第37話 初登校
照りつける太陽に青い空。
白い雲はまるで大きな綿菓子のよう。
9月とはいえまだまだ夏だ。
堪らず滴る汗を拭っていると、近所の子供達が笑顔で横を駆けていく。
「おいおい!転ぶんじゃねーぞ!」なんて言ってみたりする。
熱を含んだ風が吹き、少し髪を乱した。
鼻先をくすぐる彼女の髪は、僕のと同じ匂いだった。
「パーフェクト。」
「なにが?」
「楓ちゃん。これだよ。これが僕の夢見た未来なんだ。」
「夕君。私だってそうだよ。これだよね。これ。」
「ふふふ。」
「うふふ。」
初登校。夏休み明け初日の登校日。
僕らは並び、腕を組み、柔らかな胸の感触やら、どんどんと滲む汗を感じながら歩いている。
僕らは離れない。
例え明日あせもに悩まされようとも。
それほどに今日という日を望んでいた僕ら。
約二年の年月を経て、やっと…やっと叶った夢なんだから。
「おーっす。」
…高志だ。そうだった。近所のこいつとはだいたい登校時間が重なるんだった。なんで?なんでジャマするの?2年だよ2年。嫌い。この子嫌い。デリカシーないもん。無視しよう。
「さすがに暑くね?気持ちは分かるけどな。見てるこっちが暑ちーから。」
じゃどっかいけよ。暑いっつーの。左わき腹なんて既に水溜りだっつーの。そんなん覚悟の上だっつーの。クズが。話しかけんなっつーの。
「…ふーん。あ、そうそう昨日さ、凄い動画見つけちゃった。セミ、アハハッ!見る?マジめっちゃうけるからこれ!サルと人間がさ、まさか…けっ…クククッやば。」
待って、ちょっと待って。え?…けっ??けって何?え?ウソ、まさか結婚?アフリカとかで?あるのそんなん?ど、どっちが女?ねぇ、ねぇ、ちょっと!子供はサルなの?人なの?ハーフ?やだそれ見たい。…見たい!
夕「み、見せてみ?」
楓「あっちゃー。」
高志「はい勝ちー。てかただのネコ動画でしたー。残念でしたー。無視するからですー。」
夕「くっそー!!見たかったのに!!見たかったのにー!!」
楓「え?ネコって?どんな?高志君家の?ねぇ?今見れるの?」
高志「おぉ…まさかネコでも食いつくとは。」
せっかくの二人だけの初登校を高志(クズ、バカ、猫好き)に邪魔された僕達はそのまま3人で電車に乗り、今は駅から学校までの道を歩いている。
せめてもの抵抗で腕は組んだままだ。
楓「高志君さー記念すべき初登校だよ?何で邪魔しちゃうかなー。ネコは可愛かったケドも。」
高志「向井さん。逆に、逆にだよ?例えば10年後、今日の日を思い出したとしよう。ね?その時に、だ。そーいえば二人だけの初登校の日、高志君に邪魔されたっけなー…ネコの動画に釣られて無視出来なかったなープププ。ってね。どお?」
楓「…ちょっといいかも。私達っぽいエピソードかも!そっか、逆にね、逆に。うんうん。ありがと!」
夕「高志。純粋な僕のフィアンセ騙してんじゃねーぞ?しかしだね、確かにね、悪くないね。お礼は言わない。けどね、確かにではあるね!」
高志「(似た者夫婦め。クククッちょっろ。)まぁまぁ俺だってワザとじゃねーし?事故みたいなもんよ。」
夕「まぁ今からでもどっか行けよって思っているのは別として、無視したのは悪かった。」
楓「そうね。何でまだいるのかな?とは思うけれど、無視は良くなかったね。ごめんね。」
高志「前半の部分が気になるな。けどいーじゃん!お前らには今日だけか?明日はねーのか?違うだろ?」
楓「むむ。」
夕「クソッ。いちいち納得ワードぶち込んできやがる。しかし何だ高志。今日はヤケに食い下がるね。さては何かあった?」
高志「あ、分かる?いや…実は…」
深雪(部長)「あ、たかくん…あ!セミ君だー♡おはよっ♡おはよっ♡」
夕「おはよー部長!元気だった?」
深雪「いやー…夏休みはさーセミ君とおしゃべり出来ないからさー何か物足りない夏でしたよ。はい。」
夕「そっかー。合宿とかやれば良かったね。今日は放課後顔出すからね!」
深雪「嬉しい!あ、でも今日は…たかくんと話し合いがあるんだった。この浮気者と。」
夕「浮気者?部長、やっとこいつと話せるようになったんだからさ、もっと自信持ちなよ。部長のたかにゃんは君にぞっこんだにゃん、だよ?」
深雪「ほんとに?!たかにゃん、ほんと?」
高志「ほ、ほんとにゃん!深雪さんが見た人はた、たかにゃんのいとこにゃん!今日は証拠も、持ってきたにゃん!」
夕「ブッ。ブハハハハハッ!もーダメ!限界!アハハハハッ!ごめん部長!たかにゃん置いてくからさ、後でね!アハハッまたね!」
深雪「う、うん!放課後だよ!絶対だよー!」
こうして、部長とたかにゃんを置いて再び歩き出した僕達。学校まではあと10分といった所。
楓「ちょっと何あれー!笑い堪えるの大変だったー!アハハハッ!」
夕「いやー笑える!動画撮れば良かったねー!アハハハッ!」
楓「何か初登校日の思い出がどんどん可笑しなものになってくね!ふふふっ♪」
夕「ほんとだね!まぁなんか僕達らしいかもねー。」
楓「だね♡あ、さっきのが例の部長さんでしょ?話の通りさ、あんなに近くにいたのに全くこっち見てくれなかった!徹底してるね!」
夕「楓ちゃんならすぐに仲良くなれると思うよ?後で紹介するね。あ、あと部長はね、別に仲良くならなくてもそれはそれでいい人だから無理する事ないよ?美咲達なんて一方的に話しかけるけどさ、返事待てなくてすぐに別の話題になるからさ、部長はいつもオロオロしてる。でもちゃんと話しかけるのが美咲達のいい所でさ、部長はそれが嬉しいんだって。」
楓「へー。不思議な関係だね。夕君はどうやって仲良くなったの?」
夕「えっとー…あ、そうそう!犬になってみた!人が苦手でも、犬ならどうかなって。そしたら、仲良くなれた。アハハハッ」
楓「変なのー!一番不思議なのは夕君だね!でも…そんな夕君大好き♡ちゅっ♡」
夕「わっ!ほっぺに!良い!ちょっとジャンプしたとこが特に良い!」
楓「えへへ♡やってみたかったやつ♡」
友紀「おっはよー♪邪魔しに来ましたー♪」
楓「うわ。一瞬だった。私のラブコメ。」
友紀「右腕いただきっ!」
楓「ちょっ!」
夕「やわかい!なにこれ!右肘無くなった!」
友紀「どう夕君?うりうり♡うりうり♡」
夕「んっとね。左に天国、右に極楽って感じ。あと、正面からは地獄の視線を感じる。」
美咲「ちょっとー!朝から何やってんのよ!離れなさいよ!おっぱい怪獣!あと…Cカップ!」
友紀「黙れ!茶碗蒸しの蓋おっぱい!」
美咲「カッチーン!あ、夕、今のカッチーンはさ、硬さじゃないよ?ちゃんと柔らかいよ?怒ったぞーのカッチーンだからね?肉まん…そう!肉まんくらいあるから!」
夕「ホクホクだね。」
美咲「えへへ♡」
友紀「褒めてなくない?」
楓「はぁー…次から次へと…あーあ、まったく。(でも…楽しい!)」
友紀ちゃんは美咲に強引にひっぺがされたが、天国こと楓ちゃんとの腕組みは何とか下駄箱まで死守した。
記念すべき僕らの初登校…。
まぁ楽しかった。
思い描いたものとはだいぶ違っていたけれど…。
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