15

飛び出したロニーの後を、ティティを地面に寝かしたピュリーも追う。


二人の目の前には、死の魔法で苦しむゴゼンと、そんな彼女にどうしていいかわからずにいるレネの姿があった。


駆けてきたロニーが妹に向かって叫ぶ。


「レネ! あんたはデスゲイズのほうをお願い! ゴゼンはワタシがなんとかする!」


「お姉ちゃん……。うん、わかった! ピュリーは援護を頼むね!」


「はいはい、どこまでも付き合いますよ~」


ロニーは苦しむゴゼンを抱き、レネとピュリーはデスゲイズへと向かっていく。


ピュリーが戦倫せんりんを放り投げると、デスゲイズはさらに高く空へ飛んでそれを避けた。


二人の少女を見下ろしながら、太古のモンスターが口を開く。


「まさかここまで力があるとは……。だが、女剣士のほうはもう死ぬ。おまえたちもすぐにあの女の後を追わしてやるぞ」


「ゴゼンはそんなに弱くない! あんな魔法なんかにやられるもんか! それにロニーお姉ちゃんがいるんだ! きっとなんとかしてくれる!」


叫び返すレネのことをデスゲイズはにらみ返した。


侮蔑ぶべつするような視線を向け、その巨大な翼を大きく振って再び風と氷の魔法――突風とっぷう氷塊ひょうかいを振らせてくる。


放たれた魔法の影響でレネの体を風が引き裂き、氷塊でできた柱に彼女は閉じ込められてしまった。


「レネッ!? 待ってな! 今行くよ!」


「させるか小娘!」


デスゲイズは次にピュリーへと飛びかかった。


魔法を唱えずに、その翼の先についた鋭い爪で彼女へと襲いかかる。


戦倫のグリップを握り、それをなんとか受けたピュリーだったが、激しく下がらされてしまう。


「くそッ!? これじゃレネのところに行けないじゃんか!」


ピュリーはそれでも前へと出た。


体格差をものともせずにデスゲイズへと飛びかかり、その体に乗ると戦輪を振り落とす。


金属の輪――刃の痛みで、その骸骨のような顔を歪めながらデスゲイズが言う。


「こいつもまた強い……。一体なんなのだこの国は……。あの女剣士といい、妙な体術を使う小娘といい、なぜこうも強者がそろっている? 何者なのだこいつらは?」


「ただの掃除屋だよ」


ピュリーがゴゼン、レネ、ピュリーの強さに舌を巻いていると、金髪三つ編みの女性――ロニー·フィガロが答えた。


彼女はうなだれているゴゼンを片手で抱きながら、氷の柱に閉じ込められたレネの傍に立っている。


そして、その近くにはロニーが用意した大きな照明器具のようなもの――以前に幽霊を一掃した機械――太陽光照射、または紫外線照射装置が置かれていた。


これは疑似太陽光を発生させる機械であり、幽霊属性であるアンデッド·モンスターにはかなりの効果がある優れものだ。


ロニーはなんとこれを、レネを閉じ込めている氷の柱へと照らす。


すると、氷の柱はみるみるうちに照明の熱で溶けていった。


自由になった妹に、ロニーがいつもの調子で声をかける。


「さっさと決めちゃいな、レネ」


「うん! 任せてロニーお姉ちゃん!」


大声で応えたレネは、両腕を大きく回して円を描くように動かすと彼女のてのひらが輝き始めた。


それを見たピュリーはニヤリと笑みを浮かべると、飛び乗ったデスゲイズの体から離れていく。


デスゲイズはレネの放つ光に嫌な感じを覚え、彼女へと飛びかかったが時はすでに遅かった。


レネは輝く掌を合わせ、それを向かってきた太古のモンスターへと放つ。


「生命エネルギーをオーラに変えて波動を放つ……これで終わりだよデスゲイズッ!」


「これは聖なる光ッ!? まさか魔法も使えない人間たちに我が敗れるのか!? グワァァァッ!」


放たれた光の波動がデスゲイズを包む。


その輝きは、まるで生命を感じさせる光を放っていた。


太古に封印されたモンスターは、レネの放った光の波動によって完全に消滅。


彼女たち四人の活躍によってブルーム王国は救われた。


「や、やったよ……。デスゲイズを倒せたぁ……」


「おっと危ない! せっかく勝ったのに倒れちゃったら締まらないでしょ。ほら、しっかりして」


「ありがとう、ピュリー」


傷ついたレネはもう限界だったのか、彼女がよろめくとピュリーがぎりぎりのところで支えた。


ピュリーに肩を借りながら、レネは彼女と共に姉ロニーとゴゼンのもとへと歩く。


すると、ロニーに片手で抱かれていたゴゼンがうつらうつらと目を覚ました。


「お目覚めですか、お嬢さん?」


「ロニー……? はッ!? デスゲイズは!? あのモンスターはどこへ行った!?」


「それならレネが綺麗に片づけてくれたよ」


「そうか……。またも私は役に立たなかったのだな……。くッ、我ながら情けない……」


俯いたゴゼンのことを、ロニーはグッと引き寄せた。


そして、驚いて顔を上げた彼女に向かってロニーは言う。


「そんなことない。数年前の幻獣のときもそうだよ。この四人がいたから勝てたんだ。レネにワタシ、それとピュリーにゴゼン、誰一人欠けても無理だったよ」


「ロニー、おまえ……」


ゴゼンは戸惑いつつも、ロニーに笑みを返した。


それから二人は、近寄ってくるレネとピュリーに視線を向けて手を振った。


戦いは終わった。


これ以上の戦闘は正直四人にも難しいだろう。


特に前線で、デスゲイズと衝突していたレネとゴゼンは憔悴しょうすいしきっている。


それでも、もうこれ以上何も起きないと誰もが思っていた。


しかし、消滅したデスゲイズの体から消えずに残ったクリスタルが、次第に妖しい光を放ち始める。

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