16

「さすがにしんどかったね~。でもまあ、ボクらが手を組めば伝説のモンスターだってこんなもんだよ」


「ともかくどこかで休むもう。明日も朝から現場に行かなきゃいけないしね」


「マジで言ってんのロニー……。明日くらい休もうよぉ」


「うちに定休日はないの。それにワタシとあんたはレネとゴゼンに比べたら働きが足らんでしょうが」


辟易へきへきしているピュリーに、ロニーがそう言い返し、四人は笑い合っていた。


それから互いをたたえ合い、彼女たちがティティのところへ向かおうとすると、いつの間にか幼女は立ち上がっている。


意識を取り戻したのかと安心したのもつかの間、幼女は全身から妖しい光を放ち始めた。


「なんだ!? 一体どうしたんだティティの奴はッ!?」


「ちょっとみんな! あれを見てッ!」


ゴゼンが声を張り上げると、レネはティティの光の原因に気が付いた。


消滅したデスゲイズの身体があった場所に転がっているクリスタルと、ティティが同じ光を放っている。


だが、異変に気が付いたときにはもう遅く――。


共鳴する光が凄まじい衝撃を放ち、四人は吹き飛ばされてしまう。


「くッ!? ティティ待っててね! 今行くから!」


ピュリーが誰よりも早く飛び出して、幼女のもとへと走った。


放たれる光に怯むことなく駆け寄ると、ティティの身体は次第に変化していく。


全身が淡い紫色に発光し、全身きめ細かい体毛が生えそろって耳が大きくなり、足もネコ科の動物のように変形――まるで人と獣の中間のような姿となった。


四人は変化したティティの姿を知っていた。


それは、今から数年前にこのブルーム王国を襲った正体不明の幻獣の姿だった。


「正体不明の幻獣って……ティティだったの……?」


「たしかに、それならばこれまでのことにも説明がつくが……」


「なに言ってんのロニーもゴゼンも! ともかく今はティティをッ!」


ロニーとゴゼンが弱々しく声を出すと、ピュリーが走りながら声をかけた。


一方でレネは、信じられないといった表情で立ち尽くしてしまっている。


動揺を隠せない彼女たちの前で、姿を変えたティティがゆっくりと宙へと浮いていく。


すると転がっていたクリスタルも浮かび上がり、幼女の体内へと入っていった。


「あぁ……あぁ……。うぅ――ッ!」


ティティが両目を見開き、声にならない声で叫ぶと、その全身から魔力を放出。


周囲にあるものを見境なく破壊し始めた。


その力はデスゲイズ以上で、すでに半壊していた建物が一瞬で消滅していく。


彼女に向かっていたピュリーも吹き飛ばされ、ロニーが間一髪のところで彼女を支えた。


「くッやるしかないか……」


そんな中でゴゼンが刀を構えて立ち上がる。


満身創痍の身体を奮い立たせ、刃をティティへと向ける。


幼女に斬りかかろうとするゴゼンに向かってレネが叫ぶ。


「ダメだよゴゼン! それはダメッ!」


「しかし、このまま放っておけんだろう。私だってティティを斬りたくないが……。いや、むしろ今の私にあの子を止められるとも思えん……。それでも、じっとしているわけにはいかんだろ」


「アタシがなんとかする! だから手を貸して!」


「何か策があるのか、レネ?」


「ある、あるよ! だからティティを傷つけないでッ!」


泣きわめくように言ったレネの作戦を聞くために、ピュリーを担いだロニーが近づく。


それから、四人は一度ティティの攻撃か届かないところまで下がると、レネの言葉を待った。


「あれをやるつもりだね? レネ」


「あれ? あれとはなんだ?」


ロニーが訊ねるとゴゼンは不可解そうに口を開いた。


その傍では先ほど光の衝撃をもろに喰らったピュリーが、苦しそうにしている。


そんな彼女のことを撫でたレネは、ゴゼンとロニーに向かって説明を始めた。


レネの使用する武術には、対象者の状態異常を治す技がある。


それを使って混乱しているティティに正気を取り戻させるのだと。


作戦を聞いたゴゼンは、苦虫を噛み潰した顔をした。


それは、たとえティティが混乱状態から回復しても、止まってくれるとは思えなかったからだ。


迷子の幼女の正体は幻獣だったのだ。


数年前の悲劇を思い出せば、いくらティティが正気を取り戻しても、破壊行為を止めるとは限らない。


だが否定的なゴゼンに、レネは言い返す。


「でも、幻獣がティティだって知っちゃったら……もう戦うなんてできないよ!」


レネは嘆くように言葉を続けた。


ティティとはもう友人。


まだ短い付き合いだが、彼女の性格は理解しているつもり。


事情もないのに国を襲ったり街を破壊するような子ではないと、レネは皆に叫んだ。


彼女の言葉に、ゴゼンがさらに表情を歪めていると、ピュリーの意識が戻った。


彼女はトレードマークのバンダナを頭に巻き直すと、皆に向かって言う。


「レネの言う通りだよ。ボクもティティがそんな子とは思えない。ゴゼンだってロニーだってそう思うでしょ?」


痛みで顔を引きつらせながらも、ピュリーはいつもの笑顔を見せた。


そんな彼女に応えるように、ゴゼンはため息をつき、ロニーが彼女の肩にポンッと手を置いた。


「他に方法もない……。わかった、レネの技に賭けよう」


「ワタシは最初から賛成だったけどね」


「おまえなぁ……。そういうとこだぞ」


ロニーがゴゼンに微笑むと、レネを先頭に、四人はティティのもとへと歩を進めた。

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