第33話 心語り



なんで…なんで追いつけないんだ…


───…くん


なんで…足が…思うように足が…


──…うくん


おばーちゃん…


─ゅうくん


あ…届きそ…


ゆうくん!


う…なんで…


ゆう君!



友紀「夕君ってば!!」



夕「ねぇなんで??」



友紀「な?!」



夕「……おばーちゃんは?」



友紀「え?何の夢見てたの?!」



夕「ふわぁ。。今何時?」



友紀「もうすぐお昼。そろそろ帰るからちゃんと起きて。」



夕「ねぇ。」



友紀「なに?」



夕「おはよ。」



友紀「…おはよ♡」



夕「ふふっ。」



友紀「ふふふっ♡」




こんにちは、友紀です。


夏休みも残す所あと一週間とちょっと。今日は夏期登校日の2日目です。今日までに提出する宿題を、前日まで忘れていた夕君はおネムのようで、今日の授業はほぼ寝ておりました。夕君の座席の前に位置する私は、そろそろ2時間目の授業が終わるので起こしてあげたのですが…一体何の夢を見ていたのか訳の分からない事を言っていました。まぁそれは後で聞いてみるとして、それより皆さん聞きました?彼は、「ねぇ」って一度言った後に「おはよ」って言いました。これ…めっちゃ可愛いくないですか?!そして小さく「ふふっ」って!…た、たまりません!はぁー♡いや、いやいや分かりませんよね、皆さんは夕君を知りませんもんね。って先程から私は誰に話しかけているのでしょうか。とにかく、この事を分かってくれる人達へ向けてメッセージを送ります。共有って大事ですよね。



『それいい!うらやま!マジ席代わってくんない?』


嫌です。はい、美咲ちゃんは思った通りのリアクションですね。思う存分悔しがればいいのです。はいはい、睨みつけてもムダですよー。うふふ。



『わかる。やたら優しい声出すよね。あと可愛い!いつも可愛いけど。』


それ!やさ甘いの!自分が彼女かと思っちゃう♡さすがに妹ね!よく分かってる。可愛いよねー夕君♡



『ちょっと!私今田舎に来てて明日まで夕君に会えないんだよ?そんなの聞かされたらもう帰りたくて仕方ないよ!あ、こないだ撮ったモグモグゆう君送るね♪♪』


ボス!いつも有り難うございます!しかし楓ちゃん今日いないんだー。へー。ふーん。「ボス。今日夕君と遊び行きたい。」送信。


『遊びに行くのにいちいち許可取らなくていいよ?夕君をよろしくね♪♪』


いい子だ!!ごめん、ごめんね楓ちゃん!ちょっと悪いこと考えてた!普通に友達として遊ぶからねっ!ごめんねっ!



