第3話:逆

テムはアリスと共に、魔王の呪いの正体を探るべく、魔族領に侵入することにした。

魔族と人間の違いは、角の有無以外で、それ以外の差は存在しない。

そのため、テムのマ法で外見をいじれば、侵入は容易かった。

魔族と人族で使用する言語は共通しているが、イントネーションの違いや言葉回しの違いが存在するので、ウェスト大陸と同じノリでしゃべると正体がばれる。

「魔王の呪い」は魔族領では「魔王の祝福」と呼ばれていたりしている。

最初に侵入した魔族領の村は、千銀村と呼ばれる村だった。

人族を狩る拠点として作られた村であり、村はシルバーラッシュで活気づいていた。

村の名前の由来を知った際、ソレイユはぶちぎれていた。

いくつもの村や街を進み、何度か正体がばれそうになりながらも、二人は旅を続ける。


魔族領に潜入して2年。

魔王の呪いに関しての情報は集まらなかった。

魔族領で唯一教育施設が存在する首都に行動の拠点を移すことにした。

魔族領に潜入した当初、アリスは、魔族から殺してソルを奪えばいいじゃないかと言っていたが、テムは反対した。

所かまわず敵対していたら、おびえて過ごすことになる。情報収集どころではないと説得し、アリスは渋々承諾した。


魔族領で暮らす以上、日銭を稼ぐ必要がある。

本日のテムは、森へ狩りに出かけていた。

森の中に入り、しばらく歩き回っていると、遠くから声が聞こえてきた。

近づいてみると、水色髪の少女がマ法封じ枷を嵌められ、地べたに横たわっていた。

少女の服装は上質であり、裕福な家庭であることが推測できた。

少女を3人の男が取り囲む。

「魔王の遺産はどこにある」

男が少女に尋ねる。

「わたくしは知りませんわ」

しばらく、男と少女の問答を聞き、男が犯罪者であり、少女を攫ってきたことを把握した。

同族同士で争うのは人族も魔族も変わらないのだなと思った。

そして、人族同士の争いで死んだ幼馴染のアイーシャのことを思い出す。

男達が少女に対する尋問を聞いていられなくなり、少女を救うことに決めた。


テムのマ法は、偽装のマ法。認識を狂わせることはたやすくできる。

手始めに、男達から少女の姿を見えなくする。

「どこに消えた」

男達は驚きの声をあげる。

テムはわざと物音を立てる。そして、テム自身も偽装のマ法で男達から認識されないようにする。代わりに少女の幻影を生み出す。

「あっちに逃げたぞ。追うぞ」

男達が離れたことを確認して、テムは少女に近づく。

「大丈夫ですか」

「ありがとうございますわ。でも……」

少女は自身の枷に視線を落とす。

手と足が枷で縛られている状態で立ち上がることができない。

「鍵はどこにあるかわかりますか?」

「リーダーの男が持っていますわ」

「なら取りに行こう」

男達の仲間が他にもいる可能性がある以上、枷を嵌められた少女をこの場に残すということはできない。

テムは少女をひょいっと担ぎ、少女はきゃっと可愛らしい声を上げる。


テムは少女の幻影で男達を誘導した方向に進む。

辿り着いた場所は、崖下。

男達は、そこで絶命していた。

「どうやって、男達を倒したのかしら?」

「幻を見せるマ法さ。男達は、幻を本物と勘違いしてくれたようだ」

テムの偽装のマ法で崖として認識することができずに落下死した。

テムは男から鍵を取り、少女の枷を外す。

少女は、立ち上がり、服の汚れをはたく。

そして、深々とお辞儀をし、艶のある水色髪が揺れる。

「改めて、ありがとうございますわ。そういえば、名乗っていませんでしたわね。わたくしの名前はイリス」

「俺の名前はテム。それにしてもイリスは災難だったな」

「たしかにそうですわ。でも一ついいことがありましたわ」

「何?」

「わたくしは、こんなかっこいい殿方に出会えたのですから。優し気なその瞳、傷一つなく均整のとれた顔。どれも素敵ですわ」

どうやらテムはイリスに惚れられたようだ。


テムは森から都へ戻る道中、イリスと話す。

「そういえば、さっきの男達が魔王の遺産とかいっていたけど、イリスは魔王に詳しいのか?」

「もちろん。他の人よりは詳しいですわ。なんていってもわたくしは魔王の血を引いているのですから」

イリスは薄い胸を張りながら、応じる。

テムはこの出会いを僥倖だと感じた。

魔王の呪いについての情報がさっぱり集まっていない現状において、これ以上ない渡り船だった。

「俺は、魔王の祝福がどういう原理なのか知りたくて旅をしている。もし知っているのなら教えてくれないか?」

あたり前であるが、魔王の呪いという言葉を使用すると、それだけで魔族から疑われる。

「ふーむ。わたくしも原理について詳しくは知らないのですが、最初に始めたのは愚王のようですわ」

魔族領において、賢王は愚王と呼ばれる。

テムは、この場にアリスがいなくてよかったと思う。

彼女は、賢王の血筋であることを誇りに思っているので、愚王という言葉を聞くだけで、機嫌が悪くなる。

「それってどういうことだ?」

「500年以上前、人族と魔族は時折小競り合いがありながらも、国家間で移動し、商売ができるぐらいには平和でした。しかし、その状態が崩れたのは、愚王による呪いですわ。愚王の呪いによって、魔族が死んだ時にアイテムを落とすようになりました。これによって、人族と魔族の和平の可能性は消えました。まさに愚王と呼ぶにふさわしい行いです。以来、魔族は卑劣な人族に狙われるようになりましたわ。それが変わったのは200年前のことでした。魔王が、『愚王の呪い』を反転させた『魔王の祝福』を完成させました」

「そうだったのか」

テムにとって、初めて知る歴史の事実だった。

「それよりも、わたくしはテム君の好きな女の子のタイプを教えてほしいわ」

テムは、どうしたものかと悩むのだった。


夜になり、アリスと合流した。

翌日、アリスと共に、イリスに対して、魔王の祝福の調査の協力を頼んだら、快く受け入れてくれた。

最初は、アリスとイリスはぎくしゃくしていた。

イリスは、テムとアリスが恋人関係でないかと疑った。

アリスはアリスで魔王の血を引くイリスに思う所があった。

時が経つにつれ、三人は、次第に打ち解けていくのであった。

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