考古学者 川端陸矢の旅行記

夢水 四季

はじめに

 旅が好きだ。

 何も考えずに電車に乗り、窓から流れる景色をぼーっと見ているのが好きだ。

 地元の閑散とした鉄道に乗り、雪景色を見るのが一番好きだ。

 都会の満員電車よりも田舎の数時間に一本しか来ない電車に乗る方が好きだ。プラットホームで文庫本でも読みながら、一時間ほど電車を待つ時間も好きだ。


 学者として食っていくのは中々難しい。自分の好きな研究や発掘を出来るのは嬉しいが、そのためには得意ではないこともしなくてはいけない。よく旅をしている自由人と思われることが多いが、旅をしている場面がクローズアップされているだけなのだ。本当は論文を書いたり研究発表会に出たり発掘に行ったり古文書の復元に立ち会ったりもしているのだ。見えないところで地味に仕事をしているのだ。


 最近、知り合いから新しい仕事を紹介された。

 旅についてのエッセイを書いてみないか、と。

 俺は文才がある方ではない。学生時代からレポートには悩まされ、今でも論文の文体に四苦八苦している。俺が執筆する予定のエッセイはとある文芸雑誌に月一で連載されるらしい。こんな何処の馬の骨かも分からない一学者のエッセイが果たして需要はあるのか。

 そんな訳でおそらく雑誌の片隅にひっそりと掲載されるであろう駄文のネタを今日も考えている。

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