08
ゴゼンとピュリーは勝手に台所や
テーブルには肉の煮込み料理やパイ包み焼きなどが置かれている。
さらには付け合わせのサラダに赤ワイン、ミルクと、まるでこれからパーティーでも始めるかのような豪華さだ。
「また勝手に鍵を開けて入ったんだね。おまけに今夜はゴゼンまで一緒に……」
他人の家に勝手に侵入し、夕食まで作ってくつろいでいる二人に呆れているレネ。
ピュリーはそんな彼女のことを見ながら、持っていたグラスのミルクに、たっぷりとハチミツを入れて笑っている。
「へへ、大冒険家ピュリー様に開けられない扉はないってね」
「いや、それはもう冒険家じゃなくて盗賊」
「だから盗賊いうなッ!」
レネの発言に激しく言い返すピュリーを見て、ゴゼンがクスッと上品な笑みを見せていた。
すると荷車を部屋の中に置いたロニーが、彼女の体を撫でるように触れる。
「まさか料理を作って待ってくれているとは。でも、どんな料理よりも君のほうが美味しそうだよ、ゴゼン」
「バカ、やめろ! この
「でも部屋にいるってことはそういうことだろう。今夜は寝かさないよ、お嬢さん」
「だからくっつくな!」
唇を尖らせて今にもキスしようとするロニーを引き離そうとするゴゼンに、レネが声をかける。
「またお姉ちゃんと勝負しに来たの?」
「違う。今夜は別件だ。実はな。ここ最近この国でおかしな事件が起きているんだ」
ゴゼンはブルーム王国に仕えるサムライだ。
どうやら彼女が言うに、このところ国にある空き物件にモンスターが居つく事件が報告されているようだ。
今日の昼に王宮へ戻った後に、ゴゼンもその対処に追われていた。
そして偶然にもその道中で出会ったピュリーに、いろいろ調べてもらい、その後フィガロ姉妹の掃除屋へとやって来たらしい。
「そういえばアタシたちも今日、仕事でモンスターに会ったよ」
「会ったよって、そんな知り合いみたいに……。まあ、おまえたちなら心配はいらんだろうが」
「それとゴゼンたちがうちに来たのに、一体なんの関係があるの?」
「私たちがこの店に来たのはな。掃除屋フィガロに国から仕事を頼みたいからだ」
レネの質問に答えたゴゼンは国から頼まれ、最近このブルーム王国を騒がせている原因を、掃除屋フィガロに突き止めてほしいというものだった。
二人からすればそれは掃除屋の仕事ではないと思っていたが。
数年前に正体不明の幻獣がこの国を襲ったときに戦ったことを知っているゴゼンだけに、そんな言い訳は通用しないと考え、黙ってしまっている。
「私としては不本意だが、モンスターが魔法を使っている以上、国の兵たちでは対応できん。そこでピュリーとおまえたちに協力してもらいたいわけなんだが」
「オッケー。じゃあ、報酬はゴゼンがワタシと一晩付き合うってとこで手を打とうか」
「な、なななッ! なんでそうなるんだ!? そんな契約などできるかッ! 私はそこまで安くない!」
「冗談だって。ちょっとしたジョークだよ。顔を真っ赤にしちゃって可愛いんだから、ゴゼン」
「くッ、報酬はちゃんと国から出るから安心しろ。それと当面の活動資金の援助と、私とピュリーも掃除屋を手伝うように言われている。誠に不本意だが、しばらくは住み込みでこの店に居させてもらうぞ」
「じゃあゴゼンはワタシのベットで一緒に――」
「誰がおまえと寝るか! ふざけるのも大概にしろッ!」
ガヤガヤと賑やかな食事になったが、それから四人はテーブルを囲んで料理を楽しんだ。
ゴゼンとピュリーが作った料理はどれも美味しく、これからのことを考えてレネは喜んでいた。
それは資金の援助のことはもちろんだったが(キノコ料理以外も食べられる)、普段は態度に出さないものの、彼女はゴゼンとピュリーのことが好きなのだ。
「というわけで、しばらくボクも一緒に暮らすからよろしくね、レネ」
「うん。こちらこそよろしく、大盗賊さん」
「だから盗賊いうな! しかも大をつけるなよ! まるでボクが有名なお尋ね者みたいじゃないかッ!」
レネはいつもピュリーとのやり取りを楽しみ。
ロニーは赤ワインをゴゼンに注ぎながら、ドンドン飲ませている。
こんな賑やかなのは久しぶりだと、レネは嬉しくなって突然椅子から立ち上がった。
「では、掃除屋フィガロに新しい仲間が加わったことを祝いまして、かんぱ~いッ!」
はしゃいで言ったレネに、その場にいたそれぞれが反応を見せていた。
「これでうちも安泰だね。いやいや、いきなり二人も働き手が増えて、おまけに報酬までもらえるんだから」
――ロニー。
「掃除屋になったつもりはないが……。まあいい、今日のところは付き合ってやる。乾杯」
――ゴゼン。
「この事件が解決したらこのメンバーみんなで冒険にいくからね! そこんとこ忘れないでよッ!」
――ピュリー。
各自好きな勝手なことを喚きながら夜は過ぎていった。
だが、このとき四人は問題の大きさに気がついていなかった。
なぜ魔法を使えるモンスターが多く現れたのか。
そして、その原因が自分たちにあったということに。
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