03
睨むゴゼンと見つめ返すロニー。
向かい合っている二人を見て、これでは料理が冷めてしまうと思ったレネは、ある提案をする。
「じゃあ、ゴゼンがお姉ちゃんの料理よりも美味しいものを作れるか、それで勝負しよう」
判定するのはもちろんレネ。
彼女は勝負は公平に審査するつもりだと言いながら手を上げ、現実にいるのかもよくわからないキノコの神様に誓っていた。
レネが場を収めようとしてくれているのを理解しながらも、ロニーは呆れた顔をして妹に声をかけた。
ゴゼンは互いに実力を出し切る勝負がしたいのだ。
それが料理で決着をつけようなんて提案を受け入れるはずがないと。
「だからね、レネ。ゴゼンはそういう勝負がしたいわけじゃ――」
「いいだろう。今日はちょうど手作り弁当を持参している」
「えぇぇぇッ!?」
だが、意外にもゴゼンはレネの提案を受け入れ、自信満々でお弁当箱をテーブルの上に置いた。
驚いているロニーを見た彼女は、両腕を組んで「ククク」と肩を揺らしている。
「私が料理できないと思っていたようだが、そうはいかないぞ。こう見えても毎日台所に立っているんだ」
「いや、別に君が台所に立っていても驚かないけど。いいのか、それで……?」
「フフ、負けを認めるなら今のうちだぞ。今日は偶然にも、かなりの自信作なのだからな!」
開けた弁当箱の中身は、白米にお芋、野菜の煮物や漬物だった。
さらに水筒には味噌汁と、手は込んでいそうだが質素な料理が入っていた。
ゴゼンの弁当を見たレネは、悲しそうな顔をして言う。
「お肉もお魚もない……」
「武士は食わねど高楊枝というヤツか……」
ロニーもまた妹と同じ顔をして、彼女の後に言葉を続けた。
二人の同情するような視線に、ゴゼンは怯みながらも声を張り上げる。
「そ、そんな目で見るな! 今日はたまたま質素なだけで、普段はもっと豪華なんだぞ!」
「強がらなくていいから。苦労してるんだね、ゴゼンも……。さあ、ワタシの胸で泣くといい」
「えぇーい、寄るな! いちいち触れないと死ぬのかおまえは!? そんなことよりもレネ。こいつの料理と私の弁当、どっちが美味しいかを決めてくれ」
レネはコクッと頷くと、静かに食事を始めた。
妙な緊張感を放ちながら、実に真剣な面持ちで姉とゴゼンの料理を食べていく。
そんな場の雰囲気のせいで気持ちが張りつめてしまったのか、ゴゼンは料理を食べるレネを見ながら生唾を飲みこんでいた。
一方でロニーのほうは、あくびを掻いていてどうでもよさそうにしている。
そして、両方の料理を一口ずつ食べ終えたレネが、フォークをテーブルに置いた。
「どうだ!? どっちのほうが美味しかったんだ、レネ!?」
「それは……」
ゴゼンに訊ねられたレネは、少し間を開けてから答える。
「引き分け。どっちも美味しかった」
「なんだと!?」
「だよね」
レネの判定に、ゴゼンは「バカな!?」とでも言いたそうに声を荒げた。
反対にロニーは妹の出した判定に納得している。
「理由を、ちゃんとした理由を教えてくれ! なぜ引き分けなんだ!? ロニーの料理よりも私の弁当のほうが食材も多く、彩りやバランスもいいはずだ!」
「だって、どっちも比べられないほど美味しかったんだもん」
「そんなことあるか!? キノコしか使ってない料理に、私の自信作が負けるはずがない!」
納得のいかないゴゼンは、そう言いながらロニーのキノコ料理を食べた。
すると、彼女はまるで雷に打たれたかのような表情を見せ、持参してきた箸を持ったまま固まってしまう。
「バ、バカな……。キノコしか使ってないというのにこの食べ応え……。味も濃厚でいながらけして飽きがこない!?」
「お金がない分は工夫しないとね。貧乏は辛いけど、おかげで料理の腕は上がったよ」
ロニーがそう答えると、ゴゼンは俯いたまま歯を食いしばっていた。
何がそんなに悔しいのか。
今にも泣きそうな顔になり、その身を震わせている。
「フフ、してやられたというわけか……」
「なにが?」
ロニーが顔を引きつらせて訊ねると、彼女はまるで幽霊のようにゆらゆらと扉へと歩き出し、突然振り向いて声を張り上げる。
「いいだろう、今回はこれで引いてやる! だが、次こそは決着をつけてやるからな!」
「いや、だからワタシは別に勝負したいわけじゃなくて……というか、別にゴゼンの勝ちでいいし」
「首を洗って待っていろ、ロニー·フィガロッ!」
バタンと扉を閉め、大きな衝撃が室内に響いた。
残されたフィガロ姉妹は、「まあ、いいか」と食事を再開することにする。
「お姉ちゃん、ゴゼンのお弁当はどうしようか?」
「食べちゃっていいんじゃない? このまま置いといても痛んじゃうだけだし」
それから二人はキノコだけのマリネや炒め物、クリームシチューと、白米にお芋、野菜の煮物や漬物を美味しくいただいた。
食後は、午後から入っていた清掃の仕事まで時間があったので、各自好きなことをして過ごしていた。
ロニーはぜんまい仕掛けの機械の修理。
レネはソファーに横になって、ぼんやりと開いた窓から外を眺めている。
「なんか暇そうだね、レネ」
するとそよ風と共に、バンダナを巻いた少女が部屋に入ってきた。
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