13
――それからも平和な日々は続いた。
たまに空き家に住み着いたモンスターがいたりしたが、魔法を使うようなこともなく、掃除屋フィガロの面々によって退治される。
それでもゴゼンは見回りを、ピュリーのほうは調査を続けていた。
だが、正体不明の幻獣の魔力の
「なんだか気を張ってるのがバカらしくなってきたね~」
「結局ティティの身元もわからぬじまいだしな」
ピュリーがため息をつきながらそう言うと、ゴゼンは同意しながらまだわからぬ幼女のことを口にした。
「わからないんだったら放っておけばいいんじゃない? 見回りと調査は続けてさ」
「お姉ちゃんの言う通りだよ。なにも起きないなら起きないでいいじゃん」
それでもフィガロ姉妹は二人とは違い、あっけらかんとしていた。
ロニーとレネからすると、今の五人での生活が楽しく、このまま続いていけばいいと思っているようだ。
そんな姉妹の態度に、ゴゼンとピュリーは呆れてしまう。
「あのな、おまえたち……。私は王国に仕える身であって本業はサムライなんだぞ。このままずっと掃除屋をやっているわけにもいかんのだ」
「そうだよ~。ボクだって早くこの国の問題を解決して冒険に出たいのに。あッ、そのときはこの五人でいくつもりだからよろしくね~」
さりげなく口にしたピュリーに、ロニー、レネ、ゴゼンの視線が向けられた。
「なんか話の流れで当たり前のように言ってるけど、まだ諦めてなかったの?」
ロニーがそう言うと、レネは姉に続いて口を開く。
「そうだ。ピュリーこそ冒険なんて止めて、このままアタシたちと掃除屋をやればいいじゃん」
「冒険なんてとはなんだよ、冒険なんてとは。冒険は夢とロマンがたくさん詰まった最高に楽しいことなのに」
「それをいったら掃除屋だってそうじゃん。家や屋敷をキレイにするのは夢いっぱい、ロマンいっぱいだよ」
「それは
「あるもん! キレイになったら気持ちいいじゃん!」
軽い言い争いが始まったが、全員が元気のないティティに気がつくと、すぐに彼女のことを気にかけた。
記憶が戻らず、自分がどこから来たのかもわからないティティが一番つらいのだと、四人は反省する。
しばらくの間は各自文句があるだろうが、このままでいこう。
ゴゼンのその言葉に全員が賛成し、その後は誰もその話題をすることはなかったが、その日の夜に事件は起こった。
住民たちが寝静まった時間に、突然街から凄まじい衝撃と耳をつんざくような轟音が鳴り響いたのだ。
「みんな起きてる!?」
「ああ、外で何かあったようだな」
店で寝泊まりしているロニーたちは、それぞれベットや寝袋から目覚めると、一体何が起きたのだと顔を合わせていたが――。
「ティティがいない……」
ピュリーとレネと同じベットで眠っていたティティの姿がないことに気がついた。
――ティティは、まるで何かに引き寄せられるかのように歩いていた。
夜の街は刃物の雨でも降ったかのように半壊し、その中を幼女は、
「モンスターだ! 空に巨大なモンスターが現れたぞ!」
「みんな早く逃げないとッ!」
家から飛び出した住民たちが一斉に
そして、幼女が足を止めると、その頭上には巨大な翼をもったモンスターが浮いていた。
その正体は、太古に封印されたモンスター――デスゲイズだ。
「ようやく見つけたぞ。今こそ我らのもとへ……」
デスゲイズが見上げているティティに手を伸ばそうとした瞬間、突然飛んできた無数の矢がその体を貫いた。
痛みで空へと上がったデスゲイズは、無数の矢が飛んできた方向へ視線を移す。
「おいおい、いくらモンスターでもさ。リトル·ガールに手を出すなんて倫理的にも道徳的はもちろん、当然ワタシ的にも許されないよ」
この国で矢を連射できる武具を持っているのは、あの人物だけ――。
掃除屋のロニー·フィガロだ。
ロニーはその長い金色の三つ編みを振り回すと、再びオートボウガンを構える。
すると、彼女の後ろから長い黒髪を束ねた男装の麗人――ゴゼン·イチゴヒトフリが出てきた。
「デスゲイズの狙いはティティか……。何を考えているかはよくわからんが、彼女には触れさせん!」
ゴゼンが腰に差した刀を持ってそれをデスゲイズへと突きつけた。
すると彼女の隣にレネが飛んでくる。
「太古に封印されたモンスターだがなんだか知らないけど、アタシたちがやっつけてやるんだからッ!」
吠えたレネは、両腕を回して円を描くように動かすと、拳を力強く握って身構えた。
「こないだの女剣士……。今回は仲間を連れてきたのか。だが人間ごときがいくら集まろうが、我に勝てるものか!」
デスゲイズはその骸骨のような顔を歪めると、彼女たちに向かってその翼を大きく振った。
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