10

――酒場の掃除を終え、自宅へと戻ったロニーたち一行は簡単な昼食――朝食の残りを食べた。


それから午後の仕事がないのもあって、時間を持て余してしまっていた。


ゴゼンはその空いた時間で街の見回りを――。


ピュリーもモンスターについて調べたいことがあると言って外へと出て行く。


残されたロニー、レネのフィガロ姉妹は留守番だ。


掃除の依頼が来るまでロニーは掃除用具や機械の整備をし、レネのほうは食事の仕込みを始めようとしていた。


「あッ調味料がもうほとんどない!?」


「急に四人分の食事を作るようになったからね。しょうがない。レネ、悪いけどちょっと買ってきてくれない?」


「いいけど、買っちゃっていいの? いつもみたいにお隣さんから借りて来れば」


「さすがに量が多いと悪いでしょ。ゴゼンがくれた報酬で家計に余裕はあるし。お金のことは気にしなくていいから買って来ちゃって」


「わかった。ひょいひょい~っと行ってくるよ」


「いってらっしゃい。知らない人に声かけられてもついてっちゃダメだよ」


「お姉ちゃんがそれを言うの? まあ大丈夫だよ。変なことされそうになったらぶっ飛ばすから心配しないで」


「そっちのほうが心配だね……」


レネは姉に調味料を買ってくるように頼まれ、ひとり外へと出ていった。


彼女が街を歩いていると、住民たちが声をかけてくる。


「おやレネちゃん。今日はお姉さんと一緒じゃないのかい?」


「仕事は暇なのかい? 大変だね、お掃除屋さんっていうのも」


「今度ロニーにうちの風車の修理を頼みたいんだけど、伝えといておくれ」


レネはそんな住民たちに笑顔を返しながら歩を進めていき、お店へとたどり着いた。


店内の棚には、塩や砂糖の他にも様々な調味料が置かれ、さらにはスパイスやハーブの香辛料なども売られている。


「いらっしゃい、レネちゃん。ひとりでお買い物なんて偉いね」


レネは店主と軽く談笑した後、目的の調味料を購入。


いつでも店の掃除も請け負うと店主に宣伝し、店を出ていった。


時間がお昼時というのもあってか、先ほど賑わっていた街からは人の姿が消えている。


「あれは……?」


その帰り道で、道端で倒れていた娘を見つけた。


レネよりも年齢の低いと思われる幼女だ。


行き倒れたのか、フードを深く被った幼女は苦しそうに横になっている。


「この子、病気なのかな。なんかすっごく苦しんでる……。お父さんとお母さんも近くにいないようだし。もしかして……」


この幼女は迷子にでもなったのか。


それとも別の街からやって来て力尽きてしまったのか。


親のいない子など、なにもめずらしいことではない。


レネたちフィガロ姉妹も早くに両親を亡くしており、ピュリーのほうは生まれたときから天涯孤独でこの国の孤児院出身だ。


「……ともかくうちに連れていこう」


レネはどちらにしても放っておくことができずに、幼女を自宅へ連れて休ませることにした。


幸いなことに、今うちにはゴゼンがいる。


ブルーム王国に仕えている彼女は王宮にも顔が利く。


もし迷子ならゴゼンに両親を捜してもらえるかもしれない。


それにピュリーもいる。


あの自称大冒険家の少女は国の外のことにも明るく、もしこの幼女が別の街から来たのならば、物知りな彼女なら何かわかるかもしれない。


そう思ったレネは、幼女を担いで自宅へと急いだ。


「おッ、おかえり。ずいぶんと早かったね。って誰、その子?」


「実は道端で倒れてて……。ねえお姉ちゃん、この子のことなんだけど……」


レネは簡単に事情を説明すると、ロニーにお願いをした。


いくらこのブルーム王国の治安がいいとはいえ、幼女が外で倒れていたら何をされるかわからない。


最悪たまたま国へやって来た人さらいや、最近問題になっているモンスターによって酷い目に遭わされる可能性がある。


幼女の両親や行く場所が見つかるまで、掃除屋フィガロで預かってあげられないかと。


「この子の面倒はアタシが見るから! お姉ちゃんに迷惑はかけないから! だからお願いッ!」


「おいおい、レネ。あんたは自分の姉を誰だと思ってんだい? 世界で一番レディに優しいロニー·フィガロだよ。いくら迷子とはいってもその子もいつかはレディになるんだ。そんなのいいに決まっているじゃないか」


「そういってくれると思ってたよ! さすがお姉ちゃん!」


レネは歓喜の声をあげると、背負っていた幼女をソファーへと寝かした。


やはり姉は優しいと笑みを浮かべ、森で取ってきた薬草から幼女の容態を落ち着かせるための薬を作り始める。


「ただいま~。のど乾いたからお茶入れてよ、レネ。茶菓子も買ってきたし」


「私も戻ったぞ。仕事のほうはどうだ? 依頼は来たのか?」


そこへ出かけていたピュリーとゴゼンが返ってきた。


二人は部屋に入ると、ソファーで見た幼女を見てギョッと両目を開く。


「おいおい、まさかロニー……。あんたこういう趣味もあったの?」


「さすがに幼女誘拐は犯罪だ……。これは捨てておけんぞ、ロニー……。いくら世話になっているとは、この場でおまえを捕らえさせてもらうッ!」


「なにを勘違いしてんだよあんたらはッ!? この子はワタシがさらってきたわけじゃないからッ! ワタシが好きなのはレディであってリトルガールじゃない!」


ゴゼンはロニーがそう言っても彼女を捕らえようとしたが、レネが誤解を解いた。


それから四人でテーブルを囲み、ピュリーの買ってきた茶菓子とレネの入れた紅茶をそれぞれ出す。


ティータイムを楽しみながら、話題はまずゴゼンの見回りでわかったことだった。


「見回り中にモンスターに遭遇そうぐうしてな。そいつが言っていたんだが――」

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