ゴールド・フライトという名の変態博士
「ンフフ……ンフフフフッ」
白衣を着た中老の男性が気色の悪い笑い声を漏らし、研究所内で響かせる。
男が存在するそこはエリアCと呼ばれ、対AI殺戮兵器の製造及び修理所として機能する研究所だ。
研究所内には多数の小型モニターと一つの大型モニターが設置され、そのモニターを通じて対AI殺戮兵器と連絡が取れる。
一つの小型モニターにつきオペレーターが一人ずつ配置され、それぞれ殺戮兵器の援護をするロボットから映像が映し出されている。
そして大型モニターには、アホ毛を揺らしながら走っているコピーが映し出されている。
ゴールドはそれを舐め回すように観察し、満足した表情を浮かべながら唸る。
「すんばらしぃ……! やはりお前は最高傑作だコピー……!!」
一癖も二癖もあるゴールドのその声に、オペレーターは苦笑した。
当然、コピーの監視役兼お世話係の彼女も例外ではない。
彼女は眼鏡の位置を直しながら、ゴールドに話しかけた。
「あの。ドクター」
ドクターと呼ばれたゴールドは、大型モニターから彼女へ視線を移し対応する。
「君もそう思わんかねぇ? 雪平くぅん?」
「え? あっはい」
「そうだろうそうだろう。それで何用かね?」
何を共感してほしいんだろうという言葉は抑え、雪平はゴールドに問いかける。
「あの。コピーについて色々疑問がありまして……」
「ほほう? 我が最高傑作にどんな?」
「はい。彼を……何故作ったのです?」
「フッ。そんなもの一つしかあるまい」
ゴールドは興奮気味にはっきりと答えた。
「ワシの趣味じゃよ。雪平くぅん……」
ニチャアという音が鳴りそうな、そんな表情で答えた。
雪平は何となく察してはいたが、目の前にいるこの男は変態なのだ。
「……なるほど。ドクターは変態なんですね」
雪平はハッキリとそう言った。
ゴールドはいわゆる拗らせた性癖を持ち合わせているのだと、雪平は解釈した。
ゴールドは慌てて否定する。
「違う! ワシはただの変態じゃない! 『天才』な変態じゃっ!」
「どっちにしろ変態じゃないですか!」
「変態なくして、優秀な技術者になどなれん!」
「何開き直ってんですか変態ドクターッ!」
「ドクター」
最後にそう言ったのは、女性オペレーターだ。
ゴールドはコホンと咳払いをしてから、「なんだ?」と対応する。
「コピーから伝達がありまして、もうすぐ目的地に着くそうです」
「よし。それでは援護の準備をしたまえ」
「承知しました」
事務的な会話が終わった直後、オペレーター達が準備を始めた。
カタカタとキーボード音が各地で鳴り響く中、再び雪平はゴールドに問う。
「ドクター」
「何だね? 『天才』な変態なのは分かっておるぞ?」
「違いますって……コピーについて、もう一つ聞きたいことがあるんです」
「ん?」
「……彼、エリアに住む人達から目の敵にされているんです。何だかそれって、理不尽だと思いませんか……?」
雪平は分かりやすく、寂しい表情をゴールドに見せた。
対してゴールドは極めて冷静に、「なるほど。やはりか」と納得していた。
雪平はゴールドのその様子に、今度は怪訝な顔で話しかけた。
「『やはり』というのは、想定してたのですか?」
「無論。ワシが前に作っていた殺戮兵器に対しても、そうした態度を取る住民はいたさ」
「……ドクターは、何とも思わないのですか?」
雪平は少し震えた声で問いかける。
それでも、ゴールドはやはり淡々とした対応をした。
「そりゃまぁ悲しいさ。人類を守る者がそのように見られているのは」
「じゃあ尚更──」
「だからといって今更咎める必要もないじゃろう。あの子は正真正銘、AI専用の殺戮兵器なのだからな」
「……っ」
「雪平君。あの子に愛情を持って接してくれているのは素直に嬉しい。しかし、あまり注ぎすぎるな。あくまで兵器であるし、いざとなればあの子には自爆もさせるさ」
「じ、自爆……」
「あくまで最終手段さ。あの子はワシの最高傑作じゃ。そう簡単に手放したくはない」
機械より機械らしいその対応に、雪平はショックを受けていた。
そんな雪平の様子に察したのか、ゴールドは大型モニターを見ながら雪平に話す。
「雪平君。君はまだコピーの戦闘形態を見ていないだろう?」
ゴールドのその言葉に、雪平は「はい」と答え頷いた。
ゴールドは続ける。
「とりあえず、あの子が殺戮兵器であることを再確認したまえ。きっと考え方も少しは変わるだろう」
「……」
雪平は答えなかった。
大型モニターの方を見ると、コピーが戦闘準備を整えたことを報告していたため、オペレーターが指示を出した。
そして画面の向こう側から、機械音声が聞こえてきた。
『ジェノサイドモード、起動』
それが聞こえた直後、ゴールドは呟く。
「……まさか【左眼】に設計してしまうとは……失敗したのう……」
「?」
雪平はゴールドの言っていたことを、すぐに理解できなかった。
しかし、理解するのに時間は要さなかった。
画面の向こう側で、コピーは何やら不適な笑みを浮かべ、視線の先にいるレッドスプライト達へ前進した。
そして、コピーは左眼に手をやり──。
「!?」
驚いたのは雪平だ。
何故なら、文字通り彼は左眼を引き抜いたからだ。
あまりにも生々しいその行動に驚きを隠さなかった。
そして次の瞬間、引き抜いた眼が赤く光り始めた。
そこで雪平は、コピーの名前の由来を初めて理解することになった。
「……まさか」
コピーの手元に、レッドスプライト達が持つビームサーベルが現れたのだ。
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