第44話 恋はポエマー製造機
新婚気分だった私も、かわいい妹に早く会いたい気持ちで一杯だった。
私達だけの新居ならいざ知らず、この神田家に泉ちゃんがいないのはやっぱり落ち着かない。
この家に来てまだ一ヶ月程だけど、最初から嫁として扱ってくれたおかげで私にとってここはもう我が家だ。
大事な妹を迎えに行くため、私達は家を出た。
取り留めのない会話をしながら、まばらな街灯が照らす夜の住宅街を歩いている。
夕「星、あんまないねー。」
楓「そだねー。あ、見て見て、月ほそーいよ。」
夕「ほんとだ。ギネス級にほそーい。」
楓「あ、夕君危ない電柱ぶつかる。」
夕「おっと。ギネス級に邪魔だね。」
楓「ギネス級に腕組んじゃお♡」
夕「ギネス級に幸せ!」
楓「私もー♡」
夕「楓。」
楓「夕。」
夕「いい。」
楓「いいよね。」
夕「はい。ここで君に月の詩をプレゼント。」
楓「え、凄い。」
夕「では。詩ます。」
楓「吟じますみたい。」
『何だか今日は細い君。たぶん明日にはいない。けどまた出てくる。出てくると太る。けどまた痩せる。リバウンダームーン。君の名前は満カケル。』
夕「通称ツッキーね。」
楓「満カケル関係ないの?!」
夕「ミッチーだと思った?あ、泉発見!」
楓「満カケ、、、ほんとだ!泉ちゃーん!」
泉「お兄ちゃん!おねーちゃん!」
夕「お兄ちゃんレッド参上!」
楓「おねーちゃんピンクも参上!」
泉「妹ピンクも登場!集合!無敵の神田3兄妹♪」
夕「イエーイ。てかピンク姉妹だったの?僕も合わせようかな。」
泉「ふつーにやだ。何気にレッドぽくもないし。」
楓「なんだろね?ブルー?イエロー?んー違うな。しっくりくる色ないな。」
夕「なるほど。お兄ちゃんメガネとか、お兄ちゃんポッキーとか物系ね?」
泉「アハハハ!めっちゃ弱そう!」
楓「ただのメガネ兄とおやつ持った夕君じゃん!アハハハッ」
夕「まぁーねー。戦わない正義だね。ガンジースタイル。流行ると思うなー。」
泉「無理だよー1話で地球滅ぶよー。」
楓「仕方ない。夕君は私が守るよ!」
泉「だね。お兄ちゃんはポッキー食べててね♡」
夕「分かった。でもね泉、ポッキーが本体だったりする。食べたら終わる。」
泉「もう家で大人しくしててよー。戸棚入っててね?大事にするからね?」
楓「正義も何もないねーただのおやつだね。」
夕「ふふっ。美味しいだけが取り柄です。」
泉「ところで、お兄ちゃん達さ、今日寂しかった?」
夕「いや。それがさ、新婚してたから楽しかったもんね。」
泉「むむ。」
楓「なんかさー未来の風景だったよね♪」
泉「ショック!二人とも期待してた答えと違った!」
夕「でも泉、僕達はさ、お前を迎えに行くのも楽しみだったんだよ?」
楓「もうすぐ会えるねー♡ってね♪」
泉「やったー♡嬉しー♡」
楓「やー♡かわゆい♡」
ギュ♡
泉「ねぇねぇおねーちゃん。」
楓「なーに?」
泉「おねーちゃん来てからの方が毎日楽しいよ。うちら最強の家族と思う!」
楓「夕君…どーしよ。嬉しすぎ!」
夕「泉、お前はなんでそんなにいい子なの?お兄ちゃんはお前が好き過ぎてもう離したくない!カモン!」
泉「やったー♡おにちゃーん♡」
ガバッ
楓「なー!私にそんな事言ってくれた事ないのに!泉ちゃん!ズルいよ!」
泉「うふふー♡お兄ちゃんもーらいー♡ちゅ♡」
夕「わっ!外でちゅーした!ご近所さんの目があ「ちゅ♡」って2回目!」
泉「3回目はお家でね♡だーりん♡」
楓「あはは♪新婚もいいけど、やっぱ泉ちゃんいないとダメね♡」
夕「泉ー。疲れた。降りて。」
泉「出た!急に冷める悪いクセ!」
夕「はいはい。それよりアイス食べて帰ろっか?」
泉「行くー♡」
楓「アハハハッ!切り替えの早さそっくり!」
………………………
泉「めちゃ混んでたね。」
楓「結局コンビニアイスになっちゃったね。」
泉「そだ、新婚どーだった?」
楓「素敵だった!夕君がね『君が僕の夢だ』って言ってくれたの♡」
泉「わぁ♡お兄ちゃん素敵ー♡」
夕「泉は僕の命だよ。」
泉「わぁ!だーりん♡最高の気分♡」
楓「夕君素敵すぎ♡」
泉「はぁ♡それにしても二人は何でそんなに絆が深いのかなー?私とお兄ちゃんはずっと一緒だから当然だけど、二人は一週間だけの付き合いだったんでしょー?」
夕「あはは!お前なんて初日から楓ちゃんを家族扱いしてたろ?時間じゃない事もあるんだね。不思議だけど。」
泉「たしかに!たしかにだよお兄ちゃん!おねーちゃんを認めた理由は色々あるけどさ、絆に関しては理屈じゃない系だね!」
楓「泉ちゃん、一応証拠?じゃないけどさ、離れていた間でもどれだけお互いを想っていたかの証明はできるよ?私達ね、しばらく連絡は取れてなかったけれど、それぞれに手紙とか詩とか沢山書いてたんだ。恥ずかしいけど少し見せてあげよっか?」
泉「えー!!見たい!見たい!」
夕「ふふっ。泉よ。僕達の切ない恋物語の一端を見せてあげよう。そして思い知るがいい。中2病の恐ろしさをな。」
そして自宅に戻った僕らは、楓ちゃんが選んだ恥ずかしい詩シリーズを数枚泉に見せた。
中2病の厄介さを教えるための反面教師になれればと最初は思っていたが、なんだろう…めちゃくちゃ恥ずかしい。
………………………
『繋がるは空だけなれど』
遠くの空の下で君は眠り
遠くの空の下で笑ってるんだね
僕の町にはもう夏がきたよ
君がいたこの町にまた夏がきたんだ
聞こえる?
