第十九夜 隣人

これは私の実体験です。


私は働きだして間もない頃、お金もそれ程無かった為、格安の集合アパートに住みました。


そのアパートには私以外にも何人か住んでいましたが、何人住んでいるのは把握していませんでした。


とある日、ドンドンと隣人から壁を叩く音がしました。

物音も立ててないし、うるさくしてる訳でも無いのに叩くなんてと物凄く腹が立ちました。


数日後にも同じように叩く音がします。

何か助けを求めているのか?と思いインターホンを押しても出てくる気配がありません。


何だやっぱりイタズラか!と思い、後日大家さんに言いに行きました。


隣から壁を叩く音がして、本当に迷惑をしていると言うと、大家さんは「お隣さん?」と不思議そうな顔でこっちを見ています。


何か嫌な感じがしました。

「お隣さんはいないわよ…もう数十年もあの部屋は空き家で…」と大家さんは言います。


「いやいや、ハッキリと音も聞いてますし、絶対に何か居てますよ!」と言いました。


大家さんは重い口を開きます。

「あの部屋ね…実はいつもあなたの借りてる部屋に住んでた人から同じクレームが来るのよ…」と言います。

「以前に住まわれてた方って?」と聞くと、「あの部屋は数十年前に80代位のお爺さんが借りてた部屋でね…とても人が大好きな方でご近所さんとも仲良くしてたんだけどね、娘さんが事故に遭われて亡くなってからは人が変わったように家に籠もりっきりになって、それからしばらくして家賃が払われてないし、外出もしてない感じだったから部屋に合鍵で入ったら、お爺さん浴室で自殺してたのよ…もっと早く気づいてあげていればって後悔しかないわ…」と大家さんは言いました。


そして、その部屋を大家さんと入り、私の部屋のドンドンする音の場所は隣家の浴室になっていました。


もしかしたら早く気づいて欲しいと言うお爺さんの思いが、私の部屋を叩いていたのかもしれません。


第十九夜 隣人、終わりです。

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