第6話 バグ技に夢を見る転生者
今の私が使える魔法はいくつかあるけれど、その全てが
使える種類は以下の通り。
ちなみに私はルビアちゃんのチート適性でここまで使えているが、普通は適性があっても全ての支援魔法を使えるほどではないそうだ。
話を戻せば、このように支援魔法には二種類の系統があるのが分かるだろう。
しかし全てが攻撃魔法のような属性を持たないことだけは共通している。
なお、身体強化魔法は使う属性ごとに微妙に効果が異なるため、属性なしとは言えないんだとか。
ゲームの設定を含む小説では、主要キャラの全員が攻撃か身体強化、または両方を使えたし、アイテムもあった。
だから支援魔法で活躍したのが、有能平民な従者が使う
支援魔法オンリーなんてスペックはルビアのみだが、小説ではぜんぜん使わない。
そもそも描写された回復魔法は、怪我や病気などの不調全般に効く基本の
そんな情報しかなかったものだから、教会で魔法に関する書籍を読むまで
回復魔法はこの呪文のみのもので、ゲームの聖女も魔力ゴリ押し系だと思い、私自身もそうやって使っていたのだ。こんなに効率的な専用の魔法があったのにね。
無知無知の無知。もう
お恥ずかしい限りだわ。
だからヤブ医者するにしても、最近はきちんと考えて治療している。
まずはヘイズウルフに噛まれて傷口から転んだ魔物狩人のおっさん。
「じゃあちょっと汚い傷口を削るんで
「痛みくらいはいつものこと……え、痛くないのが怖いな」
「はい、よーし」
「ためらい無く切ってくるあたり、先生は良い狩人になれそうだ」
まずは
外傷や軽度の欠損に効果的な
あ、感染症が怖いから
次は糞客にお腹をぶん殴られた娼婦のおねーさん。
「うんうん
「センセ、アザって消える?」
「うーん……アザはね、皮膚の下に血がたまって変な色になってるのが原因だから、おねえさんの体が血を溶かしきるまで残っちゃうんだよ。いちお、早めに治るように魔法使っておくけど」
「ありがとー!愛の泉ってお店にいるから、来たらサービスしてあげる♡」
「はははは……ありがとね」
長持ちするように強めの
最後に内出血の血を早めに片付けられるように体の不調を良くする
そんで今度は不幸にも、ケンカ仲裁で胸を痛めた食堂のニーちゃん。
「肋骨がね、たぶんこれはヒビだね。あと他に痛いとこは?」
「うーん、別に……あとはアザくらいだからな。ああでも、なんか足の小指が痛いんだ。ちょっと歩きにくいから気になってる」
「みしてみして、ほうほうほう。よく靴を履いてこれたねこんな腫らして。しかも折れてるよこれ。踏ん張りがきかなくなるから治そうね」
骨折やヒビにも
治れば痛くなくなるから、鎮痛はしなくて良いだろう。
「肋骨、この骨の下に肺があるんだ。息を吸うための袋なんだけど……ほら、膨らむでしょ。これが傷付いてたら怖いから、まだ痛いとか息苦しいとかあったら、ウチでも教会でも良いから早く治療してね」
「へぇ」
「いちおね、ずっと
「ありがとう」
次、なんか調子の良くない爺さん。
総合的にゴリ押し
「はい
「おおおお……お嬢ちゃんの魔法はよう効くのぅ……」
爺さん、よく私が女子だと分かったな。あなどれん。
とまあこのように、現代日本で医療番組とか見ておくだけで、こんな風に分かりやすいモノだけならヤブ医者プレイできてしまう。
ガチお医者さんにぶん殴られてもおかしくないが、魔法は偉大だね。
日曜日はこうして門限近くまで金を稼いでいるが、他の曜日では何をしているのかというと。
まあ、ご飯を食べて魔法の練習をして、働いて寝ているだけだな。
ぶっちゃけルーチンが変わらないから、普通につまらない内容だわよ。
