第55話 文化祭 1日目
『よっこらSetでどっこいShot!』
今年の文化祭のテーマである。
全くもって意味は分からないが、勢いがあって僕は好きだ。
今日から二日間行われる青海高校文化祭。
朝から沢山の生徒、他校生、保護者、近隣住民等で賑わっている。
僕達のクラスで行うのは『クラブA(エース)』といって、DJブースで音を流し、バーカウンターで飲み物を提供するというもの。
そっち系の奴らが薄暗い照明とミラーボールが照らす中で音楽を鳴らし、そっち系の奴らがただただ踊り狂う、という、なかなかに守備範囲の狭い企画と思われたが、年配が入ってくれば流す音楽が盆踊りだったり、子供達が多ければアニメ音楽を流したりと、DJカトゥーの粋な演出のおかげで老若男女皆が楽しく過ごせるアットホームなクラブとなっていた。
ただ、クラスの催しと言っても、スタッフをあまり必要としないクラブAなので、暇になった僕と楓ちゃんは現在文化祭デートに勤しんでいる。
「ニッてしてみ、ニッて。」
ニーッ!
「あははっ何で顔全体にそんなに力むの?重量上げじゃないんだからぁ。ふつーにやってふつーに。」
ニッ
「そそっ。へへ♡青のりいっぱい付けてる♪そのままでいてね?…よし、取れた。いーよ戻して。」
「取っちゃったかー。後でおやつにしようと思ってたのに。」
「やだよ汚いなー!ねー私は?見て?」
ニーッ
「ちゅーっ」
「わぁ♡ちょっとー見られちゃうよ♡あ、私の青のりが夕君の唇に引っ越してる!あはは♡」
「ほんと?後で食べよ。」
「今食べてよ!あはは♡」
「ははっ、ねぇ次は3年生のクラス見よーよ。」
「待って、もうすぐ2時だからさ、体育館に行きたい!吹奏楽部の演奏があるの!」
「いーよ!じゃ行こ。あ、青のり取るから待って。」
「あぶなー。忘れてた。」
ニーッ
「よし、いーよ!行こ!」
「うん♡」
そして、体育館に演奏を聞きに来た僕達。
楓ちゃんは元々吹奏楽部だったので、この曲はあそこが難しくてーとか、誰が作曲でーとか、あの楽器の名前はーとかの話をしてくれる。
正直、全然興味がない僕だけど、嬉しそうに語る彼女が可愛くて、演奏そっちのけで彼女ばかりを見ていた。
すると、そんな僕に気づく彼女。
「もう、ちゃんと聴いてるのー?」
「うん、見てるよ。ちゃーんと。」
そう言うと、顔を赤くした彼女は耳元でそっと「ずっと見ててね♡」と囁いた。
ほっぺにちゅーのおまけ付きで。
その時、僕の中で一際大きくシンバルが鳴ったのだった。
楓ちゃんが帰って来てからは、僕の幸せは青天井にクレッシェンド続きですどうもありがとうございます。
演奏会が終わった後も、僕の中では喜びのファンファーレが鳴り響いていたが、帰りに様子を見に行った部室の光景を見て我に返った。驚きで。
なんと、部室に向かって長蛇の列が出来ていたのだ。
同様に驚いていた楓ちゃんと駆け足で部室に入ると、そこはアイドルの握手会場のような様相を呈していた。
楓「どーなってんの?!午前中と全然違うじゃん!」
友紀「それがさ、みんな気づいちゃったみたい。私のアイドル性に。」
美咲「なんつーか時代?来ちゃった。私の。」
遥「恥ずかしながら、私も結構イケてるようね。気分が良い。」
楓「は?」
たしかに「は?」だよね。営業スマイルを浮かべながら何やら調子こいてる3人と、何故か○×の札を持たされたシュールな部長が、横並びに座って順番に来る客と二言三言話しては握手をしている。
部長は握手も会話もしないが時々頷いたり札を上げたりしている。
けど、客は喜んでいる。
カオスだ。
深雪「セミ君おかえりー♡」
客「「「「「喋った?!」」」」」
夕「うん。ただいま。高志、どゆこと?」
高志「それがよー、やたら可愛い子達が集まる部室があるって噂が広まったみたいでよ、午後から急に客が増えてさ、対応しきれないから握手会にした。席も横並びにして一人30秒にしてる。」
せっせと並び客の整理をしながら答える高志。
時々来る女性客とは握手までしている。
元々、来客にはお茶を出し、パンティーを探せ企画を説明したり、雑談したりをするだけの文化交流部だったのに、蓋を開けてみればこんな事になるとはね。
しかし、なるほどね、確かにうちの部は顔面偏差値で言えば部長を筆頭にやたらと高いもんね。
普段話したくても機会のなかった人達も、こんな場所があればきっかけになるもんね。
なるほど、これはまさに文化交流部に相応しい状況なのかもしれない。
まぁ顔目当てってのがちょっとアレだし、せっかく用意したパンティーを探せの景品達は無駄になりそうだけど。
それに美咲達も喜んでるしまぁいいよね。
部長は大変そうだけど…。
ふむふむ。さらにここに楓ちゃんも加えたらもう敵なしって感じかな。
そしてもし来年泉が入ってきたら恐らく学校中がパニックになるね、間違いない。
仕方ない、アイツはパンダの被り物でも被せとこう。
さてさて、この状況にはいささかびっくりだったけれど、もういいよね、僕らのいない間になんか出来上がってるもんね。
よし、ほっとこう。
夕「OK、じゃー頑張って。楓ちゃん続きしよ、続き。」
楓「う、うん!あはは!みんな頑張ってねー♪♪」
友紀「え?行っちゃうの?」
美咲「ま、待ってよ夕!」
遥「い、一緒に行きたい!」
深雪「 × (行っちゃダメの意)」
夕「バカやろう!アイドルなめんなよ!みんなどれだけ君らに会いたかったと思ってんだ!プロとして恥ずかしくないのか!このバカたれがー」
「「「「………。」」」」
高志「ダメだ。変なスイッチ入ってるわ。あれだな、プロデューサースイッチだな。」
夕「さ、楓君行くよ。」
楓「…はい。P。」
よし、決まった。
唖然とした表情のアイドル達や、尊敬の眼差し(たぶん)で見つめるお客さん達を一瞥し僕らは部室を後にした。
その後、僕と楓ちゃんはクラブAで踊ったり、劇を見たり軽音部の演奏を聞いたりと、思いっきり文化祭デートを楽しんだ。
部室に戻れば文句を言われそうなのでその日は無視して帰った。
「今日はめちゃくちゃ学生カップルしたね!」
「うん♡すーっごく楽しかった!」
普段、学校内で誰にも邪魔されない日なんかないので、なんか新鮮ですっごく嬉しくて楽しい1日だった。
「よっこらセット!」
「どっこいショット!」
家に着き、ソファーに腰掛ける僕ら。
泉「何それ!えっとー…よいショット!」
夕「あはは、ショットかぶりー。」
泉「えー…くやシー。あ、海のシーね」
楓「イヤな海だね。」
明日は二日目、受験勉強で忙しい泉も、息抜きに夕方には来るそうだ。
握手会の方は調子に乗ってる皆に任せて、また二人で文化祭デートに勤しもう!と僕らは企んでいる。
ただ、先程からうるさく鳴るスマホの通知音を聞く限り、何となく嫌な予感はするけれど…
一週間の恋人 ~セミと呼ばれて~ @game2
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