第40話 委員長の選択



遥「セミ君!昨日は取り乱しました!ごめんなさい!」



登校後、座席に座って早々にそう言って来たのは委員長こと遥ちゃんだ。


現在僕の座席を囲うように女子、女子、女子…女子の壁が出来ており、皆同様に謝罪の言葉を述べている。


なんだろうこれ…居心地が悪い。



夕「わかった、わかったから、大丈夫だから!そうゆー時もあるよね?…ん?あるの?あ、でも大丈夫だから!急だったからびっくりしただけだから!ほんと、ね?えっと…許して?」



友紀「あはは!夕君が謝ってどーするのよ!この状況にいたたまれなくなるのも分かるけどねー。」



遥「ほんとにごめんねセミ君。私も、皆も君のファンでさぁ…。昨日は君の話で盛り上がっちゃって…テンション上がっちゃって…向井さんがさ、握手会くらいならいいよってOK出してくれて…そんなつもりはなかったけど…なんかタガが外れちゃって…我を忘れちゃって…ほんと、ごめんなさい!」



夕「ファンって…マジだったんだ…。へー…でも嬉しい!僕は、楓ちゃんのものだから、何もしてあげられないけれど、友達としてこれからもよろしく!皆も、ありがとうね!」



遥「ありがとうセミ君!そして向井さん!楽しくやってこう!」



楓「皆ありがとう。改めて今日からよろしくね!」



そう言って爽やかに楓ちゃんが笑う。委員長を筆頭に、皆もニコニコしていた。昨日は野獣の如く襲ってきた皆だけど、いい子達ばかりのようだ。


それにしても、昨日楓ちゃんが言っていた通り、皆が僕に好意を寄せてくれていたみたい。知らなかったけれど、楓ちゃんがハブられたりは無さそうで良かった。



楓「ちょっとトイレ行ってくる。」



友紀「わたしもー。」



夕「あい。」




女子トイレにて



友紀「いい子達だよね。」



楓「ほんとにね。昨日はあれからどーだった?」



友紀「それがさ、大反省会だったよ。美咲ちゃんとなだめるの大変だったんだから。」



楓「まじかー。ありがとね。」



友紀「楓ちゃんさー直ぐに夕君のお触り許すのやめな?私が言うのもなんだけど。」



楓「そうなんだけどさ…あの子達ってさ、昔の私なんだよね。なんか…気持ち分かるからさ、許しちゃった。」



友紀「へー。楓ちゃんにもあんな時期あったんだ。意外。」



楓「意外かー。私も変わったんだなー。」



友紀「ふーん。あそこから上り詰めたんだね。凄いね。夕君の隣り、居心地はどお?」



楓「ヤバいよ。悪いけど、誰にも渡せないわ。」



友紀「ふむふむ。学校始まってから緊張感増した感じ?」



楓「分かる?昨日さ、自分がビビりで弱い事、思い出しちゃってね。ふふっ。」



友紀「夕君モテるもんねー。でも、負ける気なんてサラサラ無いんでしょ?」



楓「ないんだな、これが。」



友紀「あはは!そうじゃなきゃね!」



楓「ふふ♡さて、戻るか、私の男の元へ。」



友紀「だね、私の未来の男の元へ。」



楓&友紀「「あはははははっ」」




二人が離れた教室にて



遥「ねぇ美咲ちゃん、あなたと友紀ちゃんてまだセミ君にアプローチしているの?」



香織「それは思った!婚約者いるじゃん!どうゆーつもり?」



雫「邪魔しちゃ悪いよ。」



美咲「あー…。だよね。」



遥「え?終わり?」



美咲「いや、ふつーはそうだよなーって思ってさ。けど、好きなんだー私。夕も、楓も。めちゃくちゃ好きなんだよ。…バカなんだ私達。どうしようもないくらいにね。」



沈黙



「「「ごめんなさい。」」」



謝っていた。


少しの沈黙の後、私達は一斉に謝罪していた。


常識から言えば彼女達は間違っていると思ったし、セミ君のファンからしたら許せない行為だった。


