第54話 なっちゃん
はぁー…キラキラしちゃってさー。
羨ましいなー。
まったく、夕のヤツも大きくなっちゃって。
なんかカッコいいし。
こんなんだったら手出しときゃよかったなー…。
あー…にしても受験だりー。
終わったらめちゃくちゃ恋しよ。
引くくらいに恋しよ。
なーんて考えている私は
そんな、うら若い私が朝、いつもの時間に家を出て、少し歩いて角を曲がると、大体の確率で二人の後ろ姿に出くわす。
この所見慣れた光景に、すかさず駆け寄り肩をポンポン。
「おはよーお二人さん。」
「なっちゃんおはー。」
「千夏さんおはようございます。」
うん、今日も爽やか。
キラキラしてて、絵に描いたようにお似合いだ。
二言三言話した後は、邪魔しないように2、3歩下がって後ろをトコトコ。
羨ましくもあるけれど、どこか保護者のような心持ちで二人を眺めている。
子供の頃、はしゃぐ夕達をこうやって後ろから見てたっけな…なんて思いながら。
そして、最寄り駅まで着いた所でバイバイするのが最近の日課。
私はバス乗り場へ、二人は電車へと向かうからだ。
そんな私と夕の関係は所謂幼馴染ってやつで、家が近所の神田兄妹や高志達とは小学生の時によく一緒に遊んでた仲。
夕達からは「なっちゃん」って呼ばれてて、集団登校の日は引率してあげたり、プールとか、スケート場とか、近所のお祭りに連れて行ってあげたり、皆のお姉さん的な立場だった私。
私は中学から私立の女子高に通い始めたので、それからは道で会ったら立ち止って少し話すくらいの関係になってしまったけれど、私からしたらいつまでもあの子達は可愛い妹と弟達だ。
その癖にさ、ナマイキなことにさ、最近では毎朝腕を組んで仲良く登校する姿を見せつけられてる。
『なっちゃーん、見てー!補助輪取れたー!』
あぁ…あの可愛らしい夕はどこ?
500円玉が一番高いお金だと思っていた夕はどこに行ったの?
なんだよもー。
聞けばフィアンセだの同棲だの言い出すし。
はぁー…なっちゃんはお姉さんなのに敗北感がパないよ。
ただでさえ灰色の女子校生活がさらに味気なく感じるよ。
まるで噛み過ぎたガムみたい。
はぁー…早く受験終わらせてさっさと捨てたいな、このガム。
「ねぇなっちゃんさー。あのさー僕らの後ろをマーキングしているだけならまだしもさー、溜息がいい加減気になるよ?このままじゃ地球温暖化まっしぐらだよ?悩みあんならこっち来なよー受験辛いの?」
「え、溜息ついてた?!全然無意識だった!つーか悩みは夕、あんたなんだけどねー。はぁ。」
「出たよ。やっかみ。てか女子校選んだのなっちゃんだろー?高次(こうじ、高志の兄。千夏の同級生)に振られたからってさ、もう男はこりごりって。高次今彼女いないみたいだよ?いけば?」
「え、高次今フリー?マジか。なっちゃん行っちゃおーかな。いや、いーや、やめよ。振られたらまた女子大行きそーだもん私。」
「千夏さん。昔の千夏さんは私知りませんけれど、今の千夏さんすっごく綺麗だと思いますよ?性格もあっけらかんとしてて素敵だし。高志君のお兄さんの事はあまり知りませんけど、高志君を見る限りでは尻に敷かれたい家系なのでは?って思います。千夏さんぴったりだと思います。ただ、高志君は性格が少しアレなんで、高次さんが似ているならおすすめはしませんが。」
「楓ちゃん。あなたみたいな可愛い子に綺麗とか言われたら調子乗るよ私。あと性格はね、高志に輪をかけてクズだよ高次は。私を振った時なんて、『俺、ロシア人と結婚するからお前ムリ。実はお前の事好きだけど、日本人だもん。ムリ。』だよ?生まれから否定だよ?信じられる?」
「うわぁー…。」
「あはは!懐かしいね!僕小4だったけど、とんでもねーバカだなコイツって思ったよ。高志は笑ってたけどね。泉となっちゃんガチギレしてたよね。」
