第34話 BL裁判

人はね、産まれてすぐに泣くものよ?だから私は笑っていたいの。あなた達が泣いていたら、私は最後も泣いてしまうでしょう?ほら、笑いなさい。そう…。ありがとう。ありがとう…



激動の中、波乱に満ちた生涯だった。

時代のうねりに翻弄された人生だった。

祖母の送った半生は暗く辛く悲しい事ばかりだった。

そんな彼女が、笑って逝った。


〜Fin



翠「どぅあぁぁぁぁぁぁぁぁー」



楓「うわぁーーんうわぁーん」



泉「おばぁぁぢゃーんうわぁー」



夕「だぁぁぁぁぁー」



美咲「やだぁぁぁぁおばぁぁぁ」



友紀「ひっくひっくうぐっひっく」



高志「いや、いやいやいや、そこまでか?つーかおばちゃん鼻水すげーから。汚ぇなーもう。」



翠「んなぁー!!高志あんたマジふざけんなよ!ティシュ!はよ!」



高志「んだよーはいはい。」



翠「ぬぁー。ヤバいちょっとママに電話してこよ。泉も出なさい、おいで。」



泉「おばぁぁぢゃーん」




夏休みも残りわずか。当初予定していたプールの約束を消化するため、泉と楓ちゃんを含めた6人で朝からプールへ行ってみたものの、混雑と「いや俺らってさ、実は密室でダラダラ喋ってんのが一番楽しーんじゃね?」との高志の発言に「確かに!」と全員一致で同意したため、プールサイドから遠慮がちにチャプチャプしただけですぐに帰ってきた。ちなみに、女子の水着姿はヤバかった。あんな姿でまとわりつかれたら僕のキャンパーが大喜びしてしまうのは確実だったので、高志の一言に同意したと同時に感謝したのは内緒である。今日は土曜日、僕らが帰ってきたタイミングで母が映画を見ようとしていたので、なんの気無しに一緒に見ていたらいつの間にかどハマりしてしまい現在に至る。



美咲「うぅ…はぁはぁマジヤバい感動ヤバいー」



楓「うっうっ夕君夕君夕君…」



夕「だぁぁおいでぇおいでぇだぁぁ」



友紀「グスッグスッ…夕君…」



夕「おいでぇおいでぇぇぇ」



美咲「ゆ……な、なによ。」



高志「いや、もうセミ場所ねーし?こっち来ればって。」



ガスッガスッ



高志「んだよ!2回も蹴る事ねーだろ!」



美咲「うるせー!カス!バーカ!場所あるもん!」



ガッゴソッゴソッ(ソファと夕の背中の間に無理やり入り込む音)



夕「あ、ちょっとやわかい。」



美咲「………。」



高志「くくっ、ちょっと。くくっ。…分かった分かった睨むな、な?」



楓「はぁ。。凄く悲しかったけどさーいいラストだったねー。」



友紀「今が平和で良かったよほんと。夕君に可愛がって貰えるし。」



楓「ねー♡」



美咲「ねぇねぇ夕、小さくてもいい?」



夕「いいよ。可愛いじゃん。」



美咲「わー♡そだよね!そだよね!嬉しい♡ぎゅー♡」



楓「ちょっと美咲ちゃん?!あ、ダメだ夕君エロい顔してきた。はい、没収!」



友紀「あぁぁぁ、せっかくの、せっかくがぁぁぁ」



美咲「あぁぁ遠ざかる幸せ…。」



高志「向井さんの境界線はエロい顔なんだな。」



楓「そーだね。言われてみれば。ただ、すぐエロい顔になるからね夕君。」



夕「なるほど。鍛えよう。」



泉「お兄ちゃん!おばーちゃん元気だったよ!」



夕「さすがばーちゃん。原付き乗ってるだけあるね!てかこの間会ったばっかだけどね。」



翠「まぁーねー。てかさーあなた達さー諦めなよ!楓ちゃんがいるんだよー?」



美咲「おば様、私は夕に何度振られようがもう関係ありません!楓が嫌だと言わない限りは!」



友紀「右に同じです!」



翠「た、逞しい。将来うちの会社入らない?しかし楓ちゃん。いーの?」



楓「ママン。私は『悔いのない人生』をモットーにしています。本気で私に挑んで来たならば、例え友人でもその場で叩き潰しますが、夕君の側で青春をエンジョイしたいと望む彼女達の想いは無碍にしません。多少のスキンシップも許します。だって、誰だって夕君の側にいたら…ねぇ?メロメロになっちゃうでしょ?ふふ♡それに、いちいち気にしていたら逆に私の身が持ちませからね!一応高校生の間だけは許すつもりです。以上!」



翠「…相変わらず肝が据わっているというかなんと言うか…ロックよね!さすがうちの嫁ね!では采配は全て楓ちゃんに任せます。そして夕!調子こいて楓ちゃんを泣かせるような事は絶対許さないよ!いい?」



夕「YES!マム!」



高志「おばちゃんさー本当こんなノリ好きな。」



泉「おねーちゃんもママもかっこよかった!お兄ちゃんは…いつも通り!」



夕「………。」



美咲「やっぱ夕に関しちゃ楓には勝てないなー『まだ』だけど。」



友紀「この間は惜しかったけどさ、楓ちゃんがいたら完敗ね。『まだ』ね。」



翠「これだけ見せつけられて『まだ』なんだね。あなた達の事好きだわ私。いつでもいらっしゃいね♪」



美咲「ありがとうございますおば様!一歩前進!やったー♪♪」



友紀「おば様!ありがとうございます!夕君の事は抜きにしても、私はおば様に憧れました!可愛がって下さい!」



翠「やだちょっとこの子達ほんと可愛い!おばさん嬉しい!今日は泊まっていったら?」



楓「そんな事もあろうかと、実は準備してましたー♪」



友紀「私もー♪♪」



翠「あははは!気に入った!ほんとに気に入った!将来就職に困ったらいつでも言いなさい!まぁ夕は楓ちゃんのものだからあげられないけどね!『今』は。アハハハハ。」



楓「ちょっとママン!」



翠「アハハッ楓、おいで?ママンちょっと調子乗ったね、ごめんね?夕は任せたよ!絶対取られんなよ〜♡よしよし♡」



楓「はい♡」



高志「俺も実は用意してました〜♪」



泉「たかくん、ごめん。布団ない。」



高志「え?いや、いーよセミと寝るし。」



泉「は?お兄ちゃんは私とおねーちゃんと一緒だし。」



夕「えー。泉今日くらいいーじゃんよー。高志泊まってけ?な?」



泉「やだよ!こないだ二人でちゅーしたんでしょ?私はね、たかくん、君が信じられません!」



高志「泉ちゃん!10年近く俺を見てきただろ?!俺達は親友だ!それ以上でも以下でもねーぞ!」



楓「高志君。私もちょっと怪しいと思っていました。昔から遠くから見ていたけれど、ずーっと一緒だったよね?」



高志「な?!」



夕「おいおい…」



友紀「高志君さ、部長とどーなの?こないだだってさ、デートだったのにわざわざ来たじゃん?邪魔しに。」



美咲「ははーん。さてはあんたフェイクだな?部長と全然喋らないし。」



高志「ち、違うわ!深雪さんとはすげー仲良いから!ちょっと前からだけど……今はすげー仲良いんだからな!」



友紀「証拠は?」



高志「あ、あるけど?見せないよ?」



泉「お兄ちゃん!」



夕「はい!ご、ごめんな高志!僕達の、僕達の為なの!」



高志「わ!バカやめろ!」



こうして高志のスマホを奪取した僕達は『飯塚 高志 BL裁判』を開始した。



美咲「えっと…プププッだめ!笑って喋れない!代わって代わって!」



友紀「プププッえっと高志君…いや…た、たかにゃん…プププッあ、あなたは…この、この…アハハ!もーダメ!ムリ!アハハハハッ」



夕「もうやめてあげて!たかにゃんをもう許してあげて!見てらんない!こんなたかにゃん見てらんない!」



高志「う、うぐぐ…やめろー!お願いだー!もう分かったろ?もう分かっただろー!そうだよ!俺がたかにゃんだ!深雪さんが喜ぶんだ!ただそれだけなんだ!」



翠「へー。あんた変わったねぇ。いいじゃん。見直したわ。でもメッセージの語尾が全部『にゃん』なのはどーなのこれ?キモいなーって思ったのは私がおばさんだから?若い子ってこれが普通なの?」



泉「たかくんごめん!たかくんはキモいたかくんのままだった!いーよ!今日はお兄ちゃんの隣り許すから!」



楓「高志君私も謝る!私はいいと思うよ?」



夕「飯塚 高志被告、君に判決を言い渡します。──── 無罪にゃん!」



高志「あ、ありがとにゃん!」




こうして、無事無罪を勝ち取った高志であったが、勝訴の代わりに何か大事なものを失った気がしてならなかった。また、親友である夕はといえば、別の意味で一緒に寝るのちょっと嫌かも、と思ったりした。

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