17

宙に浮いているティティは、呻きながら魔力を放ち続ける。


その凄まじさは、太古に封印されたモンスター――デスゲイズを超えていた。


いくら策があるとはいえ、傷ついたレネたち四人ではとてもじゃないが止められるとは思えない。


無差別に放たれる閃光に当たれば、最悪命すら落とす。


だが、それでも彼女たちは揺るがなかった。


四人の目には、友人を必ず正気に戻すんだという強い意志が見え、ボロボロのはずのその身体には覇気が満ち溢れている。


「それで、どうやって近づくつもりだ? 遠距離から使える技なら助かるが」


「状態異常回復の技は、ある程度近づかないと効果ないんだよ。だからみんなに手伝ってって言ったんだ」


「そういうことか。ならば、おまえがあの子のところまで行ければいいんだな」


ゴゼンはそうレネにいうと、持っていた刀を強く握った。


そして一人前に出ると、ピュリーも彼女の後に続いていく。


「いいとこは譲るよ、レネ。だからあの子のことは任せる」


ピュリーは手を振りながら金属の輪――戦輪せんりんを持ち直し、降り注ぐ閃光の中をゴゼンと共に歩いていく。


二人はそれぞれ武器で閃光を防ぎ、ロニーとレネ――フィガロ姉妹の道をつくる。


レネは盾になって進んでいくゴゼンとピュリーの背中を見ながら、拳をグッと握り込んでいた。


そんな彼女の背中をロニーが叩き、振り返った妹に微笑みかける。


「さあ、行こう。ゴゼンもピュリーもティティを助けるために命を張ってくれてるんだ」


「うん、いこう! 姉ちゃん! ぜったいにティティを傷つけずに止めてみせる!」


そして二人は、ゴゼンとピュリーのおかげでティティの目の前までたどり着いた。


ロニーはいつの間にかラッパのようなものが付いた機械を手にしており、それを宙に浮かんでいる半獣の姿となった幼女へと向ける。


「みんな耳をふさいでッ! じゃないと、イヤ~な音が鼓膜こまくを突き破って脳天をぶち抜くよ!」


ロニーの叫び声にその場にいた全員が耳をふさぐと、彼女は機械を操作してラッパから不快な音が流れた。


音波をもろに浴びたティティは、ただでさ苦しそうにしていた状態からさらに呻き出す。


そして、ついには浮いてもいられなくなり、両手で頭を抱えながら空から落ちてくる。


「よしレネ! あとは任せたよ!」


「オッケーだよ、ロニーお姉ちゃんッ!」


レネは姉に返事をしながら、落下してきたティティをキャッチ。


先ほどまで降り注いでいた魔力による閃光も止んでいたのもあって、このまま何もしなくても場は収まると思われたが――。


「うぅ……うぅ……。うわぁぁぁぁッ!」


ティティは突然叫び声をあげ、彼女の胸から激しい光が放たれた。


体内に埋め込まれたクリスタルが、まるで何かを拒否するかのように暴れているようだ。


クリスタルからティティの体を通して放たれた輝きが、その周囲をすべて埋め尽くす。


当然ティティ抱いていたレネも、その光に飲み込まれてしまった。


「くッ、レネッ!?」


「こいつはレネでもかなりヤバいんじゃない!?」


ゴゼンとピュリーが叫ぶと、ロニーは二人へ言う。


「大丈夫、レネなら大丈夫だよ、二人とも」


ロニーはゴゼンとピュリーとは違い、驚くどころか穏やかな笑みを見せていた。


何を悠長なことを言っているんだと、二人が声を荒げようとした次の瞬間、ティティを抱いたレネがいた場所から放たれたものとは別の光が輝き出す。


放たれた光はまるで寒い日に差す陽射しのような暖かさで、まるで命の輝きを感じさせるものだった。


その暖かい光の中から次第にレネが現れた。


このとき彼女が幼女を救う技を放ったのだと、ようやくゴゼンとピュリーは理解する。


「レ、レネ……?」


「もう心配いらないよ、ティティ。ロニーお姉ちゃんも、ゴゼンも、ピュリーもみんな……。アタシたちが傍にいるからね」


意識を取り戻したティティに、レネは優しく語りかけた。


すると、幼女の体内にあったクリスタルが飛び出し、コロンと地面に転がった。


クリスタルからは光が止み、ティティの姿も元の人間のものへと戻っていく。


そして幼女は微笑むレネに抱かれながら、安心しきった様子で再び意識を失った。


やがてレネから放たれていた光も止み、ロニーたちが駆け寄って来る。


「やったな、レネ。一時はどうなるかと思ったが、ティティもみんなもなんとか無事に片付いた」


「ホント光に飲みこまれたときはどうなるかと思ったよ~」


ゴゼンがねぎらいの言葉をかけ、ピュリーはホッと大きくため息をついていた。


レネはそんな二人に笑みを返すと、ティティを抱いたままよろめいてしまう。


彼女が放った技は、対象者の状態異常を治すもの。


それは、レネの命をともいうべきオーラを放っておこなわれるものだ。


さすがに力を使い果たしたのか、レネはティティを抱いたまま意識を失ってしまったが――。


「おっと危ない」


ロニーが寸前のところでレネを支え、ティティと彼女を抱きしめる。


姉は眠っているレネの顔をただ黙って眺めていた。


それでもそのときのロニーの表情は、「よくやった」と言いたそうな誇らしく思っている顔だった。


「くッ、さすがに二人は重い……。ゴゼン、ピュリー。早く手伝ってよ」


「すまんが、私も限界だ……」


「ボクもだよぉ、ごめんねぇ……」


ロニーが助けを求めると、ゴゼンとピュリーも彼女に寄りかかるように倒れた。


レネとティティを抱いていたロニーはそのまま二人に押し潰され、五人は地面に倒れてしまう。


ロニー以外の四人からは寝息が聞こえてくる。


彼女をまくらにして良い夢でも見ているようだ。


「重い……。何人ものレディに寄りかかられるのは夢だったけど……。ぜんぜん嬉しくないぞ、こんなの……」


軽口を叩きながら笑ったロニーは、四人と同じくそのまま意識を失った。

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