キーンコーンカーンコーン♪



放課後。



美咲「夕。ちょっと『おはよ』って言って?」



夕「おはよう。」



美咲「え?『ねぇ』は?何で『ねぇ』無いの?『ねぇ』言ってよ!」



夕「は?意味わかんね。それよりご飯いこ?」



美咲「ちょ、う、うん♡いこ♡今日は2人でいこ♡」



夕「いいよ。冷たい系がいいよね!あ、逆に?逆に温かい系?あ、どっちもっていう手もあるよね!」



美咲「アハハ♡何でもいいよ♡早くいこ♡」



夕「よし、いくぞ!(何食べたらいいんだ?泉に聞くか?いや、頑張ってみるか?いや、店ついたらラインしよ。)」



友紀「ちょっと待ったー!!」



美咲「うわ。」



夕「友紀ちゃん。何食べたい?」



美咲「夕だめ!今日は2人だけ!」



友紀「残念美咲ちゃん。私はもうボスに夕君と遊ぶと連絡済みなの。」



夕「あ、高志ー!お前今日飯はー?」



高志「むり。デート。もうお前と遊ぶヒマは無い。なぜなら、俺の夏は終わらないから。じゃな。」



夕「…バカなんだから。」



美咲「楓に報告済みって…もー。せっかくデート出来ると思ったのにー。」



友紀「諦めなさい。さ、夕君何食べよーね♡」



夕「えっと、えっと店構えで決める!」



友紀「大人っ!」




中華料理店にて



友紀「え?じゃ知らないおばーちゃんだったの?」



夕「いや、顔は覚えてないよ?何せ彼女はうずくまっていたからね。」



美咲「だけどさ、スーパーの買い物袋持ったおばーちゃんがさ、砂漠でうずくまってるってどんな状況よ!うける。」



夕「不思議だよなー夢ってさ。」



友紀「私もよく追いかけられる夢見るけどさ、足すっごく遅くなるよ!」



夕「それ!友紀ちゃんもあるの?夢って皆そうなのかな。まぁさっきのおばーちゃんはそもそも足速かったし、何で僕が追いかけているのかも分からないけどね!アハハハ!」



美咲「本当だね!あはは!」



店員「あーい。ひやちゅっかねー。」



夕「お、来たねひやちゅっか。夏はやっぱりひやちゅっかだよね。」



友紀「プププッやめてよ!」



美咲「アハハッおっかしー!」



……………



みんなで仲良くひやちゅっかを食べた3人は駅前のカラオケに来ている。



友紀「はぁ。けっこー歌ったね!」



美咲「そお?私まだよゆー。」



夕「そういえば3人で遊ぶの久々だね!」



友紀「そだね!4月ぶりだね!」



美咲「私らって実は出会ってまだ4ヶ月なんだねー。」



夕「そう言われればそだね。ずーっと一緒だったからね。濃いね。」



友紀「本当だねー。あ、濃いといえば、新婚生活はどお?」



夕「うん。すごく良いよ!それこそ一緒に住んでまだ2週間くらいだけど、もう家族だね。」



友紀「夕君達は凄いよね!私らの年齢だとふつー同居とかないじゃん?なんか二人はドラマしてるよね!」



美咲「そうそう!なんか、未来を先取りしてるよね!憧れるけどさ、私が楓の立場にいる想像が出来ないんだよねー。」



友紀「それ!夕君の事は大大大好きだけど、奪いに行くのは今は無理っぽい。その代わり、大人になったら覚悟してね♡」



美咲「白状するとね。ちょっと前まではさ、隙あらばって思ってたんだ。私も、友紀も。だけど、泉ちゃんからさ、夕が楓家に挨拶に行ったとか、同居し始めた、とか、今日は墓参り行った、とか、家族旅行行った、とか…聞いてると、ちょっと次元が違うって思った。私も夕が好きだから、今もその気持ちは少しあるけれど、今はなんか…学びたいな。」



夕「考えてみれば、あれだね、早いね。まだ僕ら今年で16だもんね。婚約とか同居か…周りにそんな人いたら驚くね、たしかに。」



友紀「楓ちゃんは特別だからね。」



美咲「そう。楓は凄いよ。凄い。」



夕「…いや、確かに楓ちゃんは凄い経験をしたけれど、特別とか、凄い人っていうくくり方はやめてね?まだ二人は彼女をあまり知らないでしょ?学校が始まって、しばらく一緒にいて尚そう思うならいいけれど、最初からそんな目で見ないであげてね?僕を通さずに楓ちゃんを見てあげてね?ただの女の子だよ、楓ちゃんは。悩むし、傷つくし、笑うんだ。僕らと一緒なんだ。特別じゃないし、超人でもないよ?だから、助けてあげて欲しいし、一緒に悩んで、笑ってあげて欲しい。二人にはそんな関係でいて欲しいなぁー…って何語ってるんだろね。二人はそんなつもりで話してた訳じゃないよね。なんかごめん!あははっ!」



美咲「夕…」



友紀「夕君…」



夕「さっ、飲み物取ってくるよ?何がいい?」



美咲「…ねぇ夕。ちょっと座って。私も少し語りたいの。いい?」



夕「うん。」



美咲「えっと、まずは夕、ごめんね。私ね、あんたの言うとおり、楓は特別だと思ってた。悔しいけれど、あの子は主人公で、私は脇役で…尊敬も妬みもあるけれど、それをぶつけるだけの相手のように感じてた。自分で作った『楓』っていう壁にさ、一人でボール投げつけてるような感じ。彼女は強くて、動じなくて、優しくて…敵う気がしない超人だって思ってた。…私さ、こんなに人を好きになる事初めてなんだ。恋がこんなに自分を変えるなんて知らなかったんだけど…夕、今私の中心にあるのはあんたへの想いなの。何時だって、どこでだって。叶うとか、叶わないとか関係なくて、あんたがいない世界は私は嫌なの。ごめん。ちょっと脱線した。ただ、そんな私だから、どうしても楓を一人の女の子として見る事は出来なかった。夕の彼女、夕のフィアンセ、夕の、夕の…って全部頭に夕がついてた。ごめん。私の大好きな夕、その夕が大事にしている人を私はちゃんと見ていなかった。ごめんなさい。そして、今分かった。私、楓が好きなんだ。どこかで認めたくなかっただけで、私も彼女に惹かれてたんだ。今すぐ会って、謝って、本当の友達になりたい。そんな風に思った。夕、私達はなんか変な関係性だけど…これからも仲良くしてね?…大好きだよ。」



夕「うん…。凄く響いた。嬉しい。凄く凄く嬉しい。ありがとう。僕の事も、楓ちゃんの事も。ありがとう。」



友紀「へへっ…全部言われちゃった。夕君。私も美咲ちゃんと一緒だよ。ごめんね。ねぇ夕君。私はあなたに二度恋をしたんだよ?初恋も、二度目も、相手はあなただった。そして、ついさっき、三度目の恋をしました。愛する人を優しく、包み込むように守ろうとするあなたに。…私はあなたが好き。きっと、これから何度もあなたに恋をするのだと思う。その度に切なくて、苦しくて…うっ…ごめんね。こんな感じで、泣いちゃうんだろうね…。でもね、夕君。それでもいいの。…ううん。それでもいいと思える程に、見せつけて欲しいの。おかしいと思うだろうけれど、私は幸せなんだよ?大好きなあなたが、ずっと大好きで居させてくれる事が、嬉しくて、幸せなんです。そして、私も楓ちゃんが好き。あなたを好きで、好きで、大好きな楓ちゃんが好き。だから安心してね?守るし、怒るし、笑う。時には傷つける事にも遠慮しない。美咲ちゃんと同じ様に、一生の友達でいられるような関係になりたい。だから夕君、これからも側にいさせてね。邪魔するし、迷惑も掛けるけど、笑って許してね?大好きだよ。夕君。」



夕「…うん。わかった。ありがとう。ありがとう…」



もう、言葉が出なかった。出るのは、涙だけだった。


二人の言葉、一つ一つが、綺麗で、美しくて、儚かった。


こんな展開になるとは思っていなかった。


今日の二人は僕の知る二人とは違っていた。


心がどうにかなりそうな程に、二人に惹かれている僕がいた。


もし僕の分身がここにいたのならば、思わず抱きしめていたと思う。



美咲「ん?夕?どした?あ、もしかして…惚れた?違う?ねぇそうでしょ?こんな夕見たこと無いもん!あはは!やったー!」



友紀「おやおや~夕君や。何だい苦しそうな顔しちゃってさぁ。ちゅーしたいのでは?うふふ♡いいのよ?我慢しないでもさぁ♡ほら、んー♡」



夕「ふっふふふっ!あははははっ!なんだよ!ちょっとマジでなんなん?危ないから!落ちちゃう所だった!危ない!今日の二人はヤバいよ!帰る!僕もうダメー!」



美咲「やー♡ちょーかわいい♡逃がさんよ♡やっとデレたねー♡」



友紀「思いがけず凄い成果を残せた!楓ちゃんには後で報告しますからね!夕君がデレたと、事細かく報告するからね!でも、今は抱きついちゃう友紀ちゃんであった♡」



ガチャリ。



高志「よー!お待たせ!ヒーローは遅れてやってくるってね♪」



美咲&友紀「「帰れー!!」」



夕「あ!ヒーローだー!待ってたぞヒーロー!ほんとお前ってヤツは!お前ってヤツは!キスしていいか?いいよな!」



高志「どわっ!あ、やわかい。」



美咲「何やってんだテメー!返せー!夕の唇返せー!」



友紀「ちょっと高志君!いいかげんにしてくんない?とりあえず土下座したらどう?」



高志「するかボケー!おいセミ!ディープなやつ!ディープなやつ来い!」



夕「えっ…自分からはちょっと…目は閉じてるからね、優しくね?」



高志「ははっ照れ屋さんめ。じゃーいくぞ 3.、、っぐはっ!」



美咲&友紀「…ごちそうさまでした。」



夕「…思ってたんと違う。」



迫りくる高志を強引に押しのけた二人から同時に唇を半分ずつ奪われた夕。

突然の出来事に動揺する夕ではあったが、二人に言わせればこれは正当防衛だったらしく何の問題もないとのこと。

当然後にその報告を受けた楓は激怒したが、夕が上書きとばかりにキスを応酬したおかげで30秒もたたずに機嫌が戻った。ちょろ。


それはともかく、この日、カラオケ店で思いがけず二人の想いの深さをを知った夕。

故に今後の関係性について一度は悩んでみたものの、最終的に『なるようになる』この一言で片付けた。

無責任ではあるが、今は考えても仕方ないのも事実。

いくら恋心を抱かれていようとも、夕は楓を一途に想うことしか出来ず、夕は二人にあくまでも友人として接する他ないからだ。

想いに応えられない辛さ、そして想いが実らない辛さを双方に抱える形ではあるが、幸いなことに、それぞれの持つ底抜けに明るいキャラクター性のおかげでそこに悲壮感はなく、むしろこのメンバーなら楽しくやっていけそうな気しかしないから不思議である。

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