身長が伸びたことを理由に外仕事をもっと積極的に受けて、帰りに買い食いする屋台を飽きないように、ちょいちょい変えるくらいしか変化がないもんね。
「身長はそれだけで武器だし、念のために150センチくらいになってから登録したいな」
あと20センチ伸びれば、この代わり映えのない生活が変わるに違いない。今の伸び具合を思うに遠い話ではないはずだ。
それに、代わり映えしない日常と言えるくらいの余裕が出てきたのは良いことかもしれない。課題ばかりに追われているのは他のことに手を出すリソースが無いという意味でもあるから。
「まあ、課題としては、もっと
最近どうしても私物が増えてきたものだから、荷物を置いておく場所に困っている。
孤児院で暮らしている以上は他の子の手が届く場所に、下手に私物を置いておけないのだ。
「ゲームみたいにアイテムを無限に持てれば良いのになぁ」
酒場から帰りがてら購入した、屋台の焼き芋をスッと目の前につき出す。
すると……ただ焼き芋をぐいっと突き出す不審者の姿になっただけだった。
「こういう時はさぁ、ご都合主義的にストレージとかが使えて、この焼き芋がスポっと仕舞えたりしないのかねぇ……」
しないねぇ。
仕方がないので焼き芋は美味しく腹の中に収納し、次は骨付きの焼いた鳥肉を購入する。
何の鳥かは知らんが、
ふむ、ケピピポヌの足……え、ネーミングこわい。
「塩しか使ってないのにデリシャスなのは良いんだけどね」
平民の調味料は塩とハーブと香味野菜、お酒やお酢、あとは発酵させた野菜の汁とかだ。思ったよりバリエーション豊かなラインナップだが、ぶっちゃけ種類だけあって味は前世ほどじゃない。
だから下手したらシンプルな味付けの方が旨いなんてこともある。こんな風にね。
ケピピポヌとかいう、ゲーム設定の外側でランダム生成されたような名前の鳥肉を食べかけにして、今度は魔力でおおってみる。
「魔力でおおって、どうする?」
とりあえず出した魔力がもったいないから、
「直らないわね……」
無限ケピピポヌの足はできなかったよ。
ま、治ると直るは違うからね。
死んだケピピポヌはケピピポヌじゃない。ケピピポヌの形をした肉だ……ってやつ。
「
再現というか再演だ。
冷めて硬くなりかけたケピピポヌの足を食べきって、今度は大きな野菜おやき的な何かを買う。
中身は野菜の塩漬だが、浅漬け程度で変な臭みがなく食べやすい塩系の味。
「じゃあこれは、
うーん、ぼんやり何か持っているように見えるけど、何を持っているかは集中しないと分からんね。
これは孤児院に私物を隠すときに使えそう。
「……
へぇ。偽装した物品を観察すると、要素だけ認識できるようになるのか。
感覚としては、そこにあるはずの物品に関する内容がテキストのみで表示されているようなものだ。
なかなか不自然な感じで逆に目立つというか、おやきを観察している眼球が痒いような痒くないような変な感じ。あふん。
くそう、まさか偽装の欠陥がこんな形で判明するとは。
「そうだ、
私と同じようにこそこそしてる
……いたわ、斜め後ろに。さっきみたいにテキスト表示のみにはならないけど、その姿を見ているだけでちょっとだけ目の奥がムズムズする感覚。
偽装を貫通している様子なのは他人を見ているからなのか、はたまた魔力量で私が勝っているからなのか。
いや、まずこの少年に尾行されるってことは、私が自分に偽装を掛け忘れているってことだ。
アホやんね。お医者さんごっこするときに解除して、そのまんまにしちゃってたよ……。
「へい少年」
じっと見詰めながら声を掛ける。やがて黒髪金目のボロい服を着た少年は諦めたようで、大人しく近寄ってきた。
なんか見たことある気がするなぁ。
「何で私をつけていたのかな?」
「つけてませんよ。食べ物を振り回して遊んでいる不審者がいれば、見てしまうものでは?」
「
というか君、さっきの私の奇行を見てたのね。やっちまったな。
「……で、僕に何の用です?」
「いや、だから私を尾行していた理由をだね」
「してませんよ。うぬぼれではないかと」
「じゃあ何で偽装と消音して歩いてたのさ」
「僕の勝手でしょう。門限までに帰らなければならないんです。もういいで……すか」
彼がセリフを言い終わる直前に、その腹からグルグルゴリゴリとやべぇ音が鳴り響いた。
明らかに空腹の叫びである。
「もしかして、スリ」
「……」
ズボシかぁ。買い食いしまくりで懐が暖かそうな私を狙ったんだな。継ぎはぎのボロめな服を着ているのだから、金を稼ぐ前の私とそう変わらない懐具合なのだろう。
魔法が使えるあたり優秀だが、魔力があるからこそ肉体は成長しやすく腹も減りやすい。だからこの少年はスリをしようとしていたのだろう。
捕まれば体罰されるし、何回もやると手を切られるのが窃盗罪だが、成長期の空腹がつらいのは分かる。
「まだやってもいないのに衛兵に突き出しますか?」
「まだって言ってるあたり、語るに落ちるというやつではないかなぁ」
「クソッ」
何だか毒気を抜かれてしまって、私は近くの屋台で串焼き肉を買って少年の鼻先に突き付けた。
「ほれほれ……お、良い食いつき」
こちらを睨みながら肉を噛み締める様子が面白い。
そういえば最近、話がまだ通じる歳上の子らが孤児院から出ていってしまったせいで、同年代とろくに話していなかったな。なんだか新鮮な気分。
や、そもそもそんなに他人に興味あるわけじゃないから、私の積極性が足りないだけなんだろうけども。
「食べましたけど、お金は持ってないですからね」
「うんうん」
「それに、僕を男娼として誘うのならお断りしますから」
「へ!?」
「あなたが男の癖に男と
ルビアちゃんほどじゃないけど少年も、ちょっと可愛い系の顔だとは思いましたけど、そんな誘いをするつもりはない。
というかそもそも私は男娼ではないし、あの酒場から出るときは元患者の顔見知りと雑談しながら出てきただけで。
いやまず君は私を酒場から見ていたのか。
「あれは単に元かん……元客なだけで」
「ほら、客取ってるじゃないですか」
ああ~~……異世界じゃ売春は違法じゃないけど、ヤブ医者はゴリゴリ違法なんだよなァ~~……。
「いろいろと誤解しているようだけど、これだけは言っておく。私は男娼ではないし、君を誘ってもいない」
「……誘っていない部分は信じても良いですけどね」
めんどくさいなぁ。
ほら、もう一本あげるから肉を食え。
「今度からスリするときは魔法が使えるんだから、酔っぱらいみたいな危険じゃないやつを狙いなよ」
「大きなお世話です。不審者のくせに」
「生意気なやっちゃなぁ」
生意気少年は肉を食い終わると、門限がどうのこうのと言いながら走っていった。
「……あ、私も門限あるじゃん思い出したわ」
今度こそしっかり偽装し、消音してから改めて増強を掛けて近道へと走り出す。
髪色や目の色を戻し、髪をほどきながら誰かの家の隙間を抜けて、屋根の頑丈そうなところを通り抜ける。
やがて孤児院の敷地を囲む壁と門が見えた。知らん民家の屋根から飛び降り、門の前まで回り込む。
「間に合ってくれ!夕飯抜きは嫌だ!」
門番よろしく仁王立ちする院長の息子の前を通過した瞬間、六時の鐘が鳴った。
ギリギリセーフ……!
なお、門限に間に合わなかった顔ぶれの中に、先ほど肉を与えた少年がいたのを見たタイミングで、やっと彼が同じ孤児院のひとつ下の子だと気付いた。
道理で見たことある顔だよ。
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