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「それじゃ、どうしようか。

俺達も帰る?」

かのんちゃんを見ながら聞いた。

肝試しは中止になったが、そのおかげで、こうして少しでも かのんちゃんと2人っきりになれて、しかも話までできた。

それだけでも、俺は十分嬉しかった。

いや、肝試しが始まるより、遥かに良かったと思う。


「あの、良かったら、一緒に肝試ししませんか?」

かのんちゃんが、まったく予想外な事を言った。

それは、打率1割のバッターが、逆転サヨナラ満塁ホームランを打ったくらいに、俺には輝いて見える、一言だった。

「かのんちゃんが良いなら、

俺は、全然、OKだよ。」

「実は、わたし、肝試しって、したこと無かったんです。

でも、一度でいいから、してみたいなぁって思ってて。

だから、今日はとても楽しみにしてたんです。」

「うんうん、解ったよ。

じゃあ、一緒に肝試ししよう。」

そう言って、思わずかのんちゃんの手を握った。


「あの、変な事したら、直ぐに通報しますから。

ここ、電波届くんで。」

すかさず、かのんちゃんはスマホを見せた。

「ゴメン、ゴメン。

肝試しが出来るって思ったら、つい嬉しくなって。」

「そうですか。

なら、良いんですけど。」

そう言った、かのんちゃんの顔が、少し赤くなっていた。

それは、ディフェンダーの足に当たったボールが、危うくオウンゴールしそうになったシーンを見るくらいに、冷や汗が出た。


そんな事を話していると、肝試し開始予定の時間だった夜7時半になった。

「それじゃ、行ってみようか。」

「はい。」

かのんちゃんと並んで歩いた。

女子と並んで歩くのは、小学生以来だが、こんなに嬉しいと思った事は無かった。

周りはまだ、少し明るかったが、懐中電灯を点け、ゆっくりと歩いた。


境内の横を抜け、お寺の裏にある墓地の入口に着いた。

そこで、かのんちゃんは足を止めると、俺の手をギュっと握り、見つめて来た。

「かのんちゃん。。。」

俺は顔が赤くなり、ドキドキしながらかのんちゃんを見た。

「リュウスケさん、手を出してください。」

かのんちゃんはそう言うと、肩から下げているバッグの中からスプレー缶を取り出した。

そして、勢いよく俺の手に吹き掛けた。

「へっ?」

「虫よけスプレーです。

お墓さんは、藪蚊が多いですから。

ここも、忘れずに、ね。」

そう言って、かのんちゃんは、俺の両腕と首筋にスプレーを吹きかけてくれた。

気のせいかもしれないが、その時の かのんちゃんが、とても嬉しそうに見えた。


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