かと親しくする事もやめた。


怖かったのだ。

先日まで父だった人が急に他人になったり、あれだけ荒れていた母が急に明るくなったことが。


人は急に変わってしまうと知った。

たとえそれが、自分の親であっても。

だから、私は何を信じ、誰を信じたらいいのかが分からなくなり、怖くなった。


「嘘ばっかりなんだ」


頭の中で繰り返していた。



唯一、私が昔のままでいられるのは弟の前だけだった。


小学生の私よりもはるかに小さな手を握り『私が守るから』いつもそう呟いていた。


弟だけには頼れる姉でいられるように。

弟だけは私を捨てない人になってくれるように。


そう願って。



「ロボみたい」



その言葉を聞いたのは、私が誰からも距離を置くようになってしばらく経ってからの事だった。

両親が離婚する前、密かに想いを寄せていた男の子の言葉だった。


ショックだった。

でも、嘘つきになるよりはマシだと思った。だから、その日から私は人間を辞めた。



それからというもの、私は一層誰とも関わる事はせず、会話はほとんど「はい」か「いいえ」で済ませていた。

頭の中ではアレコレ考えてはいたけれど、決して口には出さなかった。


だって私はロボだから。


もうこうなってしまうと、誰も私と絡もうとはしなかった。

でもそれで良かった。

誰かに期待するのも、されるのも、私が傷つくのも、誰かが傷つくのも、嫌だったから。

ロボは笑わないし、傷つかないから。


こうして、ロボと化した私の日々は高校2年生になるまで続いていた。



そんなある日のことだった。

高校1年生の後半、青高に進学していた近所に住む里美お姉ちゃんに道で話しかけられた。



「このままじゃ来年は部活が潰れちゃう。私達が送った青春の場所が、卒業したら無くなるなんて寂しいから、深雪ちゃん、ごめんだけど文化交流部に入部してくれないかな?次の新入生が入って来なければ、もう、それは仕方ないからさ、一時の繋ぎでもいいから、お願い、頼めないかな?」



ここが学校じゃないからなのか、お姉ちゃんに久々に話しかけられたことに動揺したのか、その辺りは自分でも分からないけれど、私は思わず「はい」と返事をしていた。


思い返せば、何年も人との関わりを断っていた私は、単純に頼られた事が嬉しかったのかもしれない。


でも正直な話、たとえ私が部活を引き継いだとしても、存続出来る気なんて全くしなかった。

だけど一度引き受けてしまった以上、私は諦めて入部届にサインしたんだ。

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