父と娘の関係

 2月中旬になりテストもレポートも終わり、智晴は部屋でコーヒーを飲みながら久しぶりにゆっくりとした時間を過ごしていた。2月に入ってからは、毎日テストやレポートの締め切りに追われて食事も睡眠も満足に取れない日々が続いていた。

 当然パパ活もここ1か月ぐらいはしていない。数名からお誘いはあったが、テストを理由に断っていた。でもそろそろ再開しないとお金もないし、美味しいごはんも食べたい。そんなことを思っていた時、パパ活用のスマホから着信音が聞こえた。


智晴が確認すると、聖一からのお誘いだった。今までは夕ご飯だけのお付き合いだったが、今回はお昼過ぎから一緒に買い物してからの夕ご飯のリクエストだった。食事だけと違い買い物中に多くの人の目に触れる買い物デートは男ばれのリスクが高まるが、服やアクセサリーを買ってもらえ、拘束時間が長い分お小遣いも奮発気味になるのでハイリスクハイリターンなので極力避けていたが、テスト中勉強に集中するため、パパ活を控えていたので正直懐に余裕はないので応じることにした。


 日曜日の昼下がり、デパートの前で聖一と待ち合わせした。今日の夕食は清楚系のワンピースにしてみた。聖一は、実の娘である晴美は絶対に着ることはないだろう清楚系やフェミニン系のファッションが好みみたいだ。だましている罪滅ぼしも兼ねて、理想の娘を演じることにした。

「お待たせ。」

 軽く手をあげて聖一が近づいてきた。いつものスーツ姿ではなく私服の聖一を初めてみたが、タートルネックにジャケットで服装にも気を配っているのが伝わってくる。休日はネルシャツにジーパンの智晴の父親とは大違いだ。

「珍しいですね。昼から誘ってくれるなんて。」

「この前、大学ででているレポートの課題教えてくれただろ。『金融緩和が与える影響について』ってやつ。娘にそれとなくその話をしたら熱心に聞いてくれて、久しぶりに娘と会話ができたよ。そのあともテストの勉強など聞いてくるようになってきて、娘との時間が増えてきたので、そのお礼にプレゼントしようかなと思って。」

 テスト前いつものように晴美は授業のノートは借りに来たが、レポートと見せてとは言ってこなかったので不思議に思っていたが、父親にきいていたとは思わなかった。

 聖一に花柄のワンピースを買ってもらって、レストランで食事をした。食事の最中も、娘と話せたことが嬉しかったこと、きっかけを作ってくれてありがたかったことを何回も繰り返し話していた。


「お肉、美味しい~」

 晴美が嬉しそうな顔でお肉を口に運んでいる。聖一からお小遣いをもらったこともあり、翌日の月曜日智晴はテストを乗り切った打ち上げも兼ねて彼女の晴美と焼肉を食べていた。

「カルビも美味しいけど、ハラミも美味しいね。」

 智晴もテスト期間中はご飯を作り時間も食べに行く時間も惜しいので、半額になった総菜のコロッケやポテトサラダをパンにはさんだものを食べ続けていたので、久しぶりのまともな食事はより美味しく感じる。

「ところで、カルビとハラミの違いって何?」

「カルビはあばらの近くの肉で脂身がおおくて、ハラミは横隔膜の筋肉だから脂身がなくない。どっちも美味しいけどね。」

「そうなんだ、ハラミの方がカロリー少なそうだから、ハラミを食べようっと。」

「どっちにしても、食後のデザートのアイス食べるなら一緒だよ。」

 そういうと、晴美は口を膨らまして怒った表情を見せた。そんな表情もかわいく思える。


 ひとしきりお肉を楽しんだところで、

「ところで、期末のレポート見せてって言いに来なかったけど、自分でやったの?」

「お父さんに聞いたの。よく考えたら、証券マンだから経済には詳しいはずだから聞いてみようかなと思ってきいたら、すごく詳しく教えてくれたの。」

「よかったね。」

「お父さんに勉強教えてもらうなんて、小学生以来。ちょっとお父さんの事見直した。」

 隙あらばお尻をさわってくるエロオヤジだけどな、という言葉は飲み込んで、

「いいお父さんだね。」

とだけ答えた。


 昨日聖一からもらったお小遣いからお札を取り出し、会計をすませて焼肉屋を出ると雨が降っていた。

「俺の家近いから傘取ってくるから、お店で待ってて。」

「一緒に行ったらだめ?」

「部屋散らかっているから、すぐそこだから待ってて。」

「傘もらうだけだから、ダメ。」

 あんまり拒絶すると機嫌がわるくなるので、しぶしぶ智晴のアパートに一緒に行くことになった。


 雨の中を数分走り、アパートにたどり着く。数分走っただけだが、結構濡れてしまった。このままだと風邪ひきそうなので、いったん晴美を部屋にあげた。服やメイク道具はクローゼットにしまっているので、そこを開けなければ大丈夫だろう。

「はい、タオル。」

 晴美にタオルを渡した。髪も濡れているし、このまま帰らせるのは薄情におもえてきて、

「今日どうする。泊まっていく?」

「いいの?」

 晴美は嬉しそうな顔で、母親に女友達の家に泊まってくると連絡し始めた。





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