第9話 向井 楓②



(よし、今日も生きてる。)



昏睡状態から目覚めてから約半年が経った今でも、朝起きられる事、1日が始められる事が凄く嬉しい。



「おはよう」が大好きな反面「おやすみ」がちょっと苦手なのは、長いこと眠り姫だった後遺症。



だけど、もう命の危機は脱した。


最初は全然動かなかった手足や、食べる事も話す事も下手くそだったお口も、かなり回復した。


予定ではもう少し入院が続くけど、あとは家から通院でいいみたい。


順調順調!



パパの仕事(文化財の修復作業)が残っているからすぐには戻れないけれど、このまま行けば、8月くらいには日本に帰れるそうだ。



(帰れる、帰れるんだ…。あと半年か…長いな。でも、嬉しいな…。)



あ、ママやパパは私がフランスへ来た当初住んでいたアパートは引き払い、今は叔父(パパの兄)の家に居候しているとのこと。時々お見舞いに来てくれるエマちゃん(従姉妹)の可愛さったらもう♡絶対連れて帰るんだ♡ふふふ♡



そうそう!そろそろ夕君は受験の時期だよね。日本に帰る前にどこの高校に入ったか密かにリサーチしなくっちゃ。なんとしてでもそこへ編入してびっくりさせちゃうんだから!



あっ……でもな…病気の事言ってないんだよな…。手術のことはもちろん、半年近く昏睡していたことも…。



変な心配をさせたくないから手紙も出せていないし。



付き合ってみたらすぐにバイバイ、手紙も急に来なくなって音信不通。


それって、何も知らない彼からしてみたら最低の女だよね…私。



凹む。



はぁ。申し訳無いことばっかりしている…。ごめんなさい。





『 ねぇ夕君?毎日綴るあなたへの手紙が凄い数になったよ。手が全然動かない時期のやつは全く読めなくて恥ずかしいけれど、いつかもらって欲しいな。いつか2人で「読めないね」って笑い合える日が来ることを、夢見ています。大好き。大好きよ、夕君。』




会いたい。




毎日のラブレターはもはや日課。


日本に帰ってからの事を想像してはニヤニヤしちゃうけど、寂しさや、焦りと切なさなんかもやってくる。



パンパンッ!


顔を叩いて気合を入れる。


うん、仕方ない。今はやる事がある。


リハビリも、受験勉強も気を抜かない。


私は生きている。


生きているから頑張れる。


もし、新しい彼女がいても、今はいい。


私は 神田 夕 の女。なめんな!



あと半年。


あと半年だ!



───────────────




おまけ



同日同時刻の日本にて



「なぁセミ。受験めんどいな。明日世界滅びねーかな。」



「だなー。異世界転生もあり。」



「いいね。じゃ俺アサシン。」



「僕は犬かな。」



「異世界関係ないな。」



「くぅ〜ん」



「甘えてもダメ。」



(作者 : 楓ちゃんの苦労も知らずに…コイツら殴りてぇ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る