第29話 ペアソープ
今日は私の入学試験の日。帰国者向けの転入試験日で、午前中に試験、午後には発表というインスタントな入試だ。おそらく受験生が私1人なので選考もラクなのだろう。
今は、夕君に学校までエスコートしてもらうために神田家に来た所だ。来た、と言っても私はずっと神田家にお泊りしているので、朝早くに一度自宅に帰り、両親に「行ってきます」を言って戻ってきただけだけど。それにしても、なんだか夕君の様子がおかしい。どうやら緊張しているようで、言動と行動がチグハグしていて面白い。ふふっ♪受験するのは私なのに。
楓「夕君?夕君?どうしたの?その靴、泉ちゃんのだよ?」
夕「ええ、お構いなく。」
楓「構うよ!アハハ!夕君が緊張してどうするのよ!ってそっちはママンのだよ?ハイヒール履いて行く気?もう、やめてよもー!アハハハハ!」
翠「夕!あんたしっかりしろバカ!その靴高いんだからね!」
泉「お兄ちゃん!新しい石鹸全部封開けちゃったでしょ!どーすんのアレ!洗面所山積みじゃんか!」
夕「はは。なるほどね。」
翠「あーあ。ダメだコイツ。楓ちゃん、本当に連れてくの?5割増しでヤバいけど。」
楓「はい!私は嬉しいです!確かになんかヤバいけど…責任持って連れていきます!じゃ、夕…ちょっ!夕君!それ懐中電灯!スマホはこっち!ハハ…で、では行ってきます!合格勝取ってきます!」
翠「なんかゴメン!本当にゴメン!じゃそいつ宜しくね!頑張ってね!」
泉「おねーちゃん!ごめんね!そんなお兄ちゃんでごめんね!頑張ってね!いってらっしゃい!」
夕「泉、お母さん。今から学校行ってくる。」
翠「知ってるわ!早よ行けバカ!」
楓「はいはい夕君こっちだよー。行ってきまーす!」
バタンッ
泉「はぁ…お兄ちゃんはどうしてこう…お兄ちゃんなんだろうね。」
翠「どうやら私の血は入ってないわね。」
泉「え?!じゃ結婚できる?!」
翠「泉。あんたも大概よね。」
………………
「楓ちゃん。ポケットに石鹸入ってた。」
「へ、へぇー……。」
「2個。」
「アハハハハッ!やめてー!」
「1個いる?ペアソープしちゃう?」
「ブハッ!ちょ!やめろー!苦しい!」
「だよね、今時ペアとかね。」
「そっちじゃなーい!」
私達は今学校への通学路を歩いている。しばらくチグハグな夕君だったがどうやら落ち着いたようだ。しかし朝から笑いっぱなしだ、あー2年前の私に見せてあげたいな♪ことある毎にそう思う。幸せ♡まだ結果は分からないけれど、受かれば毎朝こんな調子で二人で通えるなんて嬉しすぎ!ぜーったい合格するぞっ!オーッ!
