冷たいゲーム
少なくとも移動中の車窓よりかは退屈はしなかった。
初まりは「野郎どもやっちまえ!」からの「なんだこいつ化け物か!」経由で「ヒィ! お助けを!」までの様式美、破れかぶれで足掻いて、結局破れてツブツブ血溜まりになっていくモヒカン達は、シュールリアリズムだった。
「だからガトランドから出たくなかったんだ!」
「ふざけるな! ミナレットの方が登山装備で軽装だからって言ってたのはお前だろ!」
醜く仲間割れする二人がまとめて裁断され、仲良く一つとなると、皆殺しは終わりを迎えた。
ビィ、とハルバードを振るい、へばりついてた血を払いおとすヤベー女、デセプティア、その赤いリボンは赤い血が混じり黒く染まっていて、モヒカン達が与えることができたダメージなどそれだけのようだった。
そのデセプティア、ゆらりとこちらに向くと、ピシリとハルバードの先端をこちらに向けた。
「さぁ前座の雑魚どもはかたずけたぞ! 残るはお前ただ一人! さっさとその馬車から出てきて俺と戦え! そして俺の最強のメインディッシュとなれ!」
……なんか、ヤベーのが、戦え言ってる。
ふざけんな。
あんなのと戦うなんて、割りに合わない。
見たところチートや魔法のような特殊技能は見られなかったが、それは必要なかったから、ただハルバード振るうだけで十分こと足りたから。
それだけ基本能力、ステータスはぶっちぎりに高い。
もしこれとやりあうのなら、素手は不可能、銃を持ってしても難しく、こちらのチート頼りでなんとか、といったところ、つまり相手にするのはめんどかった。
「なんだ怖気付いたのか!」
それでいい。
俺は首を横に振りながら両手を挙げて怖気付いたと表現した。
「よしじゃあそのままでいい! 馬車ごと輪切りだぁ!」
「待って!」
ヤベー女に表現は通じないらしい。
思わず声を上げ、それから慌ててドアを被り、外へと出る。
「私はアノニオン! ただの一般の営業です! 戦う意思も力もありません!」
両手を上げてなお降伏の表現、べチャリ、ツブツブ血溜まり踏んだけど今は気にしない。
「見ての通り武器もありません! 戦うだなんて子供時代が最後なのに! それに見てたでしょ? 私はこのモヒカン達にビビって馬車から出ることもできなかったんですよ? そんなのがあなた相手に戦うだなんて酷い冗談です! ですからお願いです! 差し上げられるものは全て差し上げますからどうか命だけは」
さぁ土下座、と思うも下はツブツブ、靴に続いてズボンまでは、ちょっと割りに合わないな。
「……ふざけるなよ」
そんな私へ、返ってきたのは、予想外の声だった。
「お前、本当は強いだろ?」
怒る、というよりも恨むに近い声、デセプティアが思い切り睨みつけてくる。
「俺は最強だから、わかるんだよ。観察力とか洞察力とか、諸々最強だからな。お前は強い。このゴミどもなんか秒殺できるだけの実力、あるいは手段を持ってる。それに、俺の前に立っても怯えもしない。少なくとも殺されないと、最悪なんとかできると心の奥底で思ってやがる。舐めやがって。戦わないのは面倒だから、違うか? 俺の最強がその程度って言いたいのか!」
あぁこれは、めんどくさい。
ヤベーすぎて客にならないから相手したくないと演技してるのに、それを見破ってなお察せず、絡んでくる。まだ何にもしてないのに絡んでくるクレーマーみたいなやつだこいつは。
「……バカにしやがって。俺なんか最強じゃないってか。なぁ、お前なんか相手じゃないって、そう言いたいのか!」
ブン、力任せにハルバード空振りさせると、その風圧だけでツブツブが舞い散る。
ヤベー。
物理的にヤベー好戦的でヤベーに加えて情緒不安定なメンヘラでヤベー。
あの汚部屋といい、ここにはこんな女しかいないのか?
「……もういい。言葉は、いい」
そう言って重心落とすデセプティア、明らかに突撃前の構え、強制戦闘、ヤベー始まりの予感だった。
ヤッベー。
「おーいアノ君。返事してよおーい」
背後からの呑気な声は社長、そういえば電話切ってなかったと思い出し、同時に色々思い出して連なって閃きとなった。
組み立て、言葉選び、終着地点、確信を持って異能を解放する。
ピキャン!
流れる空気は冷気、思えばこちらで発動は初、試してなかったが上手くいけた。
「……なんだよそいつは」
構えたままのデセプティア、視線を向け、顎で指した先には俺が呼び出した巨大な冷気の塊があった。
高さ太さは馬車と同じぐらい、表面には白い靄が流れ落ちる塊は無色透明でありながら屈折により反対側を歪めてみせる。その温度、触れずとも凍てつくほど低温と感じられる。
俺の能力にて呼び出した冷気の柱、その横に立ち、改めて俺はデセプティアへ深々とお辞儀する。
「改めまして私の名前はアノニオン、ご覧の通りチート能力者です。実力を隠していたこと、まずは謝罪させて頂きます。ただこれは上からの指示なのです」
「上?」
「はい。私はとある組織に属してまして、その方針により可能な限り争うなとなっております。なのでデセプティア様、あなたと戦うわけにはいかないのです」
「ほぉー」
怒ってる声、だが怯むわけにはいかない。
「但し、身の危険を感じたのなら別です。その場合は自衛を認められています。もちろんそれだけ相手が強ければ、の話ですが」
「あ?」
「戦うか否か、私の基準はこいつです」
内心おっかなびっくりで隣の塊をノックする。
「私は攻撃された時、これを壁に、盾にして身を守ります。そしてそれで済む相手ならば脅威ではないと判断しています。それはあなたも例外ではありません」
「何だるいこと言ってやがる。実力ならこいつらで見せただろ?」
そう言ってデセプティア、ハルバードの石突きで血溜まりのツブツブの粒をついて潰す。
「いいえ。不十分です。逆にお尋ねしますが、あなたはこの程度の相手、倒した程度の実力を最強と思うのですか?」
「なんだと?」
「そこで一つ、ゲームをしましょう」
怒ってはいる。だが方向性は掴めてる。
なら後は容易い。
餌を撒き、引き込んで、はめるだけだ。
「私が五つ数える間に、氷の柱を砕くことができれば、あなたの勝ち、その実力を認めて戦いましょう。ですができなかった場合、つまりは氷の柱が砕かれなかった場合は私の勝ち、実力不足を認めてこの場は引いて下さい」
「で、砕けたら認めるってか?」
「その通りです。なんなら、負けた方が勝った方の言うことをなんでも一つきく、とルールを厳密化しておきましょうか」
まともなら、突拍子のない話と取り合わない内容、だがこれまでと違って相手されてるのが嬉しいのか、デセプティア、口の端が笑ってる。
「いいぜ。それで、いつ始める?」
勝った。
「それでは早速、いいですね?」
「おう!」
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