エピローグ
本当に信じられない。
雪平は、目の前の【少女】を見つめながら驚いていた。
同時に思考していた。
「(あの時、微妙な反応をしたのはそういうことだったのね。というか事前に教えなさいよ。変態ドクターめ……)」
「なんす?」
少女──コピーは雪平の視線が気になり問う。
雪平は「な、何でもないよ」と首を横に振った。
雪平とコピーはエリアBにて、再び顔を合わせていた。
彼女達はそこらにあるベンチに座り込んでいた。
雪平はコピーに仕事の褒美を与えなくてはと、小さな紙袋をコピーに手渡していた。
「本当は魚料理をご馳走したかったんだけど……予算がね。それで勘弁して」
「?」
コピーが紙袋を開けると、そこには『たい焼き』なる物が入っていた。
「魚って、結構甘い匂いするんすね」
「……ほんとうにごめん」
「ん??」
何故雪平が謝っているのか、コピーには理解できなかった。
それよりもコピーは「食べていいんす?」と聞き、目の前のたい焼きに興味深々だった。
雪平が「もちろん」と返すと、コピーはカプリとたい焼きを口にした。
特徴的なアホ毛がぴょこんぴょこんと跳ねた。
無表情だが、その様子から雪平はお気に召したのだろうと察した。
「(感情のセンサーか何かなのかな?)」
雪平はそう思考しながら、コピーの頭を撫でようとした。
しかしその瞬間、先ほどの任務のコピーが雪平の頭の中でフラッシュバックした。
何故、彼女が機械生命体を倒すとき、あのように笑うのか。
その理由はゴールドにも分からないらしく、それが原因でコピーから距離を取ってる人間が多いらしい。
雪平もその気持ちが分かってしまい、躊躇してしまった。
だが、同時にコピーが雪平との約束の話をしていたのを思い出した。
きっとコピーは表情には出ずとも、本来は優しい性格で、そこらの人間よりも人情があるのだろう。
そんな彼女が信じてくれたのなら、自分も信じなくては。
雪平は思考をまとめ、ようやく彼女の頭を恐る恐る撫でた。
コピーは不思議そうに雪平を見つめたが、嫌がりはしない。
本当に先程の任務からは想像がつかないほど、コピーが大人しくなっていることに雪平は驚く。
そのギャップで、思わず雪平は吹き出してしまった。
「どうしたんふ?」
「いや……何でもないよ。ねぇコピー」
「何ふ??」
「何であの時、私の名前を出したの?」
「……」
コピーはそこで一度、食べることを中断する。
それから口についた餡子を舐めとってから、答えた。
「僕、ドクター以外の人とこんなに話したこと、なかったっす」
「……うん」
「嬉しかったんす。アリスが僕と喋ってくれたのが」
「……そっか」
コピーは表情こそ変わらないが、楽しげにそう語る。
頭のアホ毛がゆらゆらと揺れているのが、その証拠だ。
「(この子、やっぱり人間と変わらないじゃない。むしろ人間より人間らしい)」
雪平はそこで確信した。
自分の考えは間違っていない。
彼女を人と同じように接することは自分のためにも、彼女のためにもなるのだと。
「これから一緒に頑張ろうね。コピー」
「おっす。頑張るっす。アリス」
その一言に、雪平は微笑んだ。
隻眼のジェノサイダー 夜缶 @himagawa
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