パパ活のパパは、彼女のパパでした

葉っぱふみフミ

お金がない

 その日、松尾智晴は夜勤のバイトを終えアパートに帰宅すると、テレビをつけて朝ごはんを食べることにした。

 町工場を営む両親に無理を言って大学に進学したものの、雀の涙の仕送りと、奨学金は学費と家賃に消え、食費や教科書代などはバイトで稼ぐしかない状態だった。しかし、割のいいバイトを探すと夜勤や重労働になり、その疲れた体で大学に行き授業を受け、レポートを書いていると正直しんどい。

 なんとか前期は乗り切ったが、これをあと3年半続けるとおもうとうんざりしている。バイトばかりでサークルなどにも入っておらず、思い描いていたキャンパスライフとは程遠い生活が続いている。


 夜勤明けのボーっとした頭で、食パンと牛乳だけの朝食を食べながらテレビをみていると、「パパ活女子大生の実態」という特集が始まっていた。

「ご飯を食べておしゃべりするだけで、お小遣いで2~3万円もらえます。性的関係はないです。お互いわかってやってるから、悪いこととは思ってないです。」

 モザイクのかかった若い女性がインタビューに答えているのを見て、智晴は女性は簡単にお金が稼げていいよなと思ってしまった。

 

 朝ごはんを食べ終わり、仮眠の前に歯磨きするために洗面台にむかった。歯磨きしながら鏡に映った自分の顔をみて、あるひらめきを感じた。

 昔から女の子っぽい顔とか、女装したら似合いそうとかからかわれていたが、この顔と貧乏暮らして痩せて細くなった体を使えば上手くいくかもしれない。

 そのあと仮眠もとらずに、思いついたアイデアを実行に移すまでの計画を練り始めた。


 それから3か月後の11月、智晴は一人自宅で鏡に向かってメイクの練習をしていた。3か月間毎日百均でそろえた化粧品でメイクをしていれば、さすがに上手くなってきた。服を着替えウィッグをかぶり、鏡の前に立つと女子大生に変身した智晴が映っていた。

 あの日思いついたアイデアは、女装してパパ活をすることだった。それを実行するために、まずは軍資金稼ぎとダイエットをかねて重労働で知られる引っ越しのバイトを夏休み中頑張り、その軍資金で、化粧品、女性服、ウィッグなど女装道具をそろえた。

 それからは大学の授業と夜勤のバイト以外の時間は、ほとんど女装の練習に当てた。メイクや歩き方はもちろん、声も女声になるようにネットで調べた方法で発声練習した。

 3か月がたちある程度自信がついたところで、今日初めて外出にチャレンジしてみることにした。


 心臓の鼓動が聞こえるぐらいドキドキしながらアパートの階段を降り、初めて女装した状態の自分を他人の目に触れることになった。

 練習の効果もあり、誰からも変なに見られることなく目的の駅についた。駅近くのショッピングセンターの女性服売り場に行ってみることにした。

 そこの店員と話しながらスカートを試着して買ってみたが、とくに男性と気づかれることはなかった。

「男ってきづいてました?」

 一応確認のために、会計が終わった後店員さんにと聞いてみたが、

「気づかなかったです。こんなにかわいいのに、男性だったんですね。また来てくださいね。」

 お世辞かもしれないが、かわいいと言われて嬉しくなった。


 これで準備は整ったあとは実行に移すだけだ。智晴はいくつかの出会い系アプリに登録した。

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