「キレたねー。だって自信満々だったし私。余裕ぶっこいて公開告白したらコレだもんね。てか泉ちゃんビンタしてたよね。小3から延々と説教されてさ、涙目だったもんね高次。あん時の泉ちゃんには感謝してるよ。」
「さすが泉ちゃん。変わってませんね。でもそんな高次さんでもいいんですか?」
「いいも何も別に今は高次のこと何とも思ってないよ?ただ、昔からよく知ってるし、近所だし、一番いいかなって。高志はなんか嫌だけど夕がフリーなら夕でもいいし。」
「なんだその田舎のばーちゃんみたいな恋愛観。『オラこの村の男なら誰でもい。子供こさえて畑たがやすだ。』みたいな。逆に新しいよね。女子校行くとそーなんの?」
「なるよ。おっさんの先生にだって優しくされると、お?ってなるもんね。環境次第で人の恋愛観なんかすぐ変わるのさ。女子校に行って唯一それを学んだよ私。誰でもよくなるもん。寂しさを紛らわせれば。」
「ふーん。それならなっちゃんはバカだね。僕達のお姉さんだったなっちゃんは格好良かった。自信があって、自分を持ってる人だった。今のなっちゃんはダメ、全然ダメ。学んだんじゃない。慣れと諦めだよそんなの。誰でもいいなんてさ、格好悪いこと言うな。なっちゃん。小6からやり直しな!」
「ちょっと夕…朝からすげー響くこと言うじゃん……ただ…なんか…悔しい。なによ、2個下が偉そうにさ!なんだよ!もぅ…はぁー………でも…ありがとう、夕。なんか目が覚めた感あるよ。」
「そう。良かった。おはよーなっちゃん。」
「おはよ。とりま、受験頑張るわ。それと夕、カッコよくなったね。ふつーに惚れた。けっこーマジ。」
「ちょっと千夏さん?!」
「ふふっ大丈夫だよ楓ちゃん。今更誰がいくらアプローチしたって夕はなびかない。お姉さんが保証する。だからさ、大学行ったら夕みたいなヤツ見つけるんだ。期待してて?」
「そうですか…。でもどこ探したって夕君みたいな人はいませんよ?少し妥協は必要かもしれませんが、良い人が見つかるように期待します。そうじゃないと、私が困るんで。」
「あははー!二人して言うよねー。ナマイキー!うん。分かりました。足りない彼氏君が出来たらなっちゃんが育てるよ。やる気出た。」
「ねぇなっちゃん、12月のお祭りまた皆で行かない?昔みたいに。受験の息抜きにさ。あんず飴のさ、当たり狙って打つピンボール得意だったろ?また2本取ってさ、1本僕にくれよ。」
「あはは。懐かしいね。あの頃は楽しかったね。ちょっと涙出そう。いいよ、なっちゃんが連れてってあげる。高志とケンカすんなよ?」
「それはアイツ次第だけどね。だってアイツ、やたら僕の焼きそば取ってくからさ。」
「そーだったそーだった!あはは!…じゃ、またね!楓ちゃん、夕をよろしく!」
「はい!また明日!」
駅で夕達と別れ、千夏はバスに揺られながら先程の事を思い出していた。
キラキラか…。
勝手にくすんでいたのは私だったのかもね。
にしても、カッコよかったな、夕。
予想外に諭されてしまった。
タジタジしちゃった。
2個上なのに、お姉さんなのに。
楓ちゃんは楓ちゃんでなんか肝が座ってるし。本当に年下かなぁ?
まるで夫婦だね、とにかく憧れるわ。
私も誰かとあんな関係を目指そ。
ふふっ。お祭り楽しみだなー。
高次は来るかな♪
しかしアイツを夕レベルまで育てるなんて…一生掛かっても無理そう…。
ってそこで高次が出てくる辺り、やっぱまだ好きなのかな。
ふふっ。アイツをロシア人には任せられないもんね。
うんうん。
夕、おかげで今日は色々気づけた。
なっちゃん頑張るね。
サンキュッ♪
その頃、先程の夕の叱責に感動した楓は、目をハートにしながらいつもよりキツく夕の腕に絡み付いていた。
痛いし、歩きにくいな…夕は口に出せず、我慢していた。
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