M11. ランプロン道具店

「それじゃあ、私は家に戻るよ。二人はどうするんだい?」


「私はこのままソーシさんを道具屋へご案内しようかと思っています。ソーシさん、それで構いませんか?」


「勿論!宜しくお願いします!」


「そうかそうか。せっかくだからゆっくりと村を見て回ると良い。何も無い村だが、何も無いって言うのが、特別で良い村だよ」


「へー、そういう考え方もあるんですね」


 爽志はジュゼィの含蓄ある言葉をしみじみと受け取る。


「そうだ、終わったら二人で家へ来ると良い。依頼達成のお祝いにご飯をご馳走してあげよう」


「えー!良いんですか!」


ロディーナは目をキラキラさせている。どうやら食べ物に目が無いようだ。


「勿論だとも。私にはそれくらいのことしか出来ないからね。村一番の食堂に連れて行ってあげよう」


「ありがとうございます!よし!じゃあソーシさん、とっとと道具店に行きましょう!」


「とっととって…。わかりました!ジュゼィさんまた後で!」





「…ふふ、良いコンビになりそうだな」


 ジュゼィは優しい目で二人を見送った。







 ロディーナを先頭に二人は村の中を歩き始めた。まだ昼間ということもあり、村人らしき人たちがこちらを見てしきりに何かを話している。その視線は主に爽志に注がれているようだ。爽志はなんだか有名人になったような気分でニヤニヤした。


 ただ、それを見たロディーナが「楽しそうで良かったです」と言ってきたので、慌てて現実へと引き戻された。


「俺って浮いてます?」


「…いえ?ちゃんと地面に立っていらっしゃいますよ?」


二人はすれ違いコントのようなやり取りをしながら、目的の道具店へと歩いて行った。


「あっ、見えました。あそこが道具店ですよ」


 ロディーナが言う方向に目を向けると年季の入った建物が見えた。近づくと、…なるほど。擦れた文字で《ランプロン道具店》と書いた看板が掛かっている。


(…なかなかどうしてこれは。とても修理が出来るとは思えないな。

…いや、せっかくロディーナさんが案内してくれてるんだ。行くだけ行ってみよう)


 そう考えた爽志だったが、そこでハッと我に返った。文字が読めている。改めて看板を見てみると、日本語とは似ても似つかない形をしていて一見して読めるようなものではない。だが、何故か爽志には読めてしまうのだ。


(なんで読めるんだ…?!)


「…ソーシさん?どうかしましたか?」


 混乱する爽志を心配したのかロディーナが声を掛けてきた。読める理由はわからないが、このままここで突っ立っているわけにも行かない。まずはスマホの行方をこの歴史的建造物に勝るとも劣らない、実に趣のある建物に一縷の望みを託すことにした。…託して良いのかと疑問を感じながら。


「あの、ロディーナさん。俺一人だと緊張しちゃうので、一緒に入って貰っても良いですか…?」


 爽志は未知との遭遇に備え、ロディーナにご一緒いただくことにした。ロディーナは若干不思議がる表情を見せたが、同意してくれた。


「では、入りましょうか。爽志さんお先にどうぞ」


爽志は恐る恐る道具屋の扉を開けた。ギギギィっと建て付けの悪い音が響く。


「ごめんくださ〜い…」


 爽志は普段言い慣れない言葉を絞り出す。中は意外にも小綺麗な様子だ。見渡すと商品らしき本や文具が並ぶ。印象的なのは色とりどりの液体が入ったガラス瓶の数々だ。それぞれがスノードームの様にキラキラと輝いている。


 爽志はロディーナに質問をした。


「これ何ですか?置き物とかじゃ無いですよね?」


「あ、これはポーションですよ。音素を混ぜ込んで色んな効果を付与した液体なんです」


「え!これがポーション?!じゃあ、飲めるんですか?!」


 ゲームでしか聞いたことのないような言葉を聞いて思わず爽志は思わず興奮する。手に取ってまじまじと観察しようとしていたら、店の奥から声がした。


「あんた、ポーションを見たこと無いのかい?」


 声の方を見ると妙齢の女性がこちらを見ていた。腰までありそうな赤色の髪、瞳は緑、上半身にはエスニック風のロングベストを羽織り、下半身にはダボッとしたサルエルパンツを履いている。

 腕組みをしたその姿は不信感と好奇心とが共存しているが、不思議と絵になる美しさだ。


 「あ、勝手に触ってすみません!初めてみたので、つい…」


 女性は爽志を値踏みするように頭の先から足の先までゆっくりと視線を動かす。そして、何かに納得したように頷いた。


「…まぁ、良いさ。うちのはそんじょそこらのポーションとは出来が違うからね。見惚れちまうのも仕方ないよ」


「お邪魔してます。クレアさん」


 ロディーナが挨拶をする。見知った相手のようだ。


「あら、ロディーナじゃないの、ヤッホー。あ、もしかして彼氏連れ?」


「もー!違います!

今日はこちらのソーシさんが道具店を見たいと言うのでご案内してきただけです!」


「冗談よ、冗談。あんたはいちいち良いリアクションをしてくれるわね」


クレアと呼ばれた女性はケラケラと笑っている。


「クレアさんはふざけすぎ!もう!」


「あっは、ごめーん」


「ソーシさん。こちらはクレアさんです。この道具屋のご主人でいらっしゃいます」


「クレア・ランプロンよ。よろしくね〜」


クレアは手をヒラヒラさせながら言う。


「あ、はい。音方 爽志です。宜しくお願いします!」


「このお店は名のあるルーディオなら知らない者はいないってほどの名店なんですよ」


「あはは、お褒めの言葉ありがと。

…ところで、そのソーシくん?はうちに何の用なの?」


 不意に自分の話題になり爽志は焦った。そもそもの問題として、この道具店は自分の要望を叶えてくれるのだろうか。話すかどうか迷ったが、ここまで来たら当たって砕けてみることにした。

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