………………
「おはようございます。試験官の川田です。試験日程は板書の通りですが、今日試験を受けるのは向井さんお一人なので、3科目終わったら即終了で構いません。その後、簡単な面接を行い、午後には発表となります。では、準備が出来たら開始となりますが、えっと神田君。なんでいるの?」
「保護者です。」
「はい、意味分かんない。取り敢えず出ようね。」
「どうしてもですか?」
「当たり前だろバカ。」
「先生。」
「何よ。」
「出たくない。」
「…ちょ、何でちょっと泣いてんの?いいから早く出ろー!」
「夕君!先生困らせないの!嬉しいケド…あとでね?」
「…うん。ベイビーがんば。」
「うん!頑張る!」
…………
「…泣いてたね。どういう関係?」
「フィアンセです…。ご迷惑おかけしました。」
「マジ?あ、申し訳ない。詳しい話はまた後で……ってうわぁー窓からめっちゃ見てるけど…。大丈夫?始められる?」
「大丈夫です!お願いします!」
「はい、では始め!」
…………
こうして、国・英・数の3科目のテストと、面接を終えた。テストは思いのほか簡単だったし、面接は、面接官でもあった川田先生から夕君との関係をめっちゃ聞かれて終わった。いいのか?あれで。夕君はドアの小窓からずっと見ててくれた。時々先生に叱られていたけど。今は、発表までの間教室でご飯を食べている。何故か川田先生(27歳、女性、未婚、彼氏なし)も一緒に。
川田「ちょっとズルくない?高一でフィアンセとかめっちゃ憧れる!」
夕「先生、僕達だってね、簡単にここまでになった訳じゃないんだよ?もうね、全然ズルくないんだからね。」
川田「確かにねー。さっきちょっと聞いたよ。先生うるうるしたもん。向井さん。よく頑張ったね!神田君はさ、なかなかに、なかなかよ?先生応援するからね!秋から同じクラスにしてあげちゃう!」
楓「え?私受かったんですか?!」
川田「えっとー。うん。内緒だけど、おめでとう!」
楓「夕君!!やった!!やったー!!」
夕「やったー!!楓ちゃんおめでとう!めちゃくちゃ嬉しい!!」
川田「内緒よ?内緒。だってほぼ満点だし、面接私だしね♪最高点にしといた。いい話聞けたし。けど、私の前ではイチャつくの禁止だから。」
夕「先生、先生、はい、コレ!ペアソープあげちゃう。」
川田「え?石鹸?」
夕「そ!彼氏できる系のやつ。」
川田「マジ?分かった、飾る!ありがとう!」
楓「……。」
夕「うん。なかなかでしょ?」
楓「それ気になってたんだね。」
……………
川田先生からのサプライズ発表の後、正式に教頭先生から合格の通知を受けた。嬉しい。私も9月から晴れて青校の生徒だ。夢がどんどん現実になっていく。最高だ!久々の学校、夕君達とのスクールライフ、わくわくするなぁー!
フランスではホームスクーリングを受けていて、実際に学校には行っていない。事情が事情なだけに、今回は特別な処遇を受けて転入試験を受ける事ができ、合格もできた。つまり、夕君に告白した2年前の一学期終わりからの続きを、この青校で再開出来るということ。この時が動き出す感じ…あぁ…最高…笑顔が、止まりません!
夕「ここが1年の階だよー。僕のクラスはあっちの端っこ。」
合格祝いを兼ねて夕君が学校案内をしてくれている。二人で歩く廊下…なんだかあの日を思い出すなぁ…。変な告白をしたんだよな…。思い出すと顔を覆いたくなるくらい恥ずかしい。でも、あれが始まり。あれがなければ今は無い。グッジョブよ!私!
制服が違う、背もだいぶ大きくなった、でも確かに夕君が隣りにいる。そして、今は手を繋いでいる…。素敵。これは神様からのプレゼントね。神様、メルシー!
