M28. コンビネーション

「あ、あんたたち…」


「ふぅ、ギリギリだった…」


「ですね。間に合って良かったです」


「な…なんで…?」


「危ないところでしたね」


「なんで俺を助けるんだよ!」


 ディアンは叫んだ。よそ者と罵った二人に助けられるなどとは思いもよらず、とても認められるものではなかったのだ。だが、そんなディアンを爽志が一喝する。


「危ない目に遭ってる人がいたら助けるのが道理でしょう!」


「?!」


 ディアンは言葉に詰まってしまい、それ以上何も言い返すことが出来なかった。


「ソーシさんの言う通りです!ディアンさん、動けますか?」


「あ、あぁ、なんとか…」


「良かった。これ、ポーションです。飲んでください」


「す、すまん」


 ロディーナはそのままポーション入りの袋をディアンに渡した。中にはまだ未使用の瓶が何本か入っている。


「では、これを持ってディアンさんは村の方へ避難を!自警団の人たちに飲ませてあげてください!」


「な、なに言ってんだ!あんたたちはどうすんだよ?!」


「私たちはここで音災を食い止めます」


「なっ?!たった二人で何が出来るって言うんだよ?!それに、俺はまだ戦える!」


「…だったら尚のこと村の護りを固めてください!私たちなら大丈夫!絶対にこの村を守って見せます!」


「あ、あんたたち…」


「ギャギャギャ―!!」


 奇声を上げ群れの一匹が突っ込んでくる。ゆっくりと話している暇は無いようだ。


「ハッ!」


―――ボゴッ!―――


 ロディーナがチューニング・フォークで薙ぎ払う。たまらず吹き飛ばされたところに詠唱を終えた爽志のフラマが直撃する。リトルホロウは断末魔の叫びを残し消滅していった。


「さぁ早く!今のうちに行ってください!」


「わ、わかった…。すまない!恩に着る!」


 ディアンはそう言うと村の方へ走って行った。リトルホロウは追いかけようとしない。仲間を倒されたことで、その敵意の矛先は爽志とロディーナへと移っていたのだ。

 ロディーナは冷静に状況を確認する。奇襲によって数体は倒せたものの、まだ二十匹以上のリトルホロウと未だ動きのないホロウノートが健在だ。二人は圧倒的な数の不利を抱えている。このままでは数に押し切られ、敗北してしまうかもしれない。ロディーナは押し潰されそうな不安を隠し、爽志を気遣って話し掛けた。


「ソーシさん。…行けますか?」


「ちょっと数が多い気がしますけど、何とかやってみます…!」


「その意気です。…じゃあ、行きますよ!」


「はい!」


 ロディーナが詠唱を始める。爽志は自分に注意が行くようにと、群れの周囲を走ってかく乱し始めた。


「おら!こっちだ!」


 爽志の挑発に乗って何匹かのリトルホロウが攻撃を仕掛けようと突っ込んでくる。爽志はしめたとばかりにロディーナへ合図を出す。


「今です!」


「…アクア!」


 先頭のリトルホロウが倒れる。それを見て慌てる残りの奴らに向けて今度は爽志がフラマを唱えた。直撃を受けたリトルホロウは仲間を巻き込むように炎上して消えていった。


「ソーシさんその調子!」


 二人は同じ場所に留まらず、周囲を走り回りながら群れのかく乱を続ける。今度は足元の石を投げ付けて注意を引き、その隙に仕留めたりと、二人の息の合ったコンビネーションでドンドン数を減らしていく。少しだけ希望が見えてきていた。


 だが、そんな戦いの様子を静かに観察するモノがいた。

 それは仲間が倒れてもどこ吹く風とばかり、異様なほど静かに戦いの様子をジィっと見つめている。二人はリトルホロウを順調に倒しながらも、その不気味さをひしひしと感じていた。


「ロディーナさん、アイツ…動かないつもりでしょうか」


「…このまま何もしてくれなければ一番良いでしょうけど、それは無理な話でしょうね」


「ですよね…。だったら、今はリトルホロウの数を減らすだけです!」


「そうしましょう!」


 二人の言葉通り、みるみるうちに数を減らしていくリトルホロウ。このまま順調に行けば自警団でも対応出来るほどの数になるだろう。


「ソーシさん!このまま押し切ります!」


「はい!」


 最初の数の半分ほどになっただろうか。だが、ホロウノートは相変わらず全く動く素振りを見せない。動かないというよりは、まるで眠っているかのようだった。


「あいつ…寝てるのか…?」


「どうでしょうね…。でも、動かないのならこれはチャンスです!

ソーシさん、私がホロウノートに強力な一撃をお見舞いします。ですが、その術は発動させるまでに少し時間が掛かるんです。その間リトルホロウの気を引いていてくれませんか?」


「邪魔されないようこっちに引き付けておけば良いんですね?わかりました!」


 爽志は二、三歩前に出て、リトルホロウたちに向け啖呵を切った。


「やーい!マメ白黒!仲間を倒されて悔しいか?!悔しけりゃ俺を倒してみな!」


 爽志の言葉が理解出来たのか、それとも馬鹿にされたと感じたのかはわからないが、リトルホロウたちは真っ黒な目を吊り上げて怒りをあらわにする。一部を残して多くのリトルホロウが爽志の元へと襲い掛かってきた。爽志はそれを巧みに躱しつつ、フラマで反撃しながらやり過ごす。リトルホロウたちはすっかりそちらに気を取られているようだ。


「…ありがとう。ソーシさん。少しだけ耐えてくださいね…!」

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