第15話 青春
夏休みに入り一週間が過ぎた。
新聞を取りに行くだけで舌打ちが出る程の暑さが襲ってくる。「暑いわ!」と夏に華麗なツッコミを入れつつ、僕はポストに手をツッコんだ。
取り出した新聞とハガキの間からポロっと落ちた封筒を屈んで拾おうとしたその時、今までに経験したことのない程巨大な揺れが僕を襲う。
ヤバい!地震だ!と、思ったが揺れていたのは僕の膝だけだった。
思わず座り込む僕。目が霞んでよく見えない。動悸と吐き気がして手もブルブルと震えている。
でも大丈夫、流行りの熱中症ではない。
うん、原因は分かっているんだ。
原因はこのピンクの可愛い縁取りをした封筒。
そう、このフランスから届いた神々しい封筒様だってな!!
ふふっ。笑えてくるぜ。
僕の新しい一歩を、2年をかけ、やっとの思いで踏み出した一歩を、君は封筒一つで簡単に追い抜かしてくるとはな…。へへっ、やるなベイビーちゃん。どうやら僕はまだまだ君に熱中症のようだ…ぜ☆
しばらくそのまま動けずにいたら、近所のおばさんが心配して声をかけてくれた。声が上手く出せないので、取り敢えずダブルピースで応えたら余計に心配された。(たのむ、今はそっとしといてくれおばちゃん。後で羊羹あげるから。)なんて思っていたら震えが収まってきた。おばちゃんエキスが効いたみたい。なんか嫌だけど、立ち上がってお礼を言う事が出来た。
今、リビングのテーブルに封筒様を置いて、にらめっこをしている。さっきまでは浮かれ気分でいたけれど、冷静に考えてみると、手紙が来なくなって1年以上経っている訳で、前まで行っていたような日常報告とは考え難い。だとすれば、一体どんな内容なのだろうか。どうしよこれ、開けるの怖いんだけど。
仮説①日常報告と愛の囁き。
仮説②結婚しました。
仮説③芸能界デビューしました。
仮説④ピンチだから助けて。
現実的には①か②だろうか。①が可能性的には1番高いな。けど、今更感はあるよね、嬉しいけど。②だったらかなり凹むな。結婚式乗り込んでしまう気がする。でも、楓ちゃんまだ15だぞ?フランスではOKなのか?まぁどちらにせよ乗り込む事決定だから答えは出ている。次。③もあり得るな、元々可愛いかったし、2年も経てばさらに磨きが掛かっているだろう。向こうで奇跡のオリエンタルガールとしてデビューしても不思議じゃない。これはいいね、応援しよう。で、④やはりスパイなのか?力にはなりたい。出来る事と出来ない事はあるだろうが、出来る限りは協力しよう。うん。まだまだ色んな仮説は考えられるけど、④まででだいぶ覚悟が決まった。よし、開けるぞ。
チョキチョキ。
『夕君。お元気ですか?私はすっごく元気です。信じられないくらい元気です。突然のお手紙、そしてずっと連絡が出来なくてごめんなさい。私のこと忘れてないよね?覚えてるよね?あ、夕君に会えると思ったら最高に嬉しい反面不安も凄くって…って文がめちゃくちゃだ!私ね、もうすぐ日本に帰ります!8月中に帰ります!日にちも決まってるけど、言いません!突然会いに行って、ただいまって言うのがしたいから!はぁー楽しみ!!会ってからさ、なんでフランスに?とか、なんで連絡が途絶えたか、とか話します。謝りたいし、話したい事たくさんあるの!抱きつきたいの!キスしたいの!あーもう♡夕君は今この手紙読んでるんだね!嬉しい!嬉しいなー♡大好き♡大好き♡大好き♡わー♡でも彼女いたらどうしよう…ってまた不安きたー!あー!めちゃくちゃなお手紙だー!でも送っちゃう!会いたい!ずっとずっとずっと毎日会いたかったの!!それが会えるの!もうすぐ!!やっっっったー♡じゃあとで!!ベイビーこと楓より!大好き!』
………しゅごい。凄いテンションだ!なにこれ!!こっちもみなぎって来る!!くっそーベイビーちゃんめ!!
なんで君はこんなに、こんなに僕を虜にするんだ!なんなんだ君は!!あ、ベイビーちゃんだった!!じゃあとで、とか最高にロックなんだけど!やっべぇ!待っちゃう!待っちゃうからー!!
その日、僕は何度も手紙を読み返しては、ヤバいテンションで外に出続けた。何度かふつーに熱中症になりかけた。でも、そんなのどーでもよかった。青春してた。
僕の彼女が帰ってくる!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます