M29. ボーダーブレイク
ロディーナはホロウノートを消し去るため、ボーダーチューナーの天来符術であるボーダーブレイクを発動させようとしていた。プローロでは音素不足のために使えなかったが、今は発動させられるほどの余力がある。意識をチューニング・フォークに集中し、詠唱を始めた。
「叩けや叩け 地の
ボゥッとした淡いオレンジ色の光がチューニング・フォークに灯る。
「
淡いオレンジの光が、よりハッキリしたオレンジへと変わった。
「…ファーストステージ!」
ロディーナが掛け声を放つと、チューニング・フォークの光が更に増していく。眩いばかりの輝きが周囲を照らし始めた。
「すげぇ…!」
「まだ…!これじゃ足りない!」
自分に言い聞かせるように呟くロディーナ。これではホロウノートを倒すには至らないだろう。更なる音素の練り上げが必要だ。
「響けや響け 地の底よ…」
詠唱を続けるロディーナだったが、徐々に増すチューニング・フォークの光に気付いたリトルホロウたちがにわかに騒ぎ始めた。どうやら、そのまま放っておいては自分たちにとって好ましくないことが起こると認識したようだ。ロディーナに注意を向けるわけにはいかないと、すかさず爽志が挑発をする。
「おいおい!どこ見てんだよ!お前ら!俺はこっちだぞ!」
リトルホロウたちは爽志を
「クソ!させるかよ!」
突っ込むリトルホロウに爽志のフラマが直撃し、焼失していった。仲間を倒されたことで再び爽志に敵意が集まる。
「よし、良いぞ…!ロディーナさん続けてください!」
(ありがとう…!ソーシさん!)
ホロウノートは、そんな周囲の騒ぎにも関わらず、未だ沈黙を守っている。そのことにロディーナはずっと嫌な感覚を抱えていた。しかし、現状でホロウノートを倒す手段はボーダーブレイクしかない。ロディーナはそんな不安を抱えながらも詠唱を続けるほかなかった。
「
チューニング・フォークはもう肉眼では見ていられないほどの輝きを蓄えていた。これはマズいとリトルホロウたちがロディーナの方へ突っ込んでいく。最早、爽志がどんなに声を張り上げたところで、止まる様子は無い。
(ダメ!後もう少しなのに!)
ロディーナに向け、リトルホロウが爪を振り下ろした。
―――ザシュッ!―――
「…?!」
ロディーナは目をつぶって身構えたが、その身には何の痛みも衝撃も無い。何が起きたのかと、恐る恐る目を開けてみる。
「…危なかった」
目の前には爽志がいた。ロディーナに振り下ろされるはずだったリトルホロウの爪を両腕で受け止めている。そして、その腕からは血が滴り落ちていた。
「ソーシさん!」
気付くと爽志の周りをリトルホロウが取り囲んでいた。このままでは爽志が危ない。ロディーナは詠唱をやめ、思わず駆け寄ろうとする。
「良いから!続けてください!」
「?!」
「俺なら平気です!それより早くあいつを何とかしないと村が…!」
ロディーナはその言葉にハッとする。ここまで詠唱を続けたのだ、ここで止めてしまっては爽志が稼いでくれた時間が無駄になってしまう。そんなことがあってはいけない。
ロディーナは助けたいという気持ちをぐっと堪え、詠唱を続けた。
(ごめんなさいソーシさん!後少しだから我慢して!)
「顕現するは内なる旋律…」
チューニング・フォークがより一層輝く。
「………セカンドステージ…!」
少しの静寂が辺りを包んだ。爽志もリトルホロウも時が止まったかのようにある一点を見つめていた。
ロディーナは詠唱を終え、両手でチューニング・フォークを掴んでいる。その眼前には大きな光球が姿を現し、周囲を照らしながらユラリユラリと揺れ、そこにある物の影を長くしたり短くしたりしている。
「…へへ。ぶちかましてください!」
爽志の言葉を受けるようにロディーナが構える。すると、それまで静かだったホロウノートが突然叫び声を上げた。
「ヴォヴォヴォ…オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
「もう遅いわ…!
ロディーナの声に呼応するように太陽にも似た大きなオレンジ色の球体が放たれた。周囲を巻き込むような大きな渦を引き起こしながら、ホロウノートを目掛け凄まじい勢いで向かっていく。
「いっけぇぇぇええええ!!!」
―――キィィイイイイィィィン―――
金属同士がぶつかる残響のような音を発しながら光球がホロウノートに向かって飛ぶ。しかし、ホロウノートは回避行動を取ろうとしない。マグナ・カントスはそのまま直撃し、眩い閃光を放って爆発した。
―――ドォオオオオオオン!!!―――
「やった!」
爆発により巻き上がった土煙が辺りを包む。凄まじい威力だ。ボーダーチューナーがホロウノートに対抗する手段、ボーダーブレイク。喰らえばホロウノートとて、ひとたまりも無いだろう。
「…はぁはぁ。何とか倒せた…」
「凄いですよ!ロディーナさん!」
爽志は飛び上がりながらロディーナの元に駆け寄った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます