第25話 ケモノラバーズ



放課後、と言っても今日は夏休み登校日なので、まだ12時を過ぎたばかりだ。さっきまでは、早起きの代償で凄く眠たかったけれど、不思議なことに放課後となると元気一杯だ。13時には楓ちゃんが家に来るので、試験勉強に付き合うつもりでいる。さ、早く帰ろ。



友紀「ゆーーくーーん!待ってー!」



夕「………No!」



いかん。捕まる。逃げよ。



美咲「はい。残念。」



夕「くっ……。」



…まさかの挟み撃ち。



美咲「ご飯食べいくよ。」



夕「No!」



友紀「はぁ、はぁ、美咲ちゃん、ないす!」



美咲「ふん。コイツの行動パターンなんかお見通しよ。けど、ノーとか言ってますけど。」



友紀「むむ。さては正妻と会うつもりね。」



夕「そうだよ。楓ちゃん青校受験するんだ。来週試験だから、僕も一緒に勉強するんだからね!」



友紀「なんと…!聖域が!私達の聖域が!」



美咲「くっ…なんという…破壊神のごとき所業…。」



夕「やめろよ!神は神でも女神様だからね!」



美咲「黙れ邪教の信者よ!」



友紀「くぅ。こうなったら仕方ない。美咲ちゃん!作戦会議だよ!」



美咲「だ、だね。一刻を争う事態よね!」



そう言って何処かへ走り出す二人。



夕「…なんだよ、応援するって…言ってなかった?」



なんだか釈然としない気持ちのまま、下駄箱で靴を履き替えようとしていると、後ろから声をかけられた。



「神田君!」



「あ、マスター…ってあれ?そちらの方は…」



「あ!君が勇者君?私は2年の虹岡 恵です。よろしく!今君の話をしていた所だよ。」



「あー…。こんにちは、虹岡先輩。それがですね、どうやら僕は勇者ではなかったんです。ただの冒険者。冒険者カンダーでした。勇者は、彼でした。」



「ふふっ面白いね。けど、私嬉しかった!急な事でびっくりしたけれど、『僕、今友達の…いや、勇者から勇気を貰って、ずっと話しかけたかった先輩に、挨拶しに来ました!おはようございます!』って言われてさ、笑っちゃったけど、名前も言わないし…今日ずっと気になっちゃって、さっき見かけて…思わず声かけちゃった。」



そう言って、照れたように笑う先輩。日焼けた肌に浮かぶ数滴の汗が光っている。健康的で、ポニーテールのよく似合う美人さんだ。



「そっか。マスター良かったね!」



「うん!ありがとう神田君。奇跡みたいだ!」



「アハハ!でもマスター。何度も奇跡を起こすのが、勇者ってやつだろ?見せてくれないか、この先を。」



「そ、そっか、そっか。うん!せ、先輩!」



「は、はい!」



「好きです!…あの、急に、ごめんなさい!でも、なんか、止まりません!好きです!」



……おぉ…別に今すぐって意味じゃなかったんだけどな…けど、なんかいいな。



「わわわ…確かに…急だね。皆見てるし…。ふふっ。でも嬉しいかも!えっと、じゃー…なってみる?私の勇者に。」



「あ、あっあっあ………はい。」



「えーー!急になんか、元気なくない?」



「だって…こんなの……読んだことなくて……分からなくなって…嬉しすぎて…ただ……その…好きです…。」



告白の時とは打って変わって、俯きながらそう呟く勇者。分かるよ、マスター。キャパオーバーってやつだよな。



「ちょ。ちょっとカンダー!岡田君、可愛すぎない?!ヤバい!抱きしめていい?汗くさいけど、いい?」



下校の為、下駄箱周辺に来ていた数人の生徒達。突然に始まった告白劇を皆固唾を呑んで見守っていた。そして、今は皆が僕の発言を待っている。いいね。場は整った。



「ヨーイ。ドンッ!」



そう言うと、虹岡先輩はスタートダッシュよろしく勇者へと思い切り抱きついた。そして、「私のかわいいゆうしゃくーん♡」とワシャワシャと揉みくちゃにしている。「うわ、うわっ」とされるがままの勇者。



いい。実にいい。文学少年とスポーツ少女の恋が今、始まった。大満足の僕は、二人を生暖かく見守る生徒達の合間を縫い、その場を後にした。


「夏だなー。」そう呟いて。



……………



先程の一件のおかげで、なんだか晴れ晴れとした気持ちで自宅に入ると、それこそ太陽のごとく眩しい笑顔の楓ちゃんが迎えてくれた。



「おかえりー♡あなたー♡」



「ただいま楓!会いたかったよ!」



「私もー!!」



華麗な飛びつき抱っこで僕から離れない楓ちゃん。汗くさくてごめんよ。足を器用に使って靴を脱ぎ、そのままリビングへ。もうね、ちゅっちゅが凄い。嬉しいけれど、前が見えない。



「あれ?泉は?」



「今日は午後から塾らしくって、さっき行ったよ?だから留守番してたの。」



「そか。ありがとね。ベイビー。」



そう言って、楓ちゃんを抱いたままソファに座ると、発情期が如く接吻の嵐が僕を襲った。堪らずそのまま担いで2階へ上がり、獣った。


2年分、獣に獣った。


寝不足もあったせいか、乱れたシーツはそのままに二人で眠り、気づけば夕方になっていた。


「お昼、食べそこねちゃったね♡」と囁くベイビー。なんか色っぽい。すかさず「おかわりっ!」と張り切るものの、「だーめ♡そろそろ妹が帰ってきますよ♡」と、おあずけを食らってしまった。くぅ〜ん。



二人でシャワーを浴びて、ご希望があったのでタオル係もやってあげた。昨日は羨ましかったとのこと。


そうそう、楓ちゃんはしばらく家に泊まってくれるらしい。同棲についても、親の反対はなかったそうだ。嬉しいな。試験が終わったら挨拶に行って、僕からもお願いしてみようと思う。いかん、試験勉強手伝わないとね。


髪を乾かしながらそんな話をしていると、泉が帰って来た。



泉「ただいまー!」



夕&楓「おかえりー!」



脱衣所へ来る妹。



楓「おかえり泉ちゃん。」



泉「ただま!あ、シャワーしてたの?私も浴びていい?」



夕「いーよ!あ、でも夕飯どうする?食べに行くならそのままでも良いんじゃない?」



泉「そーね。でも1回浴びたい!シャワーの事考えたら、浴びないとなんか気持ち悪い。」



楓「分かるー。じゃさ、食べ終わって帰って来たら、今度は皆で入ろっか!」



泉「うん!じゃとりまシャワーいただきまーす!」



夕「あーい。」



この時点で17時。それから2時間程勉強を手伝い、今は三人で近所のファミレスへやってきた所。



泉「お兄ちゃんは海老フライとハンバーグのセットね?私はドリアとチョコパフェ。」



夕「うん。」



いつもの事ではあるが、僕のメニューは泉が決める。泉が食べたい物が僕のメニューになる訳だ。シェアというよりも、泉が食べたい分だけ取っていくジャイ◯ン形式だ。



楓「え、夕君選択権ないの?」



夕「ないよ。」



楓「さも当然のように…。」



泉「おねーちゃん。お兄ちゃんはね、決められないんだよ?」



そんな事ない!と、言ってみたい所だが、そんな事あった。子供の頃から続くこの習慣のおかげ?で泉がいると僕の思考はストップする。泉と一緒の場合はメニューを見ることもない。なので、友達と外食するような時はいつもドキドキしていて、結局誰かと同じ物しか食べたことがない。泉しか知らない僕の弱点であった。



泉「だからおねーちゃん、二人で外食する時はちゃんと決めてあげてね?おねーちゃんの食べたいやつでいいからね?シイタケ以外は何でも食べるから。」



夕「………。」



楓「子供みたい!ほんとに面白い兄妹だよね!泉ちゃん、了解しました!おまかせ下さい!」



夕「おねがいします…。」



僕が小さい声でそう言うと、お腹を抱えて笑われてしまった。くそぅ。



そんなこんなで無事メニューも決まり、夕食も食べ、自宅に戻ってきた。戻ってリビングで寛いでいたら、泉が今朝の事を聞いてきた。



泉「ねーお兄ちゃん。今日学校行くの早くなかった?」



夕「あ、それね。2人共さ、一番乗りで教室に入ったことある?」



楓「んーないな、そういえば。」



泉「わたしもー。」



夕「だろ?僕もね、今日まで考えた事なかったんだけど、丁度早起きしたもんだからさ、一番乗りやってみたの。そしたら、何が起こったと思う?」



楓「全然分からない。眠くなっちゃうくらいかなー。」



泉「だよねー。何か面白いことあった?」



夕「あった。あったよ。それがさ、なんと、恋が始まったんだよ。」



マスターの容姿や、普段の様子から始まり、今日の経過を事細かく説明すると、後半からは目を輝かせて聞いてくれた。達成感が凄い。



泉「わぁー!凄いね!マスターは男になれたね!」



楓「私は夕君の活躍が誇らしいよ!勇者カンダーかっこいい!」



夕「いやーまさかだったよねー。」



泉「なんか私も恋、したくなったかも。」



夕「まだ早い。」



楓「うわ。凄い低い声出た。」



泉「む!なんでよ!二人なんか、今の私より1つ下の時じゃない!そんで…どうせ初体験もしたんでしょ!」



楓「なっ………(赤面)。」



夕「……答えづらい!お兄ちゃん答えづらい!初体験とかやめて!」



泉「だって…。」



しゅんってしちゃったな…。



夕「泉、さっきは早いって言ったけどさ、マスター達も、僕達も、したくて恋したんじゃないんだよ?気づいたら、してたんだよ?過去形なんだと思うよ、恋は。だから、さっきの『早い』はさ、単にお兄ちゃんが寂しくなっただけだよ。でも、恋を『したい』じゃなく『した』のなら、覚悟はしているから、その時は僕に遠慮しないでいいからね?でも、それまでは、僕達だけの、泉でいてね。」



泉「おにちゃんだっこ。あとちゅーも。」



夕「おーよちよち。宇宙一かわゆいなお前は。けどチューはどうなの?最近よくするけれど、チューはどうなの?少なくとも、僕からは気がひけるんだけども。」



楓「泉ちゃん。やっちゃえ。」



夕「どっ。」



抵抗の間もなくガンガン唇を奪われる僕。しかもフィアンセがゴーサイン出すってどうゆうこと?妹ってふつーチューするの?別にいーけどさ。あ!そっか!そうだった!妹はペットだった!ならOK!どんどんこい!どんどん!



丁度お母さんも帰ってきたので、母、兄、義姉で存分に妹を甘やかした後、三人でシャワーを浴び、また僕の部屋で二人共寝る事になった。別にいいけど単純に狭いんだよな。広いベッド買うかなーとか考えていたら…



泉「うわ!なんかベッド湿ってない?」



楓「なっ………(赤面)。」



夕「黙秘します。」



泉「…あーーー!」



妹の部屋で寝た。シーツは洗濯した。

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