お花見デート
一度智晴の部屋に泊めて以来、泊まりはしないものの頻繁に部屋に来るようになった晴美は、智晴の部屋でテレビを見ていた。智晴としても、女装のことがバレてしまった以上断る理由はないし、カフェ巡りに付き合わされるよりは金銭的に楽なので部屋で一緒に過ごす時間が長くなってきた。
晴美は何げなくつけていたテレビのニュースでアナウンサーが「今日開花宣言がでました。満開は1週間後ぐらいになりそうです。」と言っているのを聞いて、
「智晴、今度お花見デートしようか?」
「いいけど、それはどっちで?」
「お花見にあわせて、花柄のワンピース着てもらいたいから智ちゃんがいいかな。」
女装のことが晴美に知られて以来デートするときに、男のままの智晴で行くのか、女装した智ちゃんでいくのかの晴美の希望を聞くようになった。
「このワンピース絶対に着てきてね。」
晴美はクローゼットから、ワンピースを取り出して智晴に見せながら笑顔を見せた。
お花見デート当日、智晴はリクエストされた花柄のワンピースを着がえて姿見でみてみると、かわいいけど甘すぎかなと思い、デニムのジャケットを羽織ってみた。甘いピンクとデニムがちょうどいい具合に甘辛になって、良い感じになった。
同じ服でも組み合わせ一つで印象ががらりと変わるから、奥深くて楽しくてたまらない。
待ち合わせの大学近くの公園に行くと、公園の入り口ですでに晴美は待っていた。
「やっぱり、花柄似合うね。かわいいよ。そのデニムのジャケットの組み合わせもいいね。智ちゃんってセンスいい。」
晴美は智晴のコーデを一目見るなり褒めてくれた。男でもかわいいと言われると嬉しくなってしまう。
この公園は智晴の家からも近くて、その存在は知っていたが来たことはなかった。昨年智晴が引っ越してきたときは桜はもう散っていたので、近場での桜の名所とは知らずに1年間過ごしてきた。今日初めて公園内を散歩したが、小高い丘に桜の木が並んでおり、視界いっぱいに桜が広がってきれいだった。
晴美と一緒に桜をみながら散歩をしていると、
「智ちゃん、今度から学校にも女の子でこない?絶対にばれないよ。」
「ばれないって言っても、知っている人にはバレるだろ。」
「バレてもいいんじゃない。似合ってるんだし、好きな服着てきてもいいんじゃない。」
「まあそうだけど。」
「決まりね。毎日でなくてもいいけど、週に1回ぐらいは着てきてほしいかな。」
なんとなく、断る理由を見つけることができずに、しぶしぶ承諾してしまった。
散歩を続けていると、突然晴美の名前を呼ぶ声が聞こえた。晴美がその声のする方をみて、
「直美と紗耶香だ。智ちゃんも一緒に行こう。」
そう言って、晴美は智晴の手を引っ張って二人の方へと近づいて行った。近くまで来たところで、智晴に二人のことを紹介してくれた。同じテニスサークルの友達のようだ。二人もここで花見をしていたみたいで、レジャーシートの上にはお菓子やジュースなどが置いてあった。二人が智晴に気づき挨拶してくれる。
「人文学部の西田直美です。」
「農学部の石本紗耶香です。」
智晴は実は男であることをばらした方がいいのか、智ちゃんのままで押し通した方がいいのか、悩んでいたが晴美が
「彼氏の松尾君。女装が趣味だけど、似合ってるでしょ。」
あっさりと男であることをばらしてしまった。
「え~男に見えない。」
「むしろ私よりかわいい。」
晴美と同様、智晴の女装をあっさり受け入れて、一緒にお花見をしようと誘ってくれた。
レジャーシートに座りお菓子を頂きながら、西田さんと石本さんと一緒に話す。
「晴美よりも、智ちゃんの方が女の子みたいだね。座る仕草や、コップを両手で持つ仕草とか、仕草まで女の子っぽい。」
「理想の女性像があって、それになろうとしているから、多分より女の子っぽいんだと思う。」
智晴が、西田さんの質問に答えると納得したのかうなずいてくれた。実際は自分の理想というよりは、パパ活相手のオヤジたちが描く理想の娘なのだが、それは黙っておこう。
ひとしきり女子トークをした後、日も暮れ初め気温も下がってきたところでお花見もお開きとなった。西田さんと石本さんにお菓子のお礼を言って、別れた後晴美と一緒に智晴の部屋に向かった。
「彼氏がいるって母親に言ったら、どんな人かみてみたいって言ってるから、今度うちに来てもらってもいい?」
晴美が申し訳なさそうにお願いしてきた。
「両親に挨拶か~、緊張する。まだ結婚するって決まったわけでないのに早くない?」
「智晴が初めての彼氏だから興味があるみたい。多分、大丈夫だよ。一緒にご飯食べるだけだから。」
こうして晴美の実家に行くことになってしまった。父親の聖一に、智晴と智ちゃんが同一人物と気づかれないか、心配になってしまう。
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