順調なパパ活

 金曜日の授業が終わると同じ経済学部の同級生の石田が、智晴にこの後麻雀しようと誘ってきた。

「ごめん、これからバイトなんだ。また誘って。」

「そっか、残念だな。他のメンツ誘うよ。それにしても、そのバイト時給高そうだな。」

 もちろん、パパ活のことは内緒にしている。

「なんでわかる?」

「最近、学食で小鉢の総菜も食べてるだろう、以前はご飯代を節約するためにおにぎりを自分で持ってきて、おかず一品しか頼んでなかったのに。」

 パパ活を始めるまではいつも昼ごはんを持参のおにぎりと、180円の白身フライで済ませていたが、パパ活を始めて少し余裕がでたのと健康のことも考えて、野菜をたべるようになり、かぼちゃの煮物やひじきなどの小鉢もつけるようにしていた。

「最近、肌の調子もよさそうだしね。」

 いつの間にか近くにいた、西本晴美が会話に加わってきた。ジーンズにパーカーと女の子っぽさをあまり感じないが、ポニーテールのおくれ毛に艶っぽさを感じかわいく思えるのは彼女だからだろうか。

「そんなことよりも、今日の授業のノート見せて、あと来週提出のレポートもみせてよ。」

「わかった今日はこのあとバイトだから、明日ね。」

 彼女の晴美とは、授業のノートをみせたり、レポートを写させたりすることを繰り返しているうちに仲良くなって付き合い始めた。彼女は所属するテニスサークルの先輩から過去問や、どの授業が楽なのかなど情報を仕入れてきてくれるので、一応はwin-winの関係だと思っている。


 慌てて大学から自転車で10分の自宅に戻ると、いったんシャワーを浴びる。冬なので汗をかく季節ではないが、念のためシャワーを浴びて石鹸の香りのする香水をかるくつけ、男の匂いを消す。

 髭を念入りに剃って、化粧水などのスキンケアを済ませたのち着替えを始める。ブラとショーツを身に着け、黒タイツを履き、スカートも履く。今日はベージュのリボン付きのシフォンブラウスとワインレッドのスカートの組み合わせにした。

 女子からすると、ぶりっこすぎるとか男受け狙いすぎとか言われるファッションかもしれないが、パパ活するような年代の男性にはすごく受けが良い。

 着替えも済ませて、メイクを始める。まずはベースメイクでファンデーションをぬり、口元の髭の跡はコンシーラーで隠す。そのあとアイメイクに移り、薄めのピンクのリップを塗って仕上げる。鏡で念入りに仕上がりを確認した後、家を出た。


  待ち合わせの駅前広場で智晴がまっていると、メールで打ち合わせしたとおりのグレーのスーツに赤色のネクタイの男性が近づいてきて声をかけてくる。

「智ちゃんですか?」

「はじめまして、北野さんですか?」

 北野さんに連れられて、イタリアンレストランに入る。お店のスタッフに案内されテーブルに座ったところで、北野さんが店員からメニューを受け取りながら、

「智ちゃん、何か食べたいものある?あとお酒は?」

「こんなところ初めてなんで、よくわからないのでお願いします。好き嫌いは特にないです。あとお酒はまだ未成年なんで、ちょっと。」

 実際はパパ活で高級レストランには何度か来たことがあるが、初々しさを出すために智晴がそう答えると、北野さんは店員にコース料理とワインを注文して、智晴のために炭酸水を注文してくれた。


「日米金利差が与える影響として・・・」

 北野さんはお酒も入っているのか饒舌に仕事について語っている。パパ活も何度か繰り返すうちに、だいぶんコツもわかってきた。パパ活するような男性は仕事で成功しており、その仕事のやり方に自信をもっている。こちらがあまり話さなくても、自慢げに話す仕事話を興味深そうに聞いているだけで満足してくれる。

 最近は自分の勉強にも生かすために、出会い系サイトに金融関係の方、大歓迎と書くようにしたので、証券会社や銀行などの重役たちから直々に話が聞け、お小遣いまでもらえる一石二鳥の状態になっている。

 今日も為替に詳しいということで、レポートの課題である金利差と為替の関係について聞いたところ、上機嫌で教えてくれた。


 食事も食べ終わり、お店の前で別れる前に手を握り、

「今日はありがとうございました。こんな美味しい料理初めてです。」

 上目遣いでお礼を言った。

北野さんはカバンから封筒を出して、

「お小遣いだよ。頑張って勉強しているみたいだから、奮発しておいたよ。」

「ありがとうございます。」

 再び手を握りながらお礼を言う。男なんて、単純な生き物だと思ってしまう。

「あと、智ちゃん金融関係に興味あるなら、同僚を紹介するけど、どうかな?」

 出会い系で探すよりも、身元がしっかりしているので有り難い。

「ぜひ、お願いします。」

 再び上目遣いでお願いしてみた。


 家に戻り封筒を開けてみると、二万円入っていた。始めたばかりなので、一般的なパパ活よりも相場を低めの一万円に設定してあったが、本当に奮発してくれたみたいだ。早速お礼のメールを送った。

 この世界もただ可愛いだけでは生きていけない。それでも、普通のバイトよりも美味しいご飯も食べれて、お小遣いも貰えて、勉強もできていいことづくめだ。

 パパ活はやめられない。

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