第13話 女として

"あ、そーいや私、彼女じゃなかった。"


勢いよく部屋に戻ってきた泉は、ふとそんな事に気づいた。


…なんかめちゃくちゃキレてなかった?私。凄い汚い言葉で、めちゃくちゃキレてなかった?私は(まだ)彼女じゃないのに。妹がとる態度じゃなくない?やっちゃったんじゃない?これ。思えば、『もう許さない!浮気もの!』みたいな感じで捲し立てていたけれど、あれは、まるで彼氏の浮気を責め立てる低俗女のような立ち振る舞いじゃないかしら?勘違いも甚だしいのではないかしら?あら嫌だ。お恥ずかしい。お恥ずかしいですわ。お兄様に合わすお顔がないですわ。ホホホ。

…やっべー。


いやいや、そもそも!変なんだよ!お兄ちゃんはさ、前に辛い失恋をしてから、なんかこう、彼女作る雰囲気?みたいのなかったんだよ!そりゃ焦ってたよ?どんどんカッコよくなるし、あんなに優しいお兄ちゃんがモテない訳ないからさ!でも、なんか大丈夫そうな雰囲気があったの!最近まで!それがさ、は?彼女候補だと?キーっ!!もうキーってなるよ!そりゃ。仕方ないよね?私悪くないよね?


コンコンっ。

「いずみー。ごめんよー。」


「なによー!!バカー!!」


あれ?なんか普通だ。


「入れてー?」


「…なによ!私は一体!何番なのさ!」


ん?あれ?変だな。普通だ。


「そりゃ1番だけど。世界で。」


「…彼女候補より?」


おけ。普通だ。


「お前以上なんているのか?逆に。」


ダッダッダッダッダ ガンッ ガチャッ


「おにちゃーん♡」


勝った。


「デート、行こっか。」


「はい♡」


…………


はてさて、今朝はどうなるかと思ってヒヤヒヤしたけれど、その後の泉は終始ご機嫌だった。


デート、と言っても僕も泉もこれといって行きたい場所がある訳ではなかったので、取り敢えずバスで20分程の所にある街に来ていた。雑貨屋や服屋等、目についたお店に入ってはワイワイキャッキャしながら楽しい時間を過ごした。


泉は受験生、まぁこの子は僕と違って授業を聞いているだけで点数が取れちゃう秀才タイプなので、高望みしない限りはどの高校にでも入れるだろう。しかも、希望校は僕が通う公立高校だ。うちの高校は中の上くらいに位置している程度なので、今受験しても受かるくらいの実力がある。そんな妹が兄としては誇らしいが、出来の違いに少し凹んだりする。そんなデキる妹とペットショップで癒やされ、犬か猫かで議論をしながら出てきた所で偶然にも美咲&友紀コンビと遭遇した。


夕「やっぱ犬かな!懐くし、うちには猫いるし。」


泉「いずにゃんはネコ科の人間だよ?妹であってペットじゃないんだよ?」


美咲&友紀「「あっ!」」


美「ゆ、夕!何してんの?!」


友「夕君!ほんと、何してるのかな?!」


夕「うわ!びっくりした!何って…デートだけど、妹と。」


美&友「「いもうと?!」」


友「うっそ!めっちゃかわいい!!」


美「よかったー浮気かと思った…。」


泉「浮気…お兄ちゃん?」


泉がどなた?と目で聞いてくる。怒った目が朝のトラウマを呼び起こし冷汗が流れる。


夕「あ、あのほら、朝言ったほら、あ、あの人達です…。」


泉「ふーん。あなた達が彼女候補の方々ですか。はじめまして、私は妹の泉です。兄がいつもお世話になっています。」


美「彼女候補…夕が私を彼女候補と妹へ紹介していたのね…これは…勝つる!」


友「美咲ちゃん、心の声、全部聞こえてるよ?!そして、私も同じ事思ってるからね!」


夕「おいおい!妹の前で何言ってんだ?!しかも道の真ん中で。喫茶店でも行こ?泉いいか?」


泉が頷いたので4人で喫茶店に入った。意外というかなんというか、妹は割と早い段階で2人と打ち解けていた。きっと2人して妹をベタ褒めしたのが嬉しかったのだろう。我が妹ながら相変わらずチョロい。それにしても、女子3人による恋バナってゆーか僕の事なんだけど、過去の事、家での事、学校での事、僕のいい所、ムカつく所等々、本人を前にして盛り上がるのは勘弁してほしい。かれこれ2時間ずっと苦笑いなんだけど?苦笑い筋が異常に発達してしまったんだけど?頬が既に痛いんだけど?と僕がギブアップした所でこの女子会?は解散した。ライン交換はもちろん、家に招待までしていた妹。美少女3人を侍らす異世界チートな展開は、モブな僕には2時間が限界だった。


その後は泉と少し高めなイタリアンで夕食を食べてから家に帰った。シャワーも浴び、一緒にテレビを見ていたら23時になっていたので、部屋に戻って宿題をした。それから1時間ほど経ったので、寝るか、とベッドに横になってスマホをいじっていると、控えめなノックの後に泉が部屋に入ってきた。いつもならそそくさとベッドに入ってくるのに、黙って立っているので、ベッドに腰掛け「どした?」と声をかけると、僕の横に腰掛けた泉は、緊張した面持ちで口を開いた。


「ゆーくん…」


珍しく名前呼びだ。


「うん。どした?」


僕の問いかけに、目に涙を溜めながら、一度口元をキュッと結び、そして…


「抱いてほしいの…」


そう呟いた。


「もう…ゆーくんをお兄ちゃんとして見ることが出来ないの…半年くらい前からずっと…好きなの。男として、好きなの。」


男として…


「もうただの妹は、嫌。美咲さんでも、友紀ちゃんでもなく、私を彼女にして下さい。」


彼女…


「私を女として見て下さい。だから一度…抱いて下さい。ゆーくんが、私を妹じゃなく、女として思えるように。私は、怖くないから。私は嬉しいから。ゆーくんが好きだから。私の全てをもらってほしいの…。」


そう言って泉の小さな唇が、僕の唇にそっと触れた。

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