発覚
晴美は濡れた服を脱いでシャワーを浴びて、着替え用に渡した智晴のジャージとTシャツに着替えて部屋に戻ってきた。晴美は身長165cmと女子にしては大きい方だが、それでも身長170cmの智晴の服では大きすぎたようだ。
「やっぱり大きいかったね。ごめん、それしかなくて。」
「いいよ。気にしないから。」
そのあと、智晴もシャワーを浴びることにした。雨で冷えた体にシャワーの温水がありがたいが、晴美がクローゼットを開けて女装道具を見られないか不安なので、烏の行水ごとくさっと浴びて部屋に戻った。
翌朝智晴の目が覚めると、狭いベッドで隣に寝ている晴美はまだ寝息を立てている。朝ごはんいつもなら食パン1枚に牛乳だが、晴美もいるのでもうちょっと豪華にしたく、寝ている晴美を起こさないようにそっと家を出てコンビニ行くことにした。
コンビニでヨーグルトとコーンスープを買って部屋に戻ると、晴美はすでに起きてテレビを見ていた。
「おはよ。寒かったから、パーカー借りてるね。」
パーカーを着ているということはクローゼットを開けられたということで、内心落ち着かないが、平然を装って朝食の準備を始めた。
パンを焼いて、インスタントのコーンスープにお湯を注ぐだけなので、あっという間にできあがって、一緒に朝ごはんを食べ始めた。
食べ終わって、食後のコーヒーを淹れたところで晴美が、
「ところで、クローゼットの中の話だけど。」
遠慮がちな様子で話を切り出してきた。見られてしまった以上、正直に言うしかないと腹をくくった。
「ごめん、実は女装しているんだ。」
さすがにパパ活のことはふせた。これで晴美との関係が終わる。そう思ったが、
「良かった~。私以外にも付き合っている人がいて、その人の服かと思った。」
「晴美のほかに付き合っている人なんていないよ。」
「だって、智晴なかなか部屋に入れてくれないんだもん。で、やっと入れてくれたと思ったら、女物の服あるし。」
意外とあっさり、女装を受け入れてくれた。
朝食をすませると、晴美は昨晩から乾かしていた自分の服に着替えると、
「着替えたいから一度家に帰るね。お昼過ぎにまたくるから、智晴も着替えておいて。」
「着替えてるって?」
「もちろん、女の子によ。智晴の女装したところ見たいし。スカートはこの花柄で、トップスはこれがいいかな。」
そういって、晴美は智晴に紺の花柄スカートとピンクのシフォンブラウスを渡してきた。
昼過ぎに智晴が着替えてメイクしているときに、晴美が部屋に戻ってきた。
「やっぱり思った通りかわいい。」
パパ活では何人もの男性からかわいいと言われたが、女の子にかわいいと言われると嬉しく感じる。
そのあと晴美に連れられるままにショッピングモールに行き、いくつかの店をまわり、「この服かわいい。智ちゃん似合いそう。」「このバックもかわいいね。」とハイテンションでウインドショッピングをしている。
1時間ほど見て回ったところで、さすがに疲れてコーヒーショップで休憩することになった。
「今日、テンション高いね。」
智晴はコーヒーを一口飲んだ後、晴美に尋ねた。
「妹ができたみたいで、楽しくなっちゃた。」
「妹なの?」
「女の子としては、私の方が先輩でしょ。いままで智晴には勉強教えてもらってばっかりだったけど、智ちゃんには女の子として教えることできるでしょ。」
女装がバレた時は晴美との関係が終わることを危惧していたが、受け入れてくれたことはありがたいが、彼氏から妹になってしまったみたいだ。
「家にあった服見たけど、割と高そうな服も合ったけど、いつもお金ないって言っていたのに大丈夫なの?」
いつもあんまり女の子らしい格好をしていないとはいえ、さすが女子。見ただけで服の価値がわかっている。
女装を初めてばかりのころは、自腹で揃えていたので安めの服を着ていたが、パパ活でお小遣いをもらうようになって少し余裕がでると、安めの服の生地のペラペラ感やデザインの安っぽさが気になって、ちょっと高めのブランドの服も買うようになった。また安っぽい服をきている智晴に同情してか、パパ活で服を買ってもらうこともあり、それで本来の収入では不相応な服が揃っている。
「最近、バイトが好調だからね。」
「ところで何のバイトしてるの?あんまり曜日が固定されていないみたいだけど。」
「簡単に言えばイベント関係かな。イベントの設置や撤収で、不定期で時間も遅くなることあるけど、その分時給がいいからね。」
パパ活とは正直に言えず、智晴は適当にごまかした。
ひとしきり、女の子同士の買い物を楽しんで帰る途中に晴美が聞いてきた。
「智ちゃんは、女の子になりたいの?」
パパ活のために女装しているとは言い出せず、
「女の子服ってデザインも色も豊富で、組み合わせを変えるだけでも印象は変わるし、着ていて楽しいなとは思うけど、女の子になりたいってわけではないって感じかな。」
ごまかしながら答えたが、実際女装をするようになってその魅力にひかれていったのも事実だ。服も組み合わせで印象代わるし、メイクもほんの少しチークを入れるか入れないかでだいぶん印象が変わってくる。努力すればするほど、結果が目に見えるのでついつい楽しくなってきているのも事実だ。
「そうなんだね。LGBTQの時代だしいいんじゃない。」
晴美は絶対にLGBTQが何なのか理解していない台詞で締めくくったが、女装をやめてと言われなかっただけでも良しとしよう。いま女装をやめて、パパ活まで辞めると、お金が無くなり大学まで辞めないといけなくなる。
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