第31話 神田家の夏休み①



「私を騙したのね!」



「違う!違うんだメアリー!」



「とぼけちゃって!証拠もあるのよ?見なさい!こ、これよ!」



「そ、それは…えっとバナーナ!」



「…ふふっ騙されたわね!これはバナナよ!これをバナーナと言うのはあなただけなんだよ!」



「そ、そんなバカな!?」



「違う違う、そこは『そんなバナーナ!』だよ。」



「あ、そんなバカなを?バナナに変えるってこと?すげーな泉。」



「社会の先生がよく言ってるの。はい、続きから。」



「そ、そんなバナーナ!」



「許さない!ブスッ!」



「あぁー血がー!ストロヴェリーの、よ、う、だー。バタッ。」



「ふっ。せいぜい発音の良さを後悔して死ぬがいいわ!」



「ダッダッダー♪ダッダッダー♪」



「…はいカットー!」



「あーおしかったな!そんなバナナが言えてたら完璧だったな!」



「まぁアレはね、仕方ないね。なんかおやじギャグらしいからね。けど最後のストロベリーは良かった!さすがねお兄ちゃん。」



「いやいや、それよりも証拠にバナナを出された時には焦ったね。意味分かんないもんね。それを綺麗にまとめられたのは泉、お前の返しが秀逸だったからだ!恐れ入る。」



そう言って不敵な笑みを浮かべながらガシッと抱き合う二人。



「ちょ、ちょっといい?あのさ、私が1階に降りて来た時にはもう始まっててさ、めちゃくちゃ笑えたんだけど、今の何?」



「あ、これね、神田サスペンス劇場だよ。即興劇だよ。」



「そそ、子供の頃からの遊び。まぁサスペンスドラマあんま見た事ないし、必ず僕は殺されるけどね。あと、急に始まるからね、楓ちゃんも気を抜かないようにね。」



「アハハハハッ!何やってるの二人ともー!面白すぎー!」



「ちなみに、昼ドラ神田とカンダーロードショーもあるよ。ドロドロしてるのと、映画っぽいやつね。まぁいずれにせよ僕は殺されるけどね。」



「アハハハ!ちょー見たい!楽しみ!」



「見たいって…おねーちゃんも演じる側だよ?神田家なんだから。」



「なんと!ワクワクする!」



「はいはい、皆仲良くて何よりね。準備できた?そろそろ行くよ!」



「「「はーい!」」」



お盆休み。普段働き詰めの母ではあるが、毎年この時期は一週間程の休みを取る。そして、墓参りの他に、必ず1回は家族旅行をするのが恒例となっている。そして今回からは楓ちゃんも家族として参加する事になった。久々に神田サスペンス劇場をやる程に僕ら兄妹のテンションはMAXなのだ。




「フジヤマでっか!見て!見て!」



「見てる!見てるぞ泉!デカイな!ヤバいな!あとフジサンな?なんか気になる。」



「すっごい大っきい!ねぇ夕君、何m?何mあるの?」



「はい。富士山の標高は3776mあります。みな、なろーと覚えて下さい。ちなみに、標高第2位の北岳とは500m以上の差があります。ちなみに、富士山は実は4つの山が重なって出来ています。ちなみに、、、」



「ちょっと夕!くどくない?何回ちなみれば気が済むの?お母さんイライラして事故りそう!」



「まさかの情報量だったわ。」



「おねーちゃん、うかつに聞かない方がいいよ?旅行前のお兄ちゃんは下調べがパないから。」



「なるほど。昨日ヤケにスマホ見ていたのはそのせいか。分かった!気をつける!」



「…裾野に広がるのは樹海と言っ、、、」



「うるせーよ!私に聞こえないように微妙に声量抑えてるのが余計に腹立つ!」



「何だよ!僕がせっかく…せっかく…お母さんはいつもそう!僕の気持ちなんて考えてくれないんだ!」



「はーい、次のサービスエリアでご飯食べまーす!」



「僕ラーメン!」



「立ち直りはっや!」



「…お兄ちゃんどーせ選べないじゃん。」



「………。」



例の如く泉に昼食を選んでもらい(カツカレーだった。美味しかった。カツは2個しか残らなかったけど。)トイレのため女性陣と分かれ、待ち時間の少ない僕がお土産コーナーを物色し、建物から出て来た所で楓ちゃんが駆け寄って来た。



「あ!夕君!大変!泉ちゃんがナンパされてる!」



はいはい。ちょっと目を離すとすぐこれだ。あいつは魅了のスキルでも持ってんのか?しかしサービスエリアでナンパとか意味分からん。まぁ何にせよ、出動しますか。



「おけ。ちょっと行ってくるから楓ちゃんここで待ってて。」



「う、うん。危ない事はしないでね!」



なんか下手くそなウインクをして彼は泉ちゃんの元へ走って行った。ママンに報告するべきとは思うけど、心配なので後をつけてみた。


……彼は何をしているのだろうか。大きな身振り手振りで訳の分からない言葉で捲し立てている…。すると、間もなくして声を掛けていた二人の男は苦笑いを浮かべて去って行った。よく分からないけれど、何もなくて良かった。夕君と手を繋いで、大笑いしながら泉ちゃんがこちらへ来る。



「アハハハハ!久しぶりにお兄ちゃんのお兄チャンが見れた!ちょー面白かった!」



「二人とも無事で何より!夕君凄いね!どうやって撃退したの?」



「あのね、お兄ちゃんはね、ナンパから助けてくれる時はだいたい変身するんだよ!さっきのはお兄チャンっていうね、ププッ、変な中国人の真似でね、アハハハッ私アレ大好き!」



「うん。まぁ僕ケンカした事ないからさ、怪我するの嫌だし、変身スキルを身に着けたんだ。」



「だから聞き取れない言葉だったんだー!アハハハハッ!凄い!凄いよ夕君!」



「前なんかさ、急に四つん這いになってさ、『乗れ泉!僕は今、お兄ちゃんじゃない!ポニーちゃんだ!』とか言ってさ、乗って逃げた事もあるよ!めっちゃ遅かったけど、皆唖然としてて追ってこなかった!アハハ!」



「あれな、膝痛いし、手も汚れるからもうやらない。あん時は相手が4人だったからな、仕方なかったな。」



爆笑した。


いやいや、私の夫になる人。一筋縄にはいかない人。変な人。だけど、こんなにトキメク人って居るの?そんな風に思う私も変なのかもしれない。でも、この安心感、この温かみ、心の底から惚れている。サービスエリアでそんな事を思う私は、やっぱり変わっているのだろうか。



「おーい!ん?なんか楽しそうね?さ、そろそろ行くよー!飲み物も皆の分買ったよー。」



つづく

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