君がリンリンと名付けた自転車のベルを鳴らしたよ
聞こえる?
僕が何度も呼んだ君の名前を呟いたよ
あの大きな入道雲に乗れば
君の住む街が見えるだろうか
あの長い飛行機雲を辿れば
君の住む街にたどり着けるだろうか
目を閉じると浮かぶ君の笑顔
耳を塞ぐと聞こえる君の囁き
涙が頬を伝うと
君がそっと触れくれているような気がする
空を見上げる
空を見上げる
同じ空の下に君を想う
夕
────────
『想いだけはせめて共に』
触れたい肌
聞きたい声
見たい笑顔
会いたい人
それらは全てあなたのこと
私の全てはあなたのため
あなたがくれた思い出を枕に
あなたがくれた喜びを抱いて
あなたがくれた幸せにくるまり
今日も私は眠りにつくの
おやすみ代わりに名前を呼ぶの
明日もあなたが素敵な一日を過ごせるように
明日もあなたが楽しく一日を過ごせるように
祈り、願うの
楓
────────
泉「うぅ…ぅ…ぅぐ…う…」
楓「恥ずかしいなー…」
夕「泉。泣いてくれたのは嬉しいけど…。もういーだろ?お兄ちゃん達恥ずかしいよー。」
楓「ねぇ夕君、この詞と一緒に夕君が出そうとしてくれた手紙の日付がさ、実は私が目覚めた日だったりする。凄くない?!」
夕「そうだったの?!それは凄い…」
楓「手紙は届かなかったけれど、想いはちゃんと届いたんだよ、夕君♡ありがとう♡ちゅ♡」
夕「嬉しい…嬉しい!泉、泉、奇跡って起こるみたいだ!お兄ちゃんの想いは届いたんだ!泉、泉、恋って凄いな!愛って凄いな!」
泉「うっうっうわぁぁぁんしゅ、しゅごいーーうわぁぁぁん」
楓「えへへ♡こんなに感動してくれたなら見てもらって良かった!でもさーこっちに来てから二人で一緒に見た時は私達もちょー泣いたよね!アハハ♡」
夕「泣いたなー。いや、自分のはあれだけど、楓ちゃんのは宝物だよ?一人だったら今でもふつーに泣いちゃう。」
楓「私だってそーだよ?夕君のやつはどんな高価な物よりも価値あるもん。だいたい、届かないの分かっててさ、ずーっと月に一度は手紙くれてたとかさ…あーダメ!私も泣いちゃう!」
夕「おぉ…楓ちゃんも泣いちゃったかー。泉ちょっとズレて?楓ちゃんのスペース空けてあげて?…よし。楓ちゃんおいで?」
泉「うぅ…よかったね、よかったね二人共。グスッ本当によかったね。うっぅよがっだ!よがっだぁー!」
楓「へへっ♡ありがと、泉ちゃん。おねーちゃんさ、泉ちゃんが妹になってくれたのが、夕君に会えたのと同じくらい嬉しいよ?愛してるよ♡」
泉「わ、わだじもうっうれじい!おでぇーちゃんありがどぅ!ありがどぅ!」
夕「泉、愛してるよ。お前は僕達の一番大切な宝物だよ。」
泉「だぁぁぁぁおにぢゃぁぁぁん!」
夕「…ヨシヨシ。楓ちゃん、何でコイツこんなかわいいの?離れたくないんだけど。」
楓「だねー。彼氏来たら私も殴ると思う。考えただけでイライラする。」
夕「泉。今日お前真ん中な。お兄ちゃん今日寝ない。ずっとお前の顔見てたい。」
泉「ぐへ♡ぐへへ♡ぐへへへ♡」
夕「あ、やっぱいいや。何か。」
泉「なんでよ!やだ!見てよ!」
夕「笑い方が気に食わない。楓ちゃん、ホットミルク作って?よく眠れるらしいからね。」
泉「寝る気まんまん!」
楓「泉ちゃんも飲む?」
泉「飲むー♪砂糖多め♡」
楓「ふふっ♡やっぱ似てる♡」
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