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これは、もう、美味しい状態だ。
かのんちゃんは、とてもビクビクして怯え、俺にしがみついている。
「かのんちゃん、大丈夫だ。
何があっても、俺が守ってやる。」
もう、そう言うしか無い、さあ言おう、と思った時、そんな美味しい状態を、破壊する声が聞こえて来た。
「ヒヒヒヒ、お兄ちゃんたち、見せつけてくれるねぇ。」
その品の無い笑い方、下衆な言い方、どれを取っても、普通じゃない人の声だと、直ぐに解った。
「キャッー。」
突然声を掛けられ、かのんちゃんは悲鳴を上げると、俺に抱き着いた。
急いで声の方を見ると、そこに一人の男が居た。
『エロゲー』で鍛えた俺の感性が、その男は変質者だと、教えていた。
ルキウスよ何という事をしてくれるんだ、と思いながら、よく男を見ると、背は俺と同じ位で、長髪で痩せ型。
武器は持って居ないし、身体がフラフラと揺れている。
如何にも、ひ弱そうに見えた。
(これなら俺でも勝てそうだ。)
そう思い、落ち着いて更によく見ると、俺はその考えが間違っている事に気付いた。
男の上半身はハッキリと見えているが、下半身は見えなかった。
何かの物に隠れて見えなかった、のではなく、もともと、下半身が無かったのだ。
人間、とても驚くと、声が出ないものだ。
出た!!
と思った瞬間、俺は声も出さず、かのんちゃんを抱え上げると、向きを変え、急いで走り出した。
認知して、判断して、抱え上げて走り出すまで、1秒位だったと思う。
「えっ、キャッ、あの、どうしたんですか?」
かのんちゃんがそう言った時には、20mは走っていたと思う。
「後で、説明するよ。」
「あっ、はっ、はい。」
かのんちゃんは返事をすると、赤い顔で俺をジッと見ていた。
だが、俺としては、それに構っている余裕は無かった。
無我夢中で走り、墓場を抜け、気が付くと、お寺の隣にある、小さな山の中の道を走っていた。
そこで、ようやく俺は我に返り、立ち止まった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」
かのんちゃんを降ろすと、息を切らせながら後ろを振り返った。
そして、周りも見てみたが、何処にも、先ほどの男の姿は無かった。
「どっ、どうやら、逃げ切れた、ようだ。」
俺は額の汗を、服の袖で拭いながら言った。
「あの、さっきの男の人って、幽霊だったんですか?」
かのんちゃんが、青い顔で、不安そうに聞いた。
「ああ、そうなんだ。
でも、どうやら、上手く逃げ切れたみたいだ。」
「そうですか、良かった。
リュウスケさん、ありがとうございます。」
かのんちゃんは嬉しそうに言うと、ギュっと俺に抱き着いた。
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