第35話 抜けがけて夜
「うわぁ今の大きかったね。」
「大きかった。」
「綺麗だね。」
「綺麗だ。」
「どこの花火かな?」
「たぶん隣町の。」
「あ、もう終わっちゃたみたいね。」
「もう少し見たかったな。」
「ねぇ夕君。」
「うん。」
「も少しいよっか。」
「うん。」
もう夜だというのに、座っているだけで少し汗ばむくらいにまだ暑い。
コンビニ帰りに丁度どこかで花火が上がったので、公園のベンチに腰掛けて二人で見ていた。
二人。フランスから戻って来てからは、ずっと夕君の側にいた私だけれど、実は二人だけになれる時間はあまりない。
一日の内、一時間くらい二人の時間があればいい方で、泉ちゃんは勿論いるし、高志君が時々遊びに来たりするから。
いつも楽しくて、その事は全く嫌じゃないのだけれど、やっぱり二人だけでいられるのはとても嬉しい。
普段は明るくて、楽しいことばかりする夕君だけど、二人だけの時は少し大人しかったりする。
この時の夕君は、声のトーンが落ちついていて、あまり自分からは話しかけない。
私が話しかけると、短く返事をするくらいだ。
おそらく、これが素の夕君なんだと思う。
友達や、お兄ちゃんをしていないそのままの夕君。
どこか気が抜けていて、私に身を任せてくれているような、静かで穏やかな雰囲気を纏っている。
側にいる私もとても落ち着くし、ぽかぽかと温かく、優しい気持ちになってくる。
特に何も話さなくてもいいような時間が流れるのだけれど、ついつい声が聞きたくなって話しかけてしまう。
好きだよ、とか、愛してるよ、もないけれど、寄せ合った肩で囁いているような、私にとっては甘い時間。
こんな二人の時間が、私は大好き。
「そろそろ行かないとね。」
「だね。」
仕方ない。今日はみんなが泊まりに来ている。
隙あらば夕君にまとわりついてくる美咲ちゃん達から逃げるように、私だけを連れ出してくれた。
『お前だけは特別だ』と暗に言ってくれているような気がして、嬉しかった。
「夕君。ありがとう。」
「こちらこそ。」
優しい微笑みとキスを添えて、そう返してくれた。
まるで、私のして欲しい事が分かっているかのように。
友達でも、息子でも、お兄ちゃんでもない私だけの夕君。
愛しています。
心から。
せーの、「「ただいまー!」」
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