だから、なんとなく責め立てるような感じで問いただしてしまったけれど、それを全く意に介さず、幸せそうに、優しく笑みを浮かべながら彼女は答えた。


正直、言っている事はいまいち分からなかったけれど、彼女からは犯しがたい純粋な想いが感じとれた。


その姿はとても綺麗だった。


私達の常識や憤りが一瞬で吹き飛ぶ程に魅せられてしまった。


私達は謝る他、出来る事はなかった。



美咲「いいよ別に。気持ちは分かるし。あ、夕一人じゃん!チャンス!じゃね♪」



タタタッ



美咲「ゆうーおはよー♡」



夕「なー美咲!見てくれ!カエルに見える?見える?さっきマスターから教わったんだ!」



美咲「そんなん皆できるよ!そんなに目を輝かせちゃってさ!朝からかわゆいんだから♡」



全く気にした様子もなく、颯爽とセミ君の所へ駆けて行った彼女。


取り残された私達ファンクラブの面々。


羨ましかった。


憧れた。


そして、それぞれの心に火が灯ったのを感じた。


頷き合い、いざ突撃!っと思った矢先…



楓「わ!なにそれ!カエル?夕君凄い!どーやんの?私もやりたい!教えて!」



友紀「あれ?こうか?違う、こうか?」



夕「ベイビー!君は何ていいリアクションをするんだ!いいよ!教えてあげる!こっち来て!膝に乗って?」



楓「よいしょ♡」



夕「そそ、お姉さん指がここ。そう!ほらできた!」



楓「うわ!できた!かわいー♡」



友紀「次わたしー♡よいしょ♡」



夕「こーだろ?違う、えーとそう!できた!」



友紀「やったー♡かわいー♡」



美咲「次は、、、」



夕「美咲はダメ。出来るんでしょ。」



美咲「なんで、なんで私って…」



楽しそう!楽しそう!楽しそう!


……出遅れた。また出遅れた。


私達は羨望の眼差しで見る事しか出来なかった…。



遥「かっこいいね…あの子達。」


香織「かっこいい。」


雫「うん。」


遥「私、行くわ。」


「「えっ?!」」


遥「ファン辞める。全力出す。」


「「えっ?!」」



キーンコーン♪カーンコーン♪



遥「うわっと。」


「「ど、どんまい。」」



水野 遥


学年トップの成績と、均整の取れた顔立ちやたおやかな性格は、和服の似合いそうな大和撫子と言われている。


男子からは高嶺の花と思われており、今まで恋人のいた経験は無い。


自身も恋はまだ早いと思っている節はあったが、入学早々から夕に惹かれていた。


ただ、恋を自覚したのは初めてだったので、どうしたらいいのかが分からなかった。


偶然にも、同じ想いを秘めたクラスメイト達が何人もいる事を知ってからは、彼女達と夕の話で盛り上がるだけで満足していた。


2学期はもう少し仲良くなれたら…そんな期待を抱いた所へ、急に浮き出たフィアンセの存在。


残念とは思ったけれど、諦める他無いと思った。


昨日、思いがけず夕の手に触れた。


我慢出来ずに抱きしめてしまった。


婚約者から与えられた、思い出作りのプレゼントとは分かっていたけれど、否応なしに燃え上がる気持ちに逆らえなかった。


一度は反省したものの、美咲との会話や行動を見て彼女は知った。


行動する事の大切さ、傷つく事を覚悟する事で得られる幸せがあるのだと。


『叶わなくたっていい、私もやれるだけやってみたい。』


学業優秀な彼女が、頭ではなく心の選択に従った瞬間だった。


ただ、昔からタイミングが悪い所が彼女にはあった。


チャイムに邪魔された彼女は、次の休み時間には話しかけに行こう。


そう誓ったのだった。

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