06

気が付けば屋敷中から呻き声が聞こえ始め、女の姿をした幽霊がロニーとレネのことを囲んでいた。


ロニーはオートボウガンを手に取ると、いつもの調子で女の幽霊たちへと声をかける。


「は~い、レディたち。もしよかったら今夜食事でもしない?」


「また悪い癖がでた……。お姉ちゃん、マジメにやってよぉ」


幽霊までナンパするなんてと、レネが呆れている。


だが、当然女の幽霊が誘いに応じるはずもなく、彼女たちはフィガロ姉妹へと襲いかかってきた。


恨めしげな声をあげ、一斉に飛びかかってくる。


「う~ん、つれないなぁ。ならしょうがない。レネ、掃除屋フィガロの仕事開始だよ」


「オッケーお姉ちゃん。はぁぁぁッ!」


ロニーは妹に声をかけると同時に持っていたオートボウガンを発射。


レネも彼女に続いて跳躍し、その小さな体を回転させながら蹴りを放った。


小柄な少女とは思えない動きで、女の幽霊たちを下がらせていく。


連続して放たれる矢の嵐と、レネの凄まじい足技に女の幽霊は怯んだが、実体がないせいかダメージはない。


呻きながらも再び彼女たちへと手を伸ばしてくる。


「あらら、やっぱ幽霊には物理攻撃が効かんのね」


「どうしようお姉ちゃん。あんまり屋内では使いたくないけど、あれをやっていい?」


「まあ待ちなよ、レネ。こういうタイプのレディには適切な対応の仕方があるのさ。ナンパ百戦錬磨のワタシに任せなさい」


ロニーは何か考えがありそうだったレネを下がらせると、再び荷車から道具を取り出した。


それは大きな照明器具のようなもので、彼女はそれを抱えて女の幽霊たちに向かって点灯する。


すると、まるで小さな太陽が現れたように光を放ち、女の幽霊の姿が次々に消えていった。


これはロニーが開発した太陽光照射、または紫外線照射装置である。


疑似太陽光を発生させる機械であり、幽霊属性であるアンデッド·モンスターにはかなりの効果がある優れものだ。


「ウギャァァァッ!」


真っ暗だった屋敷内が疑似太陽光で満たされ、堪らなくなった女の幽霊たちの姿が消えていく。


その光景を見たレネは姉の活躍に喜び、その場でピョンピョン弾むように飛んでいた。


「やった! さすがはロニーお姉ちゃん!」


「幽霊のお姉さんたちが美人ぞろいだから消しちゃうのがちょっと残念だったけどね。でもこれで後は普通に掃除をすれば、ワタシらの仕事は終わりだ」


すべての女の幽霊たちを消したロニーだったが、まだ本業の仕事には取りかかれなかった。


その理由は、突然屋敷全体が揺れ始め、彼女たちがいた玄関ホールに一枚の巨大な額縁がくぶちが現れたからだ。


「貴様ら、この絵と屋敷はわたしが手に入れたのだ……。死にたくなければ、今すぐこの場から立ち去るがよい……」


声を発した額縁には、半裸の女性の姿が描かれていた。


ロニーはそのあまりの美しさに、目をトロンとさせてよだれを垂らし、酷くだらしない顔になってしまっている。


「美しい……ああ、なんて美しいんだ……。お嬢さん、そんなこと言わずに、ワタシと食事でも……」


「はぁ……またお姉ちゃんの悪い癖がでちゃったよぉ……」


大きくため息をついたレネは、強引に姉を下がらせた。


力任せに放られたロニーは荷車へと倒れ、中に入っていた機械に頭を打って気を失ってしまう。


そんな姉のことなど気にせずに、レネは両腕を円を描くように回した後、拳をガッチリと握り込んで身構える。


「こうなっちゃうともうお姉ちゃんは使い物にならない……。来いおばけッ! アタシが相手になるよ!」


「身の程知らずが。多少武術の心があるようだが、魔力を持つわたしに、人間の子供ごときが勝てると思ったか!」


額縁のモンスターがそう叫ぶと、屋敷内を稲妻が迸り、先ほど女の幽霊たちを消し去った太陽光照射装置が破壊された。


再び暗闇になった屋内では、額縁のモンスターが放つ雷がそこら中で輝き始めていた。


そしてその稲光は閃光へと変わり、レネ目掛けて放たれていく。


「うわぁッ!? まさか本当に魔法を使ってくるなんて!?」


「フッハハハ! どうだ? 怖かろう、恐ろしかろう、小娘。だが、もう遅い。今さら命乞いをしようとも許さんぞ。貴様たちはここで終わりだ!」


次々に放たれる雷。


だが、レネは雨のように降り注いでくる閃光を避けながら、額縁のモンスターがへと近づいていく。


そして距離を詰めて、モンスター目掛けて右の正拳突きを打ち込んだ。


屋敷内におかしな鈍い音が響いたが、額縁のモンスターは無傷だった。


絵に描かれた女が、その美しい顔を歪めて笑う。


「フフフ、貴様の拳など効かんよ。さあ、大人しくわたしの雷に打たれるがいい!」


額縁を殴った手応えはあっても、やはり相手は幽霊。


先ほど姉ロニーが女の幽霊たちを攻撃していったように、物理攻撃では額縁に憑りついたモンスターにダメージを与えることができない。


だが、それでもレネは笑ってみせる。


手足を使った攻撃方法しかないはずの彼女から余裕を感じた額縁のモンスターは、不可解そうに口を開く。


「この状況で笑うなど、あまりの恐怖に頭がおかしくなったのか?」


「あなたは知らないんだよ。アタシになにができるのか、どんな技が使えるのかをね」


「フン。つまらんハッタリはよせ。貴様のことならよくわかってる。もう一度いうぞ。たかが人間の子供が、わたしに勝てるはずなかろう」


嘘をいって隙をつくるつもり魂胆かと考えたモンスターは、攻撃の手をさらに強めた。


もはや避けることも難しい状況まで追い詰められたレネは、それでも笑みを絶やさない。


「あ、そう。なら見せてあげる。アタシの力、それと必殺技をね」

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