第52話 パンツの回



「あ、そうそう。美咲のパンツ見てたら思い出したんだけどね、シマウマはね、、、」



「ちょっ!待って!ハズいから!」



「ははっ。でね、、、」



「いや、ふつーに続ける?私は別に夕に見られてもいーけどさ、見たならもっといいリアクション欲しいワケ。そんな何でもない風だとさ、悲しいよ。見られ甲斐がないよ?」



「バカだな美咲。僕だってね、男だよ?そんなん見たらね、大変なの色々と。ね?だからね、あ、しましま模様だな、これはシマウマの話して冷静になならなきゃな。と、こーなるワケ。美咲のパンツ見えたら嬉しいに決まってるでしょ?頑張ってるんだよ僕は。」



「う、嬉しいなら良かったけど…。なんかなー、頬赤らめる的な?欲しかったなー。」



「欲しがりだねー美咲は。」




二週間後に行われる文化祭に向け、校内の飾り付けに必要なアレコレを作成するため、実行委員の僕と美咲は放課後の空き教室に集められていた。


今は向かい合わせに床に座ってダンボールを切ったり色を塗ったり等の作業をしている。


さっきから短めのスカートから惜しげもなく披露される縞パンが気になってしまうので、わざと話題に出したらリアクションについて指摘をされた。


女心ってやつなのか?


この欲しがりめ。




「で、シマウマの件だけど。」



「いや、あんたさ、やっぱ私のこと女として見てなくない?傷つくんだけど。」



「なんでそーなんの?めんどくさいなー。ドキドキしてるよ?美咲はすっごく魅力的な女の子なんだよ?だから、敢えて気のない素振りをしていないと、エッチな気持ちになるから頑張ってるんだってば。誘惑しないでよ。我慢すんのだって大変なんだから。」



「へへ♡最初からそー言ってよ♡」



「言ったじゃん。」



「分かりにくかった!ねぇねぇ、もっと見たいって思った?」



「思った。」



「だはは♡夕のエッチ♡」



「そーだよ。免許皆伝だよ。」



「ふふ♡そっち行っちゃお♡」



「いいけど。でもこっち側は壁だから僕にしか見えなかったけど、ジャージ履かないと皆シマウマの話始めちゃうよ?待ってるから履いといで?」



「うん♡すぐ戻るからね♡」



「うん。」



まったく、女心を主張する前に少しは男心も理解して欲しいもんですよ。


しかし、なんだろね、水着はよくて下着はダメってね。


不思議だけど、見る方もさ、実際そうだもんね。


きっと見ちゃいけない、見せちゃいけないものっていう風にさ、いつの間にかカテゴライズされてんだよね。


例えば裸族がさ、急に下着をつけ始めたらさ、きっとドキドキしだすよ、男は。


そんな男の視線を感じた女裸族はさ、急に恥ずかしくなるんだよ、きっと。



つまり、下着はリンゴだ。


アダムとイブのリンゴだ。


羞恥心を生み出す禁断の果実だ。



そんな事を考えていると、僕の前に二つのリンゴが並んだ。


青りんごと、白りんごだ。



「あ、見た?やだー♡」


「ちょっと神田君、恥ずかしいよー♡」


「……悪魔め。君らも僕を誘惑する気かい?ふふ。喜べ。僕の負けだよ。完敗。そして乾杯。ダブルパンツに。」


「何言ってんの?」


「分かんないけど、私達のパンツの勝利みたいよ?」


「ふふ♡なんだろ、もっと困らせたくなる♡ふふ♡」


「気持ちは分かる。けどやめよ友紀ちゃん。はしたないよ。でも…あと少しくらいは…」


「ちょっと!遥ちゃん、君おしいね。『でも…』から後がなければね。二人共手伝いに来てくれたんでしょ?ジャージ着てきて。ゴー!」


「「はーい。」」



クソッなんだよ、床め。


周りを見れば、チラホラパンツが見えている。


なんだ?床って凄くない?机と椅子がないだけで、こんなにもパンツの森になっちゃうの?凄い事発見したよ。学会に発表しようかしら。



「ゆーくん♡来ちゃった♪」


「あ、僕のベイビーちゃんだ!あはは!でもジャージ履いてきて。ゴー。」


「なんで?!」


「なんでも。」


「なによ!フン!分かったよ!すぐ戻るからね!」


「転ばないでね。ラビュ。」


「らびゅー♡」



…かわいい。


しかしね、神田クリーニング店店長として洗濯の一切を任されている僕としては、カゴに入っている下着はもはや敵。


今日楓ちゃんが履いているパンツだって、僕が洗い、干し、丁寧に畳み、引き出しにしまったものだ。


汚れを倒し、浄化し、生まれ変わらせたものだ。


なんなら我が子だ。


なのに、楓ちゃんが身に纏っている間は、いやはやどうして…どうして…有り難い。


この一言である。



「夕、ただいま!へへっ、皆と会った。揃ってジャージ履きに来てた!だから隣り取られる前に急いで来ちゃったー♪」



「おかえりー。見てよこれ。いつの間にかダンボールをパンツ型に切っちゃった。美咲のせいだ。」



「アハハハッ!バカだねー、でも面白いね。これさ、何個か作って隠れ◯ッキー的に飾らない?」



「あ、いいかも。でさ、全部見つけた人にはお菓子とかプレゼントしよっか!」



「いーね!それ!うちらの部活やる事なくてお茶出すだけだもんね!」



「うん、でも隠れパンティーを探せってなんだろね。文化交流部ってなんだろね。」



「いいじゃん!パンツから始まる交流だってあるさ。」



「あるの?」



まぁ…いいか。


何年後かに、「何やってたんだろねうちら」って笑えたらいいよね。



その後、皆で部員の数だけダンボールパンツを作った。


僕と高志の分はトランクスタイプにした。


本当に、何やってんだろ。


全部、床のせいだ。

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