14

翼が振られると、ロニーたちに突風と氷塊ひょうかいが降り注いだ。


凄まじい風が身を引き裂き、氷塊は柱のようになって倒れてくる。


ロニーたちはこれをなんとか避けたが、周囲にあった建物は次々に破壊されていく。


「やっぱり魔法を使ってきた! しかも威力がこれまで見たやつとは比べものにならないよ!」


「くッ!? さすがは伝説のモンスターといったところか」


前に出ていたレネとゴゼンが、デスゲイズの圧倒的な魔力の前に下がらされる。


数年前に正体不明の幻獣と戦った経験がある二人だったが、デスゲイズの力はそれ以上だと感じていた。


これでは近づけない。


剣に格闘と、距離を詰めなければ力を発揮できないレネとゴゼンでは、遠距離からの攻撃ができるデスゲイズ相手では相性が悪かった。


「大丈夫、ワタシが援護するよ。オートボウガンで飛んでくる氷塊を砕くから、二人は風を避けながらで大変だけど近づいて」


ロニーがオートボウガンを構え、二人を激励するように声をかけた。


すると、三人が身を隠していたところにバンダナを巻いた少女――ピュリーがヒョコッと現れる。


「ボクもいるよ」


「もうピュリーったら! こんな大変なときにどこへ行っていたんだよ!?」


「ごめんごめん。ちょっとこいつを取りに行っててね」


ピュリーはそう言うと、持っていた武器を皆に見せた。


それは酒樽さかだるふたくらいの大きさのもの――。


中心には大きな穴が開いており、金属製の円盤の外側に刃が取り付けられている、レネには見たこともない武器だった。


さらに輪の内部にはグリップが付けられていて、ピュリーがいうに本来は投擲用でありながら近接戦闘もできるものらしい。


「どうカッコいいでしょ? なんか禁断の地とかいうところで手に入れたんだ。ボクのコレクションの中でも一二を争うめずらしい武器だよ」


「なんか危ないオモチャみたいに見えるんだけど……。ホントに使えるの、それ?」


「な~に、ちょっと見ててみな」


ピュリーはニカッと白い歯を見せると、隠れている壁から身を乗り出して戦輪せんりんを放り投げた。


凄まじい速度で回る金属の輪が、突風の勢いに負けずに氷塊や氷の柱を砕いていく。


そして、犬が飼い主の投げた物を拾って来るように、再びピュリーのもとへと戻って来た。


「見てた今の? いい感じでしょ」


「ああ、それでロニーと共に援護してくれれば、突風と氷塊を抜けてデスゲイズのところまでたどり着けそうだ」


ゴゼンがそういうと、四人は早速動き出した。


身を隠していた壁から飛び出し、レネとゴゼンはデスゲイズへと走り出し、ロニーとピュリーはそれぞれ左右へと散る。


当然向かっていく二人には刃物のような風と氷の雨が降り注ぐが、ロニーがオートボウガン、ピュリーは戦倫と武器を使って彼女たちの道を作った。


「我の魔法を潜り抜けてくるとはッ!? このままでは不味まずいッ!?」


宙に浮いているデスゲイズが狼狽うろたえていると、すでに跳躍ちょうやくしていたゴゼンが叫ぶ。


「もう遅い、私の間合いに入ったぞ!」


飛び上がったゴゼンに彼女の残像が見え、空中でさらに加速。


振り上げた刃がデスゲイズの体を斬り裂いた。


「ギャァァァッ!? な、なんだ今の技はッ!?」


「驚いてる場合じゃないよ。アタシも続くんだからね。はぁぁぁッ!」


少し遅れて飛び上がっていたレネも固く拳を握り、痛みと驚きにさいなまれていたデスゲイズの顔面を打ち抜いた。


その一撃は同時に何度も拳を放ったような技で、先のゴゼンの攻撃もあって、耐えきれなくなった太古のモンスターは地面へと落下。


街の真ん中へと倒れ、周辺に地震のような衝撃を起こした。


その前に突風と氷塊が止んでいたのもあって、ロニーとピュリーはティティを救い出していた。


二人は彼女を運んで下がっていると、これで決着したといわんばかりに歓喜の声を出す。


「いや~いつも見てもれするね、ゴゼンの剣技はさ。レネも我が妹ながらに魅せてくれるよ。二人がいれば、どんなモンスターが出てこようがかなわないんじゃない?」


「だから前から言ってるじゃないの。このメンバーで冒険したら絶対に世界に名を残せるトレジャーハンターチームになれるって。ボクらが手を組めば、世界中のどんな危険な場所だっていけるんだから」


勝利を確信した二人だったが、デスゲイズにはまだ息があった。


呻きながらも体を起こし、再び翼を広げてレネとゴゼンの前に立ち、ゆっくりと宙へと浮いていく。


このまま以前のように逃げるつもりかと、ゴゼンが飛び出そうとすると、デスゲイズが咆哮ほうこう


ゴゼンの周囲に黒いきりのようなものがかってから死神の姿が現れると、彼女が虚空こくうに向かって叫び始めた。


それを見ていたピュリーが気がつく。


「マズいよあれ、死の魔法だよ! 精神的に屈服したらゴゼンがあの世に連れていかれちゃう!」


「なんだってッ!? くそッ!? そんなことはさせないッ!」


ピュリーの言葉を聞いたロニーは、霧の中に浮かぶ死神の姿に苛まれるゴゼンのもとへ走り出した。

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