一週間の恋人 ～セミと呼ばれて～

第12話 妹と猫と鬼と

「ママー。ちょっといい？」

「どした？」

「びっくりしない？怒らない？」

「内容によっちゃびっくりするし、怒りもするでしょ。そりゃ。ママだし。」

「だよね、じゃ私のママと見込んで話すけど…私さ、お兄ちゃんのこと、好きなんだよね。」

「知ってるよ？」

「いやいや、違くて、男として好きなの！」

「だから知ってるってば。」

「は？！なんで？？いつから？」

「あんた見てたら分かるし。で？告白したいけど、ママが何て言うかなーってとこ？」

「すっごい！！びっくりした！！」

「いーよ。コクれば？」

「だ、だって…兄妹だよ？いいの？」

「黙ってる方が辛いでしょ？それに…まぁ、当たって砕けろだわ。ふふ。」

「く、砕けないもん！私が本気になったら、お兄ちゃんなんかメロメロだもん！」

「（ふふふ。お兄ちゃん…ねぇ。我が娘ながら可愛いわ。）分かった分かった。じゃ姫、ママは今日からまた出張です。あんたの王子様にも言っといてね！」

「なんでニマニマしながら言うのー！知らないからね！今日一線を越えても知らないからね！」

「がんば！あ、間違いがある場合もあるっちゃあるからさ、一応避妊具は買っときなさい。じゃいってきまーす。」

「そ、そーだよね！分かった！頑張るよ！いってらっしゃい！」

「そだ、今日はデートでもしたら？はい、こんだけありゃいいでしょ？じゃね！」

「こんなに？！分かった！さんきゅー！いてらー♡」

ふふふ♫泉も中3かぁ。にしても夕はびっくりするだろうなー。溺愛してる妹が彼女になりたい、なんてねー。どんな顔するかな？夕にはちょっと酷だけど、頑張ってお兄ちゃんするんだぞ！

あなた、二人はどんどん成長していくよ。見てる？安心してね。

うー早く帰って来て二人の顔が見たいなー♬でも出張かー。頑張ろっと♬

…………

ママに怒られるのが嫌で、出勤前の僅かな時間を狙って打ち明けたてみたけれど、悩んでいたのがバカに思えるほどあっさりした反応だった。

てかふつーにバレてるとか…ハズっ！

でもママは失敗すると思ってるよね。むぅ。確かにお兄ちゃんは私の事を女として見てくれないけれど…ママから許可も、お金ももらったし、今日は思いっきりおしゃれして、デートして、夜には告白して、そして……ひひひ♡っキャー♡ヤバいヤバいヤバい♡高まるぅ♡はぁ♡ちょっと一回走ろ！あ、あとアレ買わなきゃ…ってキャー♡何キロ？これ何キロ走ればいーのー？！はぁ♡待って、待って、走る前に一回お兄ちゃんの寝顔…ってヤバい！今はヤバい！多分止まれない！！走ろ、まず走ろ！

よし、「いってきます！」。

…………

「…やわかい。」

「起きた？だーりん。」

「うん。おやすみ。」

「キスしてあげよっか。」

「うん。おやすみ。」

……ゴッ

「グハッ！ちょ、なんでパンチ？」

「おはようのキスだけど。」

「どこの地域で？お兄ちゃんそんな風習しらないよ？」

「うるさい。早く起きてよ。デートするんだから。」

「デート？」

「そうだよ？」

「泉と？」

「うん。」

「朝ご飯は？」

「あるよ。ママが作ってった。」

「じゃ起きる。」

……ゴッ

「ガハッ！やめて、そのキスきらい！」

「じゃ減点ワードには気をつけることね。」

…………

はぁ。朝から何なんだ？最近は強ツン強デレ化してきた気がする。お年頃だからか？もしやツラい事でもあったのか？…まさかイジメとか？はぁ？？だったら殺すぞクソが。

…あ、やべー。鬼ぃちゃん出ちゃった。こわいわ。ひくわ。自分に。

でもあれだな、ちょっと話しを聞いてみよう。念のため、念のため。もし、イジメだったら殺すだけだし。…いやいやいや。いかん。ふぅ。よし。

「泉ー。」

「なーにー？」

食器を洗う泉を僕は手を広げて呼び寄せる。

「おいで。」

このチャンスを逃すまいと駆け寄り、抱っこスタイルですっぽりと収まる泉。ふむ。いつもの尻尾ブンブン反応だな。異常なし。

「君は誰ですか？」

「いずにゃん♡」

いずにゃんだった。異常なし。

「誰のいずにゃんですか？」

「おにちゃんのいずにゃん♡」

僕のだった。異常なし。

「いずにゃんは最近辛いことありますか？」

「にゃい♡」

にゃかった。異常なし。

「よく分かりました。ではハウスっ！」

「ヤにゃ！」

くそぅ。いずにゃんはなかなかハウスを覚えてくれない。

仕方がないので兄妹合体ロボ・カンダールでキッチンまで移動し強制解除した。

（兄妹合体ロボ・カンダールとは、妹が抱きついたまま、兄の足の甲に足を乗せる事で完成する形態。ちなみに、移動速度を始め、単体時に比べ全ての性能が低下し、兄の負担だけが増える形態でもある。しかし、妹はカンダールのまま移動するのが大好きだ。兄が足を踏み出す度に、ガッシャン♬ガッシャン♬と言うのがお気に入りなのである。）

それでもいずにゃんは諦めない。

すかさず抱きつこうと狙っている。

「ふふっ兄をなめるなよ。」と荒ぶる鷹のポーズで威嚇しながら距離をとって事なきを得るのであった。

「なによ！その気にさせといて！」等と喚いているが無視である。

何にせよ、特に変わりのない泉のようでひと安心である。

あ、そうだ今日は美咲とデートするかも？だったな。

「ねーねー。デートって今日じゃなきゃダメ？お兄ちゃん用事あるんだけど。」

「えー。用事？なんの？」

「えっと…。デート？」

「は？？彼女…できたの？」

「いや、まだだけど。」

「まだ？じゃ相手は何なの？」

「彼女…候補？あ、ちなみに明日もデートかも。」

「候補……明日もなの？」

「うん。違う人だけど…。」

と言った矢先に鬼の形相で近づいてくる泉。

「は？何言ってんだテメー。あ？ハーレムか？あ？あんまナメたことぬかしてんなよ？おい。私とそのビッチ共とどっちが大事なのって話し。分かるよね？ねぇ？断れよ。はよ。はよ！なう！！」

怖い怖い怖い怖い！嘘だろ？！いずにゃんは？マイエンジェルはどこ？？こんな泉初めて！！でも、まずは話しを聞いてもらってから…

「ちょ、ちょっと待って？事情を、事情を」

「…は？」

「あ、断る！断ります！なうで！ごめんなさい！ごめんなさい！」

ガタガタと震える手でスマホを操作し、2人に断りを入れる。

画面には『なぜ？』『なんで？』等の文字が浮かんでいるが、今はそれ所ではない。泉に「断った」と言った途端、泉はダッシュで部屋に戻った。バタン！っと強くドアを閉めた音が家中に響いた。

どうすればいいの？これ…