彼女の実家

 智晴は緊張しながら手土産のケーキをもって、晴美の実家に向かっていた。

「そんなに緊張しなくていいよ。」

 晴美はそういうが、彼女のご両親に会う以外にも聖一にばれないようにしないといけないと思うと、よけいに緊張してしまう。


 駅から10分ほど歩いたところで、彼女の家に着いた。自分の実家と比べようのない大きくてきれいな家だった。

「立派な家だね。」

 智晴は思わず口にしてしまった。

「そうでもないと思うけど。普通だよ。」

 晴美の答えに、普通の違いに格差を感じた。


 チャイムを押して玄関を開けたところで、晴美の母親の千春が迎えてくれた。智晴は挨拶して、手土産を渡した後リビングに案内された。すでに、父親の聖一は座っており、智晴は椅子に座る前に挨拶することにした。

「松尾智晴です。娘さんには仲良くさせてもらっています。」

「父の聖一です。呼び出してすまなかったね。娘に彼氏ができたってきいたから一度見ておきたいと思って。緊張しなくてもいいから、まあ座って。」

 とりあえず歓迎ムードなことに安心して、智晴は椅子に座った。母親の千春がコーヒーを運んできて、聖一の隣に座る。

 改めて智晴は、二人に晴美と付き合っていることを伝えた。

聖一からは、

「ひとり娘で甘やかしたせいか、わがままな娘で申し訳ないがよろしく。」

千春からも、

「ずっと彼氏ができずに心配していたけど、智晴さんみたいな素敵な彼氏ができて良かった。」

 ふたりともおおむね付き合うことに賛成でよかった。


 その後もしばらく談笑していたところ、玄関のチャイムがなった。千春が玄関に向かうと、聖一が

「智晴君、寿司をとったから一緒に食べよう。」

 どうやら智晴のために、お寿司の出前を頼んでいたようだ。

「わざわざ、すみません。ありがとうございます。」

 智晴は礼をいって、一緒にお寿司を頂くことにした。ご飯の準備をしている間、座りっぱなしも悪いと思い、智晴はきいた。

「何かお手伝いしましょうか?」

「じゃ、醤油皿とお箸並べてもらっていい?」

 母の千春からお願いされ、テーブルに皿とお箸を並べた。


 そのごは美味しいお寿司を頂きながら、大学生活のことなどを話しながら和やかムードの食事会となった。

 帰るときに、晴美が駅まで一緒に行こうと言ってきたので、一緒に駅に向かっていると、

「好感触だったね。」

 晴美も彼氏の評価が良かったことに安心しているようだ。

「よかったよ。」

「智晴、初対面なのにお父さんと仲良く話していたね。」

 パパ活で何回もあっているので初対面じゃないし、扱い方は慣れているとは言えずごまかすことにした。

「まあ、証券会社勤務だったから、経済学部と共通の話題も多いしね。」


 晴美の家を訪問した次の週末、聖一からパパ活のお誘いがあった。スペイン料理のおいしいお店を見つけたから、一緒に行こうとメールには書いてあった。

 この前買ってもらったワンピースに着替えて、待ち合わせのスペイン料理屋さんにつくと、間接照明のおしゃれなお店で、半個室になっており先に待っている聖一のところへと案内された。

「遅くなりました。」

 智晴が挨拶して半個室のしきりになっているカーテンを開け入ると、

「ワンピースよく似合っているね。」

「ありがとうございます。」


 聖一が勤務したことのあるドイツやイギリスなどのヨーロッパの話を饒舌に語りながら、今日もご機嫌にワインを飲んでいる。

「ところで智ちゃん、娘に聞いたけど、経済学部の同級生に松尾智美はいないんだって。松尾智晴はいるとは言っていたけど。」

 恐れていた智晴の正体に気づかれたようだ。

「だましていて、ごめんなさい。」

 順調なパパ活生活もここまでだと覚悟した。


「そんなに謝らなくていいよ。むしろ好都合だよ。」

 そう言って、聖一は智晴の体を触り始めた。いままではお尻だけだったが、胸も触ってきた。

「男同士なんだから、構わないだろ。」

 半個室であるので外からは見えない作りになっており、聖一がこの店を選んだ理由が分かった気がした。声を出して抵抗することもできたが、だましてきた罪悪感もあり、触らるだけならと我慢することにした。


「学費が足りないなら援助するから、パパ活はもうやめなさい。」

「はい、わかりました。」

「晴美にも内緒にしておこう、それがお互いのためだ。」

「でも、女装していることはバレてますよ。」

 智晴がいうと、聖一は不敵な笑みを浮かべた。

「まあ、今後も娘ともどもよろしくな。」

 そう言ってその日は分かれた。

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