楓「へー!ここが夕君の教室なんだね!」
夕「先生の発言通りなら、もうすぐ楓ちゃんのクラスにもなるね!ちなみに、担任は川田先生だよ。」
楓「同じクラスかぁー♡まんまあの日からの続きなんだなー♡あー♡嬉しいなー♡あ、夕君の席はどこー?」
夕「僕の席はね、ここ!高志があそこで、美咲がここ、友紀ちゃんはここ。」
楓「なんと!友紀ちゃんと前後じゃん!妬ける!」
夕「いつもいい匂いしてる。」
楓「な!夕君の浮気もの!私のも嗅いで?嗅いで?」
夕「ん。僕と同じ匂い。シャンプー一緒だもんね。けどね、なんかね、エロい気分だ!」
楓「っんー♡教室でチューとかヤバいね!夕君、癖になりそ♡もっかい♡」
夕「僕も!んー、、、」
美咲「こらー!きょ、教室でい、イチャつくなー!!」
友紀「ギルティ!!」
楓「どわっ!」
夕「ちょ!なんで?!」
美咲「まず離れなさいよ!話はそれからだ!」
友紀「ギルティ!!」
夕「っとと、急にモンスターに襲われた気分だ。」
美咲「誰がモンスターよ。楓、おめでとう!」
友紀「楓ちゃん!おめでとう!カワチーから聞いたよ?」
楓「え?!わざわざ来てくれたの?」
美咲「まーねー。ダチっしょうちら。」
友紀「楓ちゃんふつーに受かりそうだしさ、おめでとう言いに来たの♪」
楓「うぅ。ありがとう。泣ける。」
美咲「夕も良かったね!」
夕「うん!」
友紀「ねぇねぇ!楓ちゃんて部活決めてんのー?もし良かったら文流入らない?」
楓「あ、皆の入ってる部活?」
友紀「そう!文化交流部!特にやる事ないけどね、放課後部室でおしゃべりしたり、遊びに行ったりするの。どお?」
楓「それは最高の部活だね!入りたい!」
美咲「いーよ!その代わり、部活中は夕を私達にも分け与えること!いい?」
夕「マジか。」
楓「なっ?!何それ!どーゆうこと?!」
美咲「まぁ別に?特に?(時々触ったり?唇奪ったり?)」
友紀「あーんとか?そんくらいよ、そんくらい。(事故的に?キスくらいは?あるかも?)」
楓「ふーん…なるほどね。ハーレム部にしたい訳ね…はぁ…人生は一度きり…か。仕方ない、少しくらいならいいよ。」
美咲&友紀「「マジか!!」」
夕「おいおい…。」
楓「だって、夕君がお世話になってたしね。泉ちゃんから聞いたけど、私が居なかったらさ、ガチでどちらかと付き合っていたらしいし…。高校生の間だけなら…いいよ!その代わり、勝手はダメ。許可制にします!夕君と何かしたいのなら…私の許可を得ること!いい?」
美咲&友紀「「はいっ!!」」
夕「おいおい…。」
美咲「楓、あんたやっぱ凄いね!」
友紀「ボス!宜しくお願いします!」
楓「うん。後悔しないように生きよう!」
美咲&友紀「「はいっ!!」」
夕「おいおい…。」
……………
今私と夕君は神田家への帰路の途中。美咲&友紀コンビは補習の為に学校に残った。あれ?お祝いに来たのではなかったのかしら?ん?今思えばハーレム部への不自然な勧誘…まさか、計画済み?…やられたー!ま、楽しそうだからいーけどね♪
夕「楓ちゃん。あんまり許可しないでよ?てゆーか僕の拒否権どこ行ったか知らない?さっきから探してるんだけど。」
楓「ごめんね夕君。あなたの拒否権は私が預かっているの。妻の務めよ。」
夕「そーなんだ。安心。でも涙出そう。」
楓「アハハッ!夕君はね、男には頼れる勇者、女には無敵の魔王、私にだけは旦那様なのよ?私の愛する旦那様はね、妻には絶対勝てないんだからね?」
夕「確かに…!けど旦那以外の役職多いね、魔王は嫌じゃないの?」
楓「はぁ♡あ、ごめん自分で言っときながら旦那様発言に酔いしれちゃった♡あ、魔王?んー悪い気はしないな!夕君がモテるのは当然だし、女としては嬉しくもあるの。」
夕「マジかー。僕は楓ちゃんがモテるの嫌だな!想像しただけで、嫌だな!今分かったけど、僕は独占欲が服着て歩いてるような男だった!アハハッ!」
楓「嬉しい!!今きゅんきゅんすること言ったよ夕君!ね、ねぇ夕君…まだ泉ちゃん帰らない…よね?あの…早く、帰ろ?」
夕「っ!!だねっ!帰ろう!すぐ帰ろう!今の僕はね、性欲が服着てるような男さっ!」
楓「み、みーとぅ♡」
一方その頃職員室では。
「よしっ!なかなかね♪」
二つの石鹸を丁寧にラッピングし、大事そうにデスクに飾に飾る独身女教師がいた。
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