パパ活のパパは、
翌週の金曜日、北野さんからの紹介された西本さんに会うことになった。今日は、小花柄のワンピースにしてみた。
待ち合わせの駅前広場につくと、すでに西本さんと思われる男性が待っていた。打合せ通り、紺色のスーツにストライプのネクタイ、茶色のカバン、おそらく間違いなく西村さんだ。スリムな体形で、みるからに紳士な感じが漂っている。
恋愛ではないので相手は選ばないが、それでもだらしなく太ったビール腹やくたびれたスーツを着ている人だと、女性としても嫌だし、男としても将来こうはなりたくないと思ってしまう。
「お待たせしました、松尾智美です。智ちゃんって呼んでください。」
なるべく嘘は少ない方がバレないということで、本名の松尾智晴から一文字だけかえた松尾智美という偽名を使っている。
「西本聖一です。北野から、金融の勉強をしたい女の子がいるって聞いていたけど、こんなにかわいい子がくるとは思わなくて、驚きました。」
好印象をもたれたことに安堵して、西本さんに連れられて和食のお店に入った。
お店に入り、個室に案内される。
「素敵なお店ですね。格式高そうで緊張します。」
「大丈夫だよ。そんなに高くないお店だから緊張しなくていいよ。でも、味は確かだから期待しておいて。」
「そんなお店ご存じなんて、さすがですね。」
男性はお店を褒めると、そのお店を知っている自分のことを褒められた気になる。いつも思うが、男って単純な生き物だなと思う。
料理とお酒が運ばれてきたので、瓶ビールをもって西本さんの隣に座ってお酌する。このとき、少し肩が触れ合う程度に近づくと、好感度が増すことは経験済みで知っている。
そして乾杯した後、料理を一口いただく。このとき、口に入れてから笑顔を作ってから、一瞬間をおいてから「美味しいです。」というのがポイントなのも知っている。
男性は自分が選んだお店の評価が気になるから、女性が最初に食べる時の様子を見ていることが多い。そこで一瞬の間をあけることで、相手につかの間の不安感を与えた後に「美味しい」という好評価することで、そのギャップでより喜んでもらえる。
予想通り西本さんは上機嫌になり、饒舌になってきた。
「インフレ時における中央銀行の役割は、金利を上げることだけど、それで景気を冷やすといけないから、ただ上げればというものではなく・・・」
智晴はレポートの課題でもある、中央銀行の役割について聞いてみたところ、西本さんは優しく教えてくれた。なんとかレポートがまとまりそうな程度おしえてもらったところで、
「智ちゃん、勉強熱心だね。大学はどこ?」
大学を聞かれた。嘘の大学を言ってもいいけど、偶然母校とかで「あの教授は?」などと深く聞かれたときに困るので、本当の大学名を答えることにする。
「天保大学です。経済学部の1年生です。」
「うちの娘も天保大学の1年だけど、西本晴美って知ってる?」
知ってるも何も彼女です。ここで動揺すると、不自然に思われるので、
「う~、知らないですね。同じ学部でも100人以上いるので、ごめんなさい。」
「まあ、そうだよね。」
「娘さんには、私のこと内緒にしておいてくださいね。大学で変な噂になっちゃうので。」
多分お願いしなくても、パパ活で知り合った子のことを娘には聞かないだろう。でも、念には念を入れてお願いしてみた。
上手くごまかしたまま、食事は終わり、「ごちそうさまでした。」と言って腕を組んだ。満更でもない表情から、リピーターになってくれそうな気がする。
「これお小遣い、タクシー代も入ってるから。」
西本さんは手を上げて止まったタクシーに智晴をのせた。
「ありがとうございました。楽しかったです。」
窓越しに挨拶した後、タクシーは発車した。
「最寄りの駅まで、お願いします。」
運転手さんからどちらまでと聞かれて、自宅までとは言わずに駅までにして、差額のタクシー代も頂くことにした。
帰宅後すぐに、お礼のメールを送った後すぐに、また来月も会いたいと返信がきた。
リピーターが一人増えて嬉しいが、父親がパパ活しているなんて彼女の晴美が知ったら、どうなるか不安になってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます