第7話 静かな国の終わった町にて
勇者と魔王は二人山を登っている。魔王の四歩ほど後ろを、勇者がついてくる形で。
「マオさんまだすか?」
「そう
ちなみに二人はやろうと思えば“
「ほら、着いたぞ」
「……おぉ」
時刻は夕方。
そして、最も視界が開けた位置と思われる場所にはおあつらえ向きに
「なんすか? これ」
「
そこまでしてんだったらもっと素直に来てあげりゃよかった、と勇者はひっそり思いながら腰を掛けた。
「ここは不思議な場所だな。なぜか、我が
「え? ここが? マオさんの? 故郷に?」
あぁ、魔王が感慨深そうに
「魔界ってもっと薄暗くて
「前三つは別として、
魔王は疑問に思う。勇者がこの場所を
魔王は確かにこの地を気に入っている。それは、かつての故郷を思い出すからだけではない。雄大さ、静けさ、他にもある。
しかし、それは偶然そうであっただけ。魔王は住処の選択に一切関与していないのだ。
勇者は
「それはこの町が大陸でも一番地味な国にあるからですよ。大陸の端っこだし、別に資源が豊富なわけでもないし、領土が極端に大きくも、小さくもない。言えば地味な国なんです。加えて、今この町には
「領主が?」
「領主が
『空気がうまいから』のようなもっと雑な理由だと思っていた矢先、一応は理に適った答えが返ってきて魔王は少々面を喰らう。
「なる……ほどな。……だが、
「そう……なんですか? それは知らなかったです。なんでですかね」
勇者の頭の中では、『恐ろしい魔王が死んだから』という最も安直な理由が出てくるが、きっとそうではない。もっと別の理由があると見ているからこそ、魔王は疑問に思っているのだろう。
そう勇者は結論付けた。
「……というかマオさん、もうこの町の人と話したんですか?」
「いや、見かけただけだ。まだ話したわけではない」
勇者は魔王の「まだ」という言葉に引っかかりを覚える。
これから話す予定だ、という意味に聞こえたからだ。
そもそも、ただの人間である勇者と悪魔である魔王が自然に会話ができているのは、言葉では表現できない関係性がおよそ二年の間で築かれているからである。
もちろん、最初の方のやり取りは
勇者が魔王に何を聞こうにも、高圧的で
それが決して魔王の伝えたいところではなく、単に“そういう話し方”しかできないだけ、ということに勇者が気づいてからようやく、二人の会話が成立し始めたのだ。
もしこれから魔王が人間と関わることになるのなら、少しは『人間との話し方講座』でも開いて、
そう思い至ったところで、勇者は魔王に言葉を返す。
「んまぁ、
「無論だとも」
二人の間には暖かな沈黙が訪れる。ただ視界を共有するだけの時間。
人族の夢を背負い戦い続けていた勇者は今、何を思うのか。
その力のない表情は何を意味するのか。
希望の象徴という重圧から解放され、燃え尽きているのか。
それとも、本当に何も考えていないのか。
魔族の夢を背負い戦い続けていた魔王は今、何を思うのか。
その不気味な笑みは何を意味するのか。
最強絶対の魔王という
それとも、恐ろしき計画でも考えているのか。
「改めて、
静かな国の終わった街で“死んだ”二人は祝い合う。
この二人が共に暮らして、何も起きないはずがないのだが……。
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