第30話 あなた

〜雨と無知〜



お前は一人なんだよと、夜が教えてくれました。


目を閉じても一人。


手を伸ばしても一人。


雨音ばかりが騒がしい。




夕「いやいや!これは嫌だよ!絶対失恋系じゃん!」



楓「いやーそこがいいんじゃん!私達幸せだからこそ見れるじゃん?」



泉「まぁハッピーエンドは期待出来ないよね。じゃこっちは?」




〜父の帰還〜



父は言った。「帰ってくる。」と。


母は待った。「帰ってくる。」と。


僕は思った。「帰ってくる。」と。




夕「タイトルー!絶対帰ってくるでしょこれ!定時で帰ってくるよお父さん!」



楓「帰ってくるからいいんじゃん?帰って来ないと寂しいじゃん!」



泉「まぁ、ワクワクはしないよね。じゃこっちは?」




〜ホトトギス〜



鳴きたい。




夕「鳴けば?」



楓「鳴いたらいいよね?」



泉「何気に意見が一致したね。じゃこれ観よ!」



………………



夕「めっちゃ良かった!」



楓「めっちゃ感動した!」



泉「まさかこっちが泣かされるとはね!」



僕達は今父の墓参りのため田舎に来ている。所謂お盆ってやつだ。昨日は母方の祖父の家に一泊し、まだ母だけは祖父の家に残って酒盛りをしている。


今日夕方発のバスで帰る予定だが、おっさんやおばさん達の酒盛りの場ほど一緒に居たくない空間は無いため、僕達は逃げるように繁華街まで遊びに来ていた。



夕「しかしアレだねー。映画ってのは観てみるまで分からないもんだねー。でもキャッチコピーで損してるよね。」



楓「そうだね、泉ちゃんには感謝しかないわ。あぁ思い出すと泣けてくる。」



泉「マジ感動だったね。あ、今関係無いけどさ、私さーこの関係めっちゃ好き!お兄ちゃん、おねーちゃん、婚約おめでとう♡」



そうそう、昨日は親戚一同に楓ちゃんをフィアンセとして紹介した。


楓ちゃんのご両親にも既に挨拶を済ませ、僕達は未来の家族として同居する事を許して貰った。



楓「えへへ♡泉ちゃんありがとう♡」



夕「泉、次ゲーセン行くぞゲーセン!」



泉「いーね!記念にプリ撮ろ!」



………………



故郷。



私達が出会い、恋をして、愛を育んだ場所。



街はだいぶ変わったけれど、この辺りは昔のままね。



ただ、隣りにあなたは居ないけど。



あなた、このベンチ懐かしいね。



自動販売機は、変わっちゃったね。



学校帰りに立ち寄って、いつもあなたは缶コーヒーを買うの。



私はそれを少し貰うの。



このベンチに並んで座りながら。



あなたは右側で、私は左に座ってたっけ。



一度ここで喧嘩したよね、怒ったあなたは先に帰って、私はここで泣いていた。



ベンチに置かれた缶コーヒー。



少しだけ残ってた。



私の分だけ、残ってた…。



また私を置いていくなんて。



ひどいよ。



あの時とは違うのよ?



もう会えないんだよ?



小さな子供だけ残すなんて。



缶コーヒーとは違うのよ?



でもね、ありがとう。



残してくれて、ありがとう。



あなたに出会えて、幸せでした。



あ、ほら見て?元気に育ったあの子達が迎えに来てくれたよ?




「あー!ママいたー!ママー!帰ろー!プリ撮って帰ろー!」



「プリー?」



「さっきさ、お兄ちゃん達とプリ撮ろうと思ったんだけどさ、せっかくだからママも一緒にっておねーちゃんが!」



「えへへ♪ママン一緒に撮りましょう?神田家(仮)ってタイトルで!」



「そうね!でも私顔赤くない?お酒残ってて恥ずかしいなー。」



「ママ!最近のプリの美白効果は凄いよ?もう、ぜんっぜん大丈夫だから!いこ♪」



「そう?」



「はい、酔覚まし。」



「ありが………」



「あ、だいぶ飲んじゃったけどね。」



「あれ?泣いてる?なんで?コーヒー好きだろ?少なすぎた?」



「うっ、うっ、バカー!大好きだよ!あんたも!泉も!楓ちゃんも!大好きだよー!うわぁーん!夕のバカー!うわぁーん!」



「おいおい大丈夫か?泉、お母さんって泣き上戸だったか?」



「いやー初めて見た。」



「お父様の事思い出したんだわきっと…。」



取り敢えず三人でナデナデしてあげた。



その後は、お母さんも含めてプリを撮り、帰りのバスに乗ったのだが…何故かお母さんが僕の隣りに座っている。てゆーかさっきからずっと手握ってくる。そんですげー甘えてくる。なにこれ。泉も楓ちゃんも優しい目つきでこっち見てくる。分からないけど、頭を撫でていたらすぐに寝た。酒臭い。なにこれ。

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