第十六夜 喫煙所

この話は病院に勤める山倉さんから聞いた話です。


山倉さんは大病院で看護師をされていて、今現在もその病院に勤められています。


山倉さんがこの病院に来て間もない頃、肺がんを患って入院されていた緒方さんは何度も何度も注意されながらも、喫煙所で隠れてタバコを吸っていたそうで、病院内でも要注意の患者さんだったそうです。


深夜、巡回していると喫煙所から煙が見えることは多々あったそうで、「これを最後にするから」と平謝りするのが緒方さんのお得意芸になっていたそうです。


それから、しばらくして緒方さんは肺がんの進行に伴う合併症が原因でお亡くなりになられました。


色々な事があっても、亡くなられるとあの巡回をしていた時にタバコの煙が見えるのが懐かしく思えることがあったそうです。


そんな時でした、深夜いつものように巡回していると喫煙所から煙が見えます。

緒方さんが亡くなって以降、深夜に喫煙所でタバコを吸う人がいるのか?と喫煙所に行くと煙は出ていない上、人もいてない事が多々あったそうです。


山倉さんはしばらく、そんな事が続いていて他の看護師さんに相談したりしていました。

他の看護師さんも何人か同じ体験をしていました。


それから数日経った時でした。


山倉さんが深夜に巡回をしていると、煙だけでなく間違いなく緒方さんと思われる姿が喫煙所にありました。


「緒方さん…?」と言うと、緒方さんの形をした人影がゆっくりと振り返り、微笑んだそうです。


その時の顔は、いつもタバコが見つかって平謝りをしていた緒方さんでした…。


しかし、所々が透けていてやっぱり生きてる人では無いと思ったそうです。


その件以降、喫煙所の緒方さんが隠れていた場所にタバコをお供えしてあげたそうです。


緒方さんの亡霊も49日経つとパタッと現れなくなったそうです。


緒方さんはあの世に行く道中でも、好きだったタバコを吸うためにこの喫煙所に現れていたようでした。


山倉さんはこの体験から、色々な患者さんがいるけれど人生の最後に近い人にはなるべく、自由にさせてあげるようにしているそうです。


第十六夜 喫煙所、終わりです。



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