第53話 あっちの方

(よし、いい感じ。)


岡田「さ、どうかな?」


香織「あっおいし!岡田君、上手だねぇ!」


雫「ほんと。おいしい。」


遥「ほんとね!ほら、神田君も食べてみて?あーん♡」


香織・雫「(いいなぁ…)」


夕「ん。うまー!マスター!美味しいよこれ!」


岡田「そうかい?喜んでもらえて何よりだ。煮物は得意なんだ。」


調理実習。班分けがどのようにして決まったかは定かではないが、入学当初より家庭科の実習班は、僕、マスター、遥ちゃん、香織ちゃん、雫ちゃんの5人だ。

今日は調理実習で、僕らの班は『和』をテーマに煮物と焼魚、おひたしや茶碗蒸し等を作っている。

泉と二人で育った僕だけれど、味付けにあまり拘らないし、僕が用意すると缶詰とかレトルトカレーばかりになるので基本は泉が作っていた。

今は楓ちゃんもいるし、僕がキッチンに立つことはほぼ無い。

その点、マスターはひとりっ子で、両親は共働きで帰りも遅いため、昔から自分で作っていたようだ。

3人の女子ーズも料理は出来るようだが、知識や手際の良さはマスターには敵わない。

今日発覚した読書系男子の意外な特技に僕は今トキメいている。


夕「マスター!凄いよ!君は料理の本を出すべきだ!」


岡田「神田君、僕は君に影響されやすいんだ。やめてくれ、その気になる。」


雫「でも、本当においしいよ?本出たら私買うよ?」


香織「私も買うよ!」


遥「私はマスタ君の料理教室とかもいいと思うの。」


夕「まずはネット配信でもいいよね。そんで、人気が出たら書籍化して、TVで5分くらいの料理番組に出るんだ。そんな未来、どお?」


岡田「ははっ、僕なんか、そんなに上手く行かないよ…。」


夕「マスター聞いて。…オカダーズキッチン、夕方3時から放送!」


岡田「えっ…。」


夕「…可愛い助手に先生と呼ばれ…」


岡田「なっ……。」


夕「…雑誌連載、握手会、予約の取れない料理教室、ヒルズの一流店をプロデュース…」


岡田「す、すごい……。」


夕「…そして将来的にはゲストに来た女優と…」


岡田「……やって…みるか。」


夕「ふふっ。おめでとうマスター。結婚式には呼んでね。」


岡田「も、もちろんさ、それに…披露宴のスピーチなんだが…頼んでいいかな…。」


夕「それは光栄だね。マスター、乾杯。君の未来に。」


岡田「ありがとう、乾杯。」


僕らは肩を組み、醤油とみりんで乾杯をした。

そんな光景を見ていた女子ーズは先程から笑い転げている。


香織「あははっおもしろーい!岡田君!かんぱーい!」


雫「うはは!番組楽しみにしてるよ!」


遥「たのし〜!でもでもマスタ君、虹岡先輩はどうするの?」


岡田「あ!そ、それは…ど、ど、どうしよう神田君!」


夕「マスター失礼。忘れていた。でもね、閃いた!最初から、虹岡田かオカダレインボーでネット配信始めたらいいよ!」


岡田「なんと!そんな手が!!凄いよ神田君…君は神だ!かみだ君だ!」


夕「あははっ!恐縮です!では、そんなゴッド田君から皆様に悲しいお知らせです。すいません、鮭焦げました。」


「「「「あー!!」」」」



〜楓班〜


楓「いいなぁ。夕君の周りはいつも楽しそうだよ。この距離感、中学時代を思い出します。」


美咲「たまにはいいんじゃない?でもさー、本来ならあのメンバーは地味地味なんだけどねー。夕はいいねーやっぱ。」


楓「ねー。夕君と一緒だと皆楽しそう。ヤンキー系も地味な子もスポーツマンも夕君の側では一緒になって笑ってたよ。普段はバラバラなのにさー。まぁ私は遠くから眺める専門だったけども。ふふっ。」


美咲「分かる。私さ、入学して初めの席が夕の隣りでさ、初日から楽しかったもんなー。あはっ、そーいえば蜘蛛に名前付けたのが私達の初めての会話だった。」


楓「クモー?」


美咲「うん、朝来たらね、夕の机にさ、小さい蜘蛛がいたのね、そしたら夕が『ねぇ君、ちょっと聞いて、僕、蜘蛛怖くて触れないんだけどさ、もし、もしだよ?入学おめでとうってこの子が言いに来ていたら…って考えたらさ、可愛いと思えてきたんだ。いや、触れないよ?けど、名前を付けてあげたい。トモエかマチコだったらどっちがいい?』って。」


楓「アハハハッ、夕君はほんと夕君だね!アハハッ」


美咲「ウケるよね、で私が『え、トモエっぽいけど、そもそもメスなの?』って聞いたの。」


楓「うん、確かに。」


美咲「そしたら、『いやいや、わざわざ男がおめでとうを言いに来るかね?アメリカ人じゃあるまいし。』とか言ってさ、マジ笑ったわ。意味分かんねーって。そしたら『あれ?トモエ帰ったわ。』とか言い出すしね。あはは!で、高志が『あ、トモエこっち来た。』ってさー。マジ高校ってやべーと思ったよね。その一部始終見てた友紀も爆笑しててね、その日の放課後から4人で遊び行ったもんね。」


楓「あははー♪面白いねー。そっかーそれが出会いだったんだねー。羨ましいなー。」


美咲「でも夕はさー、時々寂しい顔してたんだよね。意味は分からなかったけどさ、きっとここに楓がいればなーって思ってたんじゃないかな。楓、ありがとうね。あんた帰って来てからはずっと楽しそうだもん。」


楓「やだ…美咲ちゃん…」


石田「あ、あのー向井さん達さ、そろそろ…出来ますよ?いや、あのお話の途中でしたら、全然構いませんが!」


楓「あ、ごめんね石田君!今配膳の準備するね♪」


石田「あ、いえ、座っていてくれればそれで、はい。」


美咲「イッシーあんた楓にビビりすぎだから。完全に配下じゃん。」


石田「いや、南野。向井さんは俺らの姐さんだから。立派に配下務め上げる所存だから。それが、俺らだから。」


美咲「そ、そーなんだ。じゃー…頑張ってね。」


石田「御意。」


楓「……私いつの間にかカタギじゃなくなってた…。」



〜友紀班〜


高志「友紀さーそのエプロンのボタンの飾り?ちょーど乳首の、、、」


ボスッ


高志「ってーな!」


友紀「たまたまだから!狙ってないから!いや、狙う意味ないでしょ?何で私がそんな体張って笑いとらなきゃなんないのよ!デザイン的にはこれ猫の目だから!おっぱいのボリュームで何か位置がアレだけど、さっき気づいて恥ずかしくなってさ、取ろうと思ったけどさ、猫の目取ったら可哀相でしょ?そんなこと出来ないでしょ?だからわざわざ言わないでよ!この最低男!」


高志「いや必死。長いよ。じゃ脱げば良くね?そんな乳首エプロン。色もなんか茶色いし。」


ボスッボスッ


高志「うっ!みぞおち…」


友紀「マジ黙れよ!色とか言わないでくれる?なんなの?猫ちゃんだって言ってるでしょ?せっかく今日のために買ったんだから着るでしょ?手突っこんで?この熱湯に手突っこんで?ヤケドして?」


高志「するか!発想がコエーよ。」


友紀「本当は頭からと思ってるけどね。とにかく、乳首発言の件、部長に言うからね。触られたと、ツンツンされたと、盛ってね。覚悟しなさい。」


高志「……片手…片手で勘弁して下さい。すいません。」


友紀「ふふ。ふふふ。」


高志「ちょ…せ、セミー!」



夕「あ、高志いい所に来たね。おコゲ好きだろ?あげる。黒鮭って言うらしいよ。あっちの方では。」


高志「え…どっち?」



今日も楽しい。

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