第16話 テンション
楓ちゃんからの嬉しいお知らせが来てから3日が経った。1日目はずっと興奮状態で、夜もサンタを待つ子供のように、何度も起きては窓から外を眺めたりしていたが、今はだいぶ落ち着いている。せいぜい砂糖と間違えてコーヒーに塩を入れちゃうくらいだ。問題ない。
泉は僕の異変にとっくに気づいていて、理由を話すと「うわ!例の元カノ?!私も会いたい!会ってお兄ちゃんを苦しめた文句を言ってやるんだ!」と気合を入れていた。あの時一緒に泣いてくれたんだよな、可愛いやつめ。
ちなみに、先日の告白後の僕らの関係は至って通常で、「私もだいぶ大きくなったからさ、いざとなったらお兄ちゃん守ってあげるね♡」なんて言っている。可愛いやつめ。
しかしどうしてこんなに可愛いのだろう。目の中に入れても痛くない。むしろ入ってくれたらずっと見ていられるのになーってヤバいヤバい。妹の事になるとついつい脱線してしまう。今は楓ちゃんのターンだった。うん。手紙には8月中の帰還と書いてある。長くて3週間以上もある訳だ。何にせよこの2年に比べたら一瞬だよね、気長に待とう。
ピンポーン♫
まさか?!と思い最速最小の動きで階段を降り、流行る気持ちを抑えもせず玄関を開けたが、そこに立っていたのは美咲と友紀ちゃんだった。予想外の美少女2人組の訪問に、驚きと喜びを持って迎えるのが紳士のマナーと心得るが、今はどうしても落胆を隠せない。「ささ、どうぞ中へ。」と古城の執事みたいな歓迎しか出来なかった。
美咲「嘘でしょ?!」
友紀「サプライズは成功してるのに、達成感が全然ないんだけど?」
泉「あ!いらっしゃーい!」
美咲「泉ちゃん♡やほー♬お菓子持ってきたよー♬」
友紀「今日は呼んでくれてありがとう♡おじゃまします♬」
泉「わぉ♫さ、入って入って♡」
女子特有の音符やらハートマークやらが飛びかうような挨拶を背中で聞きながら階段を上がる僕。
すかさずベルトのあたりを掴む妹。
踏ん張る僕と妹。
妹を応援する2人。
後ずさりする僕。
観念して飲み物を用意する僕。
ドヤ顔の妹。
何故かドヤ顔の2人。
悔しがる僕。
夕「はい、いらっしゃい。」
美「テンション!」
友「なんかあったのー?」
泉「元カノが来たと思ったんだよねー?」
美「え?例の??」
友「フランス人の??」
夕「日本人だよ!いやさ、それがさ、久々に手紙が来てさ、8月中にさ!帰ってくるってさ!書いてあったんだ!」
美「テンション!!」
友「うわー。急にキラキラしてるー。」
泉「手紙来てからずーっとこうだよ。手紙来た日なんてさ、帰って来るかもって…私が知る限り22回は中と外出入りしてたよ。凄い笑顔で。」
夕「まさか数えてるとは…」
美「友紀ー、これはー…」
友「美咲ちゃん、分かるよ。出る幕がないって感じ?」
美「それー。だってご主人を待つ仔犬みたいな目してるもん。」
友「わかるー。圧倒的敗北感ってやつ?涙も出ないよ。」
泉「2人共ごめんなさい。兄に代わってお詫びします。」
美「いやー。でもでも?実際来てみないと分かんなくない?なんかすっごく太って帰って来ちゃって、イメージ違った!みたいな?」
友「おぉぉ!急に元気出てきたよ!だよね!てゆーか見えない人にビビる事ないよね!だって実際に目の前にいるのは私だもの!私が堕とせばいいんだもん。夕君!好きです!私の全てを受け取って下さい!」
美「ななっ!胸寄せたー!色仕掛けとかズルい!夕!いや、ゆーたん♡私といたらずーっと幸せだよ?ねぇゆーたん♡私のこと好き?」
友「あざとい!しかもキャラじゃないからちょいキツイ!」
美「はぁー?ふざけんなよ!あんたなんかおっぱいだけじゃん!」
友「ち、違うもん!い、色もきれい…と思うし…」
美「結局おっぱいじゃんか!てか、え?色?色ってそんな違うの?あ、あのさ、あとでちょっと見せてくれる?」
友「いーけど…そう言われるとちょっと自信がないといいますか…確認し合うってのはどう?」
美「だ、だね、大事なことよね、きっと。」
泉「た、たくましい先輩達だ…」
夕「だろ?いつもこんな感じなんだ、楽しいよね。」
泉「お兄ちゃん、私の色って…その…どう思う?」
夕「妖精かと思うくらい綺麗だよ?」
泉「ほんと?!嬉しい!!」
美咲&友紀「「っなーー!!」」
友「な、な、なんで知ってるのー?!」
夕「だって…時々お風呂一緒だし。」
泉「ちょっと…お兄ちゃん…」
美「なにそれふつーに羨ましいわ!ねぇ夕、ちょっと汗かいてない?一緒にお風呂入らない?」
友「なっ?!」
夕「えっ!いや、でもそれだけじゃ終われない…と思いますので…」
美「か、か、か、構いませんよ?」
友「ビビってんじゃん。」
泉「ウチのお風呂で何しよーとしてるの?絶対に許さないよ!!」
こんな感じの会話が延々と続き、楽しいけれど少し疲れた僕は飲み物類の補充と称して外へ脱出した。
美咲と友紀ちゃん、楓ちゃんが帰って来る予定がなければどちらかを彼女にしたいと思っていた。容姿も性格も僕には勿体無いくらいの2人にも関わらず、僕のことを好きだと言ってくれている。有り難いことだ。ただ、あの2人は、2人で一つみたいな所があるので、どちらかを選ぶみたいなことは正直考えられない自分がいたりする。それこそ個別でデートを重ねない限り個人個人では考えられないだろう。でも、それは杞憂に終わった。楓ちゃんが帰ってくるんだ。2人には何度も振る形となり申し訳ないけれど、自宅に戻ったら改めて断ろう。さっきは話の内容が楽しくて言いそびれてしまったし、あれだけ大っぴらに明るく好意を向けてくれるものだから、嬉しくなってしまったのも事実だった。でもケジメは大切だよね。おっと、アイスが溶けちゃうから急いで帰ろう。
「ハァ…ゆ…ゆ…ハァハァ…ゆぅぐっぐぅ…ん…ゆ…ハァ…」
玄関前、落とした鍵を拾っていると、門の辺りから唸り声というか喘ぎ声?が聞こえた。なんだ?と思い振り返えった瞬間、勢いよく何かが僕に飛び掛かってきた。
野生の楓ちゃんだった。
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