3
「それじゃ、どうしようか。
俺達も帰る?」
かのんちゃんを見ながら聞いた。
肝試しは中止になったが、そのおかげで、こうして少しでも かのんちゃんと2人っきりになれて、しかも話までできた。
それだけでも、俺は十分嬉しかった。
いや、肝試しが始まるより、遥かに良かったと思う。
「あの、良かったら、一緒に肝試ししませんか?」
かのんちゃんが、まったく予想外な事を言った。
それは、打率1割のバッターが、逆転サヨナラ満塁ホームランを打ったくらいに、俺には輝いて見える、一言だった。
「かのんちゃんが良いなら、
俺は、全然、OKだよ。」
「実は、わたし、肝試しって、したこと無かったんです。
でも、一度でいいから、してみたいなぁって思ってて。
だから、今日はとても楽しみにしてたんです。」
「うんうん、解ったよ。
じゃあ、一緒に肝試ししよう。」
そう言って、思わずかのんちゃんの手を握った。
「あの、変な事したら、直ぐに通報しますから。
ここ、電波届くんで。」
すかさず、かのんちゃんはスマホを見せた。
「ゴメン、ゴメン。
肝試しが出来るって思ったら、つい嬉しくなって。」
「そうですか。
なら、良いんですけど。」
そう言った、かのんちゃんの顔が、少し赤くなっていた。
それは、ディフェンダーの足に当たったボールが、危うくオウンゴールしそうになったシーンを見るくらいに、冷や汗が出た。
そんな事を話していると、肝試し開始予定の時間だった夜7時半になった。
「それじゃ、行ってみようか。」
「はい。」
かのんちゃんと並んで歩いた。
女子と並んで歩くのは、小学生以来だが、こんなに嬉しいと思った事は無かった。
周りはまだ、少し明るかったが、懐中電灯を点け、ゆっくりと歩いた。
境内の横を抜け、お寺の裏にある墓地の入口に着いた。
そこで、かのんちゃんは足を止めると、俺の手をギュっと握り、見つめて来た。
「かのんちゃん。。。」
俺は顔が赤くなり、ドキドキしながらかのんちゃんを見た。
「リュウスケさん、手を出してください。」
かのんちゃんはそう言うと、肩から下げているバッグの中からスプレー缶を取り出した。
そして、勢いよく俺の手に吹き掛けた。
「へっ?」
「虫よけスプレーです。
お墓さんは、藪蚊が多いですから。
ここも、忘れずに、ね。」
そう言って、かのんちゃんは、俺の両腕と首筋にスプレーを吹きかけてくれた。
気のせいかもしれないが、その時の かのんちゃんが、とても嬉